外伝 戦場 04

    ◆



 ルード軍、キャンプ地。

 この村への襲撃もほぼ完了しているので、もう撤退に入りつつある。

 今回の襲撃については、村の長の身柄確保とか、隠していた武器の始末とか、はたまた村人の全抹殺と、そういう目的はない。

 文字通り襲撃だけ。

 ただの襲撃。

 強いてその理由を上げるのならば――新型兵器の実験場にするため。


「動作はしたものの、それが実戦ベースでどうなるか分からないからねー。やっぱり実戦は実戦で試さなきゃあたしゃ心配だよー」


 新型兵器の開発者はそう言いのけた。

 この一言だけで始まった作戦だ。

 開発中の兵器の実戦投入実験。

 故にこの村に何の非はない。

 ただ地図から消えても分から無さそうだからという理由だけで選ばれた。

 理不尽だと思う。

 だが、それが強国の理論だ。これに対抗できるのは現在はウルジス国でしかないだろう。

 だからこそ占有化している不要な村で実験したのだ。ウルジス国に知られることを防ぐために。

 その不要という表現にも、差別的な意味がある。

 肌の色や目の色、髪の色。

 人と違うモノを受け入れないのはいつの時代だってそうだ。

 故にそこにいる兵士にも罪悪感は少ししかない。


「早く帰りてえなあ」

「だな。もう終わってんだからさあ」


 キャンプ地の入り口に見張りとして立っている二人にしてもそうだった。

 彼らはパイロットではなく、実験中に散開した村の人々の息の根を止め、開発中のロボット――ジャスティスについて口を滑らせないように文字通り『口止めをする』役割だった。

 今はその殲滅作業も終わり、隠れている人間がいないかを他の人間が行っている中で、キャンプ地の見張りという末端作業についていたが故に、暇を持て余して呑気に会話をしていた。


「っていうか今回の件って色々秘密にしなくちゃいけねえんだろ?」

「そうらしいな。あのロボットのことについては絶対他言無用だってさ。何か誓約書書かされただろ?」

「あー、あれか。漏らしたら一族郎党皆殺し、って奴だよな」

「ああ。他の奴が漏らしても、っていうのがえげつねえよな」

「だからあの村の人間を皆殺しにしなきゃいけないってことだしな」

「……まさか、この任務が終わったら俺達も殺されるってことはないよな?」

「んなわけねえだろうよ」


 片方の男が軽く笑い飛ばす。


「俺らは生粋のルード人だぜ。それに秘密を守らせる誓約書を村人一人一人に書かせることが出来る訳ないんだから、皆殺しっていうのはそういう理由でやってんだろ」

「そ、そうだよな……あはは」


 一方の男は歪んだ笑いを見せる。まだ心の中では納得していないという様子を見せるが、隣の男は敢えてそこには触れずに話題を逸らす。


「というかお前見たか? 司令部にいたあの美人の金髪の人」

「……おいおい。あの人あれでも三〇を超えているらしいぞ」

「マジか。見た目完全に学生だよな。それどこ情報よ?」

「分かんないけど、でも噂で聞いていたんだ。開発部のトップはかなり見た目若いけれど一〇年以上あのままだぞ、って」

「あれが噂のか……ってか見たら納得だな、その噂通りってのも」

「ああ。まるで魔女みたいだよな」

「おっと。魔女がいるかもしれない、ってのがなんだから、あまりそれは言っちゃ駄目だと思うぞ」

「そうだった。すまんすまん。……そういえば魔女ってさ」

「ん?」

「ルード国にいた魔女ってやつだよ。あれって本当だと思うか?」

「思うやつなんかいるのかよ」


 男は一笑に付す。


「つい最近までルードにいたらしいとか、どんどん更新されている都市伝説みたいなもんだろう?」

「だよなあ。魔女って言うならばさっき言った通り開発部のトップの方だよな」

「また言うか……まあでもそうだよな。あの若さを魔女から貰った、とかは有り得そうだよな」

「なんならあのロボットも魔女の力だったりして」


 まさか、と二人は笑う。

 暇つぶしの話のタネとしては適してはいたが、魔女という存在を信じていない以上、そんな異能の力なんて存在しないと彼らは嘲笑する。 


「あ、そういえばあのロボットっておかしいよな」

「何がだ?」

「ほら。ここってキャンプ地だろ? なのにさ……あ、そうだ。クイズにしてやろうか」

「クイズ?」

「ここに通常あるべき『』が極端に少ない。それが何か分かるか?」

「あるべき『あるもの』が極端に少ない……?」

「ヒントは、そうだな……『戦車の分しかなさそうだ』ってところかな」


「あ、分かった。――だ」

「正解」


 青年は、にっ、と笑う。


「このキャンプ地には燃料がとにかく少ない。あれだけ数台のロボットがいるにもかかわらず、戦車分の燃料しかない」

「それっておかしいよな。あれだけの機体なんだから燃料もそれなりになくちゃいけないだろうし」

「そもそも燃料が何かって分かっていないけどな」

「あ、分かった。燃料って魔女の魔力なんじゃないか」

「そこに繋げるのかよ」

「お、噂をすれば」


 と、青年の一人が視線を遠目に移す。

 巨躯に似合わない静音で近づいてくる、一機の黒色のロボット。


「なあ、パイロットに聞いてみようか」

「いいんじゃね? 答えてくれる気がしないけどな」

「おーい」


 青年の一人が手を振る。


 だが――次の瞬間。

 青年の身体は

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