第133話 交渉 12
王が頭を下げる。
――この意味が判らない人はこの場にはいなかった。
口頭では「失礼」だの言っていたが、完全なる謝罪は全く無かった。
だが、これは完全に違う。
自らの非を認めた。
同時にそれは、他のことも認めたことにもなるのだ。
――ジャスティスを所持しているということも。
「何を言っているのですか王よ!」
「そうです! 我が国にジャスティスなど存在するわけないじゃないですか!」
「頭を下げる必要などどこにもないじゃないですか!?」
「黙れっ!!」
一喝。
ウルジス王は周囲の大臣達の口を閉ざさせる。
「……お前達は分かっていない。もう全てこの二人には分かっているのだ。私達の全てを。この国の最大の禁忌をも、だ」
「……っ」
言葉を失う大臣達を一瞥した後、ウルジス王は観念した様に滔々と語りだす。
「確かにその通りです。ウルジス国はルード国のジャスティスと同等戦力を保持することで、ルード国の侵攻を抑制しておりました」
「ゼロから作成したのか?」
「いえ、あれをオリジナルで作る技術はありません」
「ということはやはり、か」
クロードは得心がいったというように頷いた。
「あの中でオリジナルは一体だけ――ってことだな?」
「ええ。後はオリジナルから劣化していると言っても過言ではありません。それでもジャスティスはジャスティスですがね」
言い訳はしない。
オリジナルではないにしろジャスティスを所持していることは間違いないのだから。
「細かい所は後で聞くとして――さてウルジス王よ」
机という垣根がなくなったウルジス王との間を詰めながら、クロードは再度訊ねる。
「謝罪などいらない。そんなモノは何の価値もないのだからな」
「……分かっています」
「理解しているならば何故俺に頭を下げる? 頭を下げたその先があるからだろう? だったらそれを早く言え」
「……どこまでもお見通しなんですね」
ウルジス王は認めた。
心の中でようやく認めた。
クロード・ディエル。
彼を舐めすぎていた。
ここまで至ってしまったのはそこが根本的原因だ。
もうウルジス国は『正義の破壊者』に対して対等な関係ではいられない。
――このままの強気の態勢であれば。
「クロード殿。もう一度、交渉させていただけないでしょうか?」
「何をだ?」
「我々は同盟を結びたいと考えています。その為の交渉です」
「ほう。新しく条件を出すということだな?」
「ええ。お恥ずかしながら、ここまで言われてようやくあなた方が我々に求めていることが理解出来ました」
すぅ、と一つ息を吸い、そしてハッキリとウルジス王は告げる。
「先の四つの条件に加えて、あなた方のお力を貸していただけるのであれば――ウルジス国で所有しているジャスティスを全て破壊いたします」
「違うな、ウルジス王よ」
バッサリと切り捨てるクロード。
「お前達が選ぶんだ。俺が選ぶんじゃない。――その意味を把握しろ」
「私達が……選ぶ……?」
少しの逡巡の後、ウルジス王はハッと顔を上げる。
彼が求めている意味が判った。
ウルジス王が言ったことも間違っていない。
要は提示の仕方だけだったのだ。
「クロード殿。もう一度提示させていただきます」
ウルジス王は意を決して告げる。
「我々は所有するジャスティスを全て破壊いたします。だから同盟を組んでいただけないでしょうか?」
場が再び静寂に包まれる。
そこにいる誰もが言葉を発することを躊躇われた。
そして、その誰もが理解しているだろう。
ウルジス王の発言は完全なる敗北宣言。
大国であるウルジス国が『正義の破壊者』に屈した瞬間である、と。
――いや、違う。
明らかに一人だけ、そう認めていない人物がいた。
「その言葉だけで信用できると思っているのか?」
クロードだった。
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