第14話 規則十三条 台風前夜

 玄関の惨状をみてため息をつく。

 観音開きの二枚のドアが外れて倒れてる。


「先日直したばっかりなのに。ま、しょうがない直すか」


 俺に連れらてる八葉は黙っている。


「僕を怒らないのか……?」

「んー」


 俺は扉を見ながら言う。


「ワザとじゃないんだろ? 次気をつければいいんじゃないかな」


 下を向き喋る八葉に言葉を返す。


「それより、手伝ってくれ。俺一人じゃ扉をもてない」


 俺の指示で扉を押さえる八葉。

 重い扉を簡単に持ち上げてくる。


「凄いな」

「軽蔑しただろ」


 軽蔑って俺でも使わない言葉を使ってくる。


「あのなー。まぁ子供は子供らしくしとけ。俺は別になんともおもわんぞ、逆に凄いと思うぐらいだし、マルタ、それにテンを見てみろよっぽど変わってる二階から飛び降りるし、火はバンバン出すし」

「変わった人間だ、所でアヤメおねーちゃんが入ってないのはワザとか?」

「当たり前だろっ! アヤメさんは特別なんだよっ」

 

 俺の言葉に少し頷く八葉、扉の修繕が終る頃に食堂から皆が出てきた。


「お疲れ様です。ご夕飯で食べたい物はありますでしょうか?」

「おつかれやな~」

「そーだなー……八葉食べたい物あるか?」

「僕!?」


 怒ったり驚いたり忙しい子供だ。


「どの道、台風が来るんだし暫く泊まるんだろ?」

「しかし……」

「無いならウチの希望は、から揚げとイカリング上げと酢の物と……テンちゃんは?」

「油揚げ」

「さ、変な大人は無視して何食べたい?」


 俺の言葉に非難した目を向けて。ビールを片手に指を折って数えてるマルタに突っ込みを入れる。


「それじゃ……ハンバーグ」

「お。いいね。アヤメさんお願いできるかな」

「わかりました。美味しいの作りますね」


 台所に消えるアヤメさん。


「はっちゃん、長旅だったんでしょ? お風呂で汚れを落としてきなさい」


 テンが八葉の頭を撫でると風呂場の場所を教え始める。


「いや、突然きてお風呂だなんて僕はいいよ」

「かー。用は匂うって事や、さっさと入ってこんかい。それともアヤメおねーちゃんが居ないと風呂も入れないわけじゃないやろ?」


 な、子供だったらアヤメさんとお風呂に入れるのかっ! 俺はプルプル震える手で八葉を見た。


「僕を誰だと思ってるんだっ! 風呂ぐらい一人で入れる」

「そか、なら。あっちにあるさかい。うちは御飯できるまで食堂にいるさかい、何かあったら声かけてーな」


 手をひらひらと振りながら食堂に消えていく。

 八葉もぷんぷんしながら庭にある大浴場へと姿を消した。


「風呂か……」


 俺も自分の服の匂いを確かめる。ちょっと汗臭くなってきてる。

 朝から動きっぱなしだったのでベトベトした感触が肌に付く。

 そうだ、手を打ち急いで自室へ戻る俺は押入れを開けた。


「あいつ、着替えないだろうなー。俺の中学の時の服が確かこっちに……あったあった。邪魔な荷物とおもったがあってよかったな。パンツとシャツとあとは、シャンプーとリンスは男なら要らないか……こんなものか」


 裏庭をみると浴場の小屋から湯気が見える。


「なんか弟が出来た気分だな。小生意気な弟の為に背中でも流してやるか」

 

 しみじみと感想を言ってみる。

 俺は自室から裏庭にでて浴場へあるく。食堂のほうをチラリと見るとアヤメさんの指示の元だろう、野菜を切るアヤメさんにテンとマルタでひき肉をこねている。

 風呂場へつくと浴場の板がそのままだったので入力中に切り替える。

 脱衣所にある几帳面に畳まれた服を見て性格がでるなと服を脱ぎ始めた。


「フフフン~フフッフフン~フフフ~ンフフフフン~」


 子供の時に見たアニメの歌を鼻歌で歌う~。


「おーっす。どうだー着替えもってきたぞー」


 裸一貫になりタオルを背中に、大きな音を立てて曇りガラスのドアを開ける。

 洗い場には居ないか、湯気が多いので浴槽のほうにぼんやり人影が見える。

 

「せっかくだ背中でも流してやるよ」


 浴槽では八葉が口をパクパクさせている。


「汗かいたからな~俺も入ろうとおもって」


 浴槽からお湯を汲み取り体に掛ける。

 良く見たら八葉はタオルで体を隠すように小さくなってる。

 先ほどから話しかけてはいるのに、眼がこっちを見てないし口をパクパクさせたままだし。

 俺の股間をみてる? 恥ずかしいな。


「なーに見てるんだよ」


 おれは浴槽に入りつつ八葉のタオルをもぎ取る。

  

「それに、浴槽にタオルは厳禁だろ。どうせ男同士なんだし」

「あ……」


 お、はじめて小さく喋った。

 ざぶんとお湯に漬かる。

 勢いよくはいったのでお湯が隣に居る八葉にかかる。


「お悪い悪い、でも。お湯も滴る良いおと……」


 俺は最後まで喋らないで固まる。

 目の前の八葉の胸が少し膨らんでいる。

 視線を少し下げると、本来男に付いてる物が無い。

 軽いめまいを覚える。

 八葉も俺を凝視している。おもに股間を。

 俺の右手には八葉のタオル。肩には自分のタオルがある。

 そっと八葉のタオルを返す。

 俺からタオルを受け取った八葉は無言で体の前を隠す、俺も自分のタオルを腰に巻き無言のまま浴槽から出る。そして脱衣場に向かう曇りガラスのドアに手をかけて時、後ろから声が聞こえてきた。


「この大馬鹿やろおおおおおおおおおおおおお」


 叫び声とともに後頭部に激痛が入る。

 倒れる瞬間に見えたのは一部壊れた風呂桶だった。

 死ななくてよかった、俺はそうおもう。

 フラフラに成りながら何とか服を着替えると大浴場の扉が勢い良く開け放たれる。心配したアヤメさん達が此方をみていた。


「あ、アヤメさん。八葉が八葉が……」


 言葉を察したマルタがアヤメさんの後ろから声を掛けてきた。


「八葉は女の子やねんよ」

「もう少し早めに知っておきたかったです」


 アヤメさんの胸で倒れこんで気絶する。

 食堂のソファーで俺はアヤメさんが作り出した氷枕で後頭部を冷やす。

 既にお風呂から上がった八葉は裸を見られて怒っている。


「婚約の話も八葉が女の子なので自然と解消されたのよ」

 

 テンが台所にいるアヤメさんの変わりに説明してくれる。

 台所では他の三人がハンバーグを焼いている所だ。


「アヤメねーちゃん。こんな痴漢と一緒にいたらダメだ」

「秋一さんも間違えただけですし。ね」


 何が、『ね。』なのか八葉をなだめる。


「あー。八葉……ちょっと来てくれ」


 俺は怒っている八葉に声をかける。


「何……」


 相変わらず怒っているが此方に来てくれた、いくら間違えたとはいえ俺のせいでトラウマを与えたら困る。

 綺麗な土下座を八葉に向ける。


「ごめんなさい」


 自分より大きい大人が土下座をして謝ってくる。そんな事は今までなかったのだろう、八葉は口をパクパクさせている。


「しゅうちゃんも謝ってる事やし、どーする?」


 助け船を出してくれるテン。


「ふ……ん。しょうがないから許してやる!でも、まだアヤメおねーちゃんの恋人って認めたわけじゃないからな!」


 このツンデレめ。心の中だけで閉まっておく。


「はーい。それじゃ仲直りした所で御飯にしましょう。今焼き上がりました、冷めないウチに食べましょう」

 

 高級レストランと変わらないぐらい。綺麗なハンバーグがお皿に盛り付けられる。

 匂いも素晴らしいしこの堪らない音が食欲をそそる。

 五人になった食卓は華やかになり自然と会話も弾む。


「八葉今夜の部屋はどーする?」

「其処のソファーでいい」

「なんや、シューイチ君の言い方がやらしいのー」


 俺との会話にマルタが突っ込む、ソレを無視しながら話を進める。


「所でアヤメさん空き部屋使っていいかな」

「私の許可は取らなくてもお任せします、でも良いと思います使ってる人も居ないのでソファーで寝せるわけにわいかないですし」


 ご飯を食べながら会話をする。


「んじゃ八葉、今夜は空き部屋を使って、鍵は後で渡すから。んで明日にはちゃんと電話しとけよ」

「お前にも家族がいるだろう」


 突如ドヤ顔で喋るマルタを他所に会話が弾んでいく。


「ん、わかった二人ともありがとう」


 こういう所は割りと素直なんだなと顔を見る。

 

「ご馳走様でした」


 全員が食べ終わったあたりから外では雨の音が聞こえてきた。

 アヤメさんは台所で食器を洗っている。


「あちゃーとうとう振ってきましたね」

「せやなー、そや。八葉良く眠れるジュースやるさかい」

「どうせ酒でしょ」

「ばれたか……って、テンちゃん険しい顔をしてどしたん?」


 見ると何時もと違い真面目な顔をしているテンがいた、その目線は八葉が持っていた鞄に釘付けだ。


「さてさて、強硬派も動いてきましたか」


 無造作に鞄に手を入れると一枚の綺麗な封筒を手にした。表には雪乃アヤメ様へと書かれていた。


「はっちゃん、これは?」


 封筒を見せられてキョトンとしている八葉は驚きながら答える。


「な、ボクはそんな封筒持ってないはずだよ」

「でしょうね。ありがと確認よ」


 パタパタと台所からアヤメさんが戻ってくる、テンの手にした封筒をスっと奪い取ると突然封を切った。


「あら、私宛ですか? なんでしょう」

「あ、まって」


 あけた途端に白い煙がアヤメさんへと降りかかる。即座にテンが大量の狐火でその煙をはじき飛ばすと床に倒れているアヤメさんが居た。

 俺達の目線がテンに集まると簡単に説明してくれる。


「んーだいじょうぶ、命には別にもんだいなぃ」


 妖力を使い小さくなったテンはその封筒を摘むと中身を確認し始めた。俺と八葉はアヤメさんが倒れた事により慌てるが、マルタとテンは直ぐに行動を起こしはじめた。


「粗方の毒は吹き飛ばしたけど。どんな効果までは解らなぃですぅ」


 特に八葉は問題の封筒を持ってきただけあって今にも死にそうな顔をしていた。


「ほれ、二人ともそんな顔したってしょうがないや。命に別状はないんだし、あとはウチに任せて休みい」


 返事も待たずに俺達を食堂から追い出す、気を失ったアヤメさんを介護しマルタは二階へと上がってお開きになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る