存在証明のアポトーシス1~稲穂は黄昏に揺れて~
古縁なえ
終わりの30日のプロローグ
黒歴史
突然だが、ここで俺の歴史を披露させて欲しい。
園児時代、気になるあの子にモーレツアタックするも実らず。愛しのあの子に号泣され、そこまで嫌だったのか、と初めて理解。
子供ながらに集団的過剰自衛かってぐらいに容赦なく浴びせられた絶対零度の視線と罵倒の数々のおかげで、俺は園児にして異性に対して並々ならぬ苦手意識を植え付けられた。
これは後に語られる『涅槃の犬』の伝説の始まりに過ぎない。
小学生低学年の年齢になると冷戦が続く。
トラウマを引き摺って、友人は同性だけで固めた。
俺は同学年で誰よりも先にアレを習得して、
そう……はやぶさだ。
そして、3重を経て神となった。
革命集団『煉獄の銀狼』なる謎の組織を立ち上げ凡そ4年、自他共に認めるボスとして君臨し、同年代の同性に毒電波を発信する。
煉獄の銀狼を次世代の少年達に任せて小学校を卒業する頃になっても、俺は極度に異性が駄目だった。
煉獄の銀狼は『地獄の番犬』となり、軍団員を引き連れて中学校へ攻め上がる。
意気軒昂と学校を制圧しようと試みるも、先客、いやさ代々から学校を支配する自治組織『楽園の天使達』によって強固な守りを誇っていた。
戦争は熾烈を極めた末、俺達『地獄の番犬』の敗北に終わる。
無惨にも三つ首はもがれ、首を失った胴体はその巨躯を学校の敷地に横たえた。
敗因は多分歳の差。軍団は解散に追い込まれ、俺は一匹狼となる。
相変わらず女子は苦手。でも友達作りは苦手じゃなかった。
次々と男友達を増やしていく俺、中2ぐらい。付いた渾名は『ガチホモ』。
いじめか。
甚だ遺憾だったので園児時代のトラウマをぶちまけたら、男子一同からは畏敬の念と共に『ゆうしゃ』と呼ばれるようになる。ただし、女子にはとことん引かれた。
構わない。俺を崇める友が居る限り、俺は信者の神であり続けると誓った。齢14にして、俺は悟りを開く。『涅槃の犬』誕生の瞬間だった。
名実ともに神格化された俺は満を持して中学校征服の再戦に踏み切る。
世が世なら、或いは歴史の教科書に載っていたかも知れない一進一退の攻防の末、俺は遂に野望を……成し遂げられる筈もなく。
圧倒的に女子力が足りなかった俺の軍勢は、女子達の弾圧によって脆くも崩れ去った。
仕方ない。彼等は皆思春期だったのだから。
俺のように園児時代に思春期を超越している人間がそういるわけない。俺は清清しい程に達観していた。
敗残者の俺は一年を肩身の狭い思いで過ごす。この頃には――同学年の者達の半分以上が
それから約1年後、俺はその集団から追放される。音楽性の違いだとか、そんなのと同じ。要は相性の問題。在り来りな理由だ。
振り返ってみれば、彼等は常に怯えていたように思う。
俺がくだらない人生譚を作り上げていく中で、無為に消費する時間を恐れていた。
是非を問う。
『己の人生に意味があったのか』を。
命あっての物種と言うけど、確かに、生きる事が難しくない世の中になるとこれは命題になる。
くだらない人生。無意味な時間。多分、それが老いて死を意識する瞬間まで、ずっと続く筈だったんだ。他にきっかけでもない限りは。
生きたい連中も死にたい連中も、例外なく無関係に。みんな、消えてしまった。痕跡すら残さず、綺麗さっぱりと。
ただ、誰かが居たのだと。これまで消えていった人間達の一人になる。
立つ鳥は後を濁さない。神による存在否定。参照されるデータごと、誰かが消滅する。
「俺もいつかそうなるんだろうと思ってたけど、現実になってみると──」
起床したばかりの俺の掌には新しい雪みたいに透き通った真白をしたヒトヒラの神秘の羽根──ではなく、神様が寄越した二つ折りになった一枚の簡素な手紙。寝ぼけ眼で開いて内容を確認。
「――それなりに堪えるもんだな」
貴方は30日の猶予期間の後、この世界から消滅しますよ。その予告が俺に届いた。
今日も世界では忙しなく誰かが消滅している。
明日も明後日も誰かが消えて。
30日後は俺の番。
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