▼第一章『仄暗い水の底から』 ♯1
【航宙日誌 西暦22××年○月×日 サティ・ヌニエル記録】
その時、ワタクシは辛うじてではありますが、三隻分のア
三隻一体となったア
その時……ア
が、それには割と大きなリスクも伴いました。
その実行にはワタクシ達が太陽上空から太陽表層にあるワープゲイトに向かって……つまり太陽の真ん中に向かって真っ逆さまに突っ込む必要があり、生き延びたければ、オリジナルUVDを取り除くと同時に、消え去る直前のワープゲイトに飛び込むしかなかったからです。
ワープゲイトを回避すること自体限り無く不可能でしたが、もし回避できてしまったらしまったで、太陽にそのまま突っ込むことになっちゃいますからね。
その瞬間、ス|
そしてオリジナルUVD二柱を含む〈じんりゅう〉級三隻分の推力で、とってもとっても強引かつ乱暴に、オリジナルUVDでできたワープゲイトの輪の中から引き剥がしました。
当然、ス|
何しろ最大推力で降下してるところで、止まっているオリジナルUVDを引っ掛けたのだから当然です。
実上オリジナルUVDに激突したのと同じ衝撃が加わったことになるはずです。
もちろん、その衝撃の大半はUVワイヤーとUVエネルギーを用いて相殺されましたが、全て完全にというわけではありません。
相殺しきれなかった衝撃がブリッジ内に響き、アミさんはこの時に昏倒してしまった程です。
ユリノ艦長他のクルーの皆さんも、もし【ANESYS】中でなければそうなっていたことでしょう。
そしてオリジナルUVDを引っ掛けた際の衝撃は、艦にも大きな影響を及ぼしました。
この時、ス|
メインフレームがオリジナルUVD
もちろん主機関がオリジナルUVDになったことも理由の一つでしょう。
ですが残念ながら、主機関がオリジナルUVDでもなければ、そんな無茶な振舞いを想定してもいない〈ファブニル〉の方はそうはいきませんでした。
ワタクシは前方を捉えたカメラ映像の中で、UVワイヤーで繋がれた二等辺三角形の先頭を進む〈ファブニル〉のその左右両舷で、UVワイヤー接続部が根元部分から千切れるのを目撃しました。
片方は〈ファブニル〉舷側のオプション取り付け部ごと〈ナガラジャ〉のUVワイヤー先端の補助エンジンナセルが引き剥がされ、反対側では舷側に接続されていた無人駆逐艦〈ゲミニー〉の片割れが爆発して、結果としてUVワイヤーは左右とも外れてしまったのです。
その出来事に対し、ア
それどころでは無かったとも言えます。
その時点ですでに、ワタクシ達の乗る〈じんりゅう〉級三隻はワープゲイトを潜り抜け、太陽表層から数十億キロを一瞬で飛び越えて、あろうことか【
ワタクシ達はグォイド大艦隊の艦と艦との隙間を猛スピードで通過しました。
というよりすれ違いました。
これからワープゲイトを通過しようする大艦隊との相対速度差は、仮に接触しようものなら実体弾の直撃を受けたようなもので、グォイド艦の方々にほんの少しでも触れたら即アウトです。
もちろん、突然闖入してきたワタクシ達に対して、グォイド艦隊の方々から盛大に迎撃されてもアウトです。
〈ファブニル〉もやばいでしょうが、いかにオリジナルUVD搭載艦である〈じんりゅう〉と〈ナガラジャ〉とて、その圧倒的戦力差の前では、一方的に殲滅されてもおかしくないでしょう。
…………ですが、そんな心配は無用でした。
あまりにも相対速度差がありすぎて、グォイド大艦隊は〈じんりゅう〉級三隻を迎撃するどころが、その存在に気づいた頃にはすれ違った後だったのです。
それにグォイド大艦隊の方々には、〈じんりゅう〉とは別の問題が発生していました。
飛び込もうとしていたワープゲイトが、ワタクシ達によって消滅しようというまさにその瞬間に、艦隊先頭のグォイド艦がワープゲイトの境界に触れ、真っ二つにされてしまったのです。
ワープゲイト境界の数十億キロの距離の差が、厚みゼロの刃になっちゃったんですね。
そして真っ二つになった幾隻のグォイド艦は、当然のごとく大爆発し、そしてそこへ、これからワープゲイトに突入して、内太陽系で大暴れしようとしていた大艦隊が殺到しました。
地上のニンゲンさんたちの社会で言うところの“玉突き事故”とでも言うべき事態が起きました。
先頭で起きた大爆発に、後続の艦が避ける間もなく次々の追突し、連鎖爆発していったのです。
それでダメージを受けたのは、大艦隊の内の数割でしたが……。
大急ぎでワープゲイトを通過しようと、密集してなおかつ加速してたのがまずかったのでしょうね~……。
お陰でワタクシ達の乗る〈じんりゅう〉級三隻は、大艦隊がその玉突き事故で混乱していたお陰でほぼ無視され、的にならずに大艦隊のど真ん中を通過できました。
ですがまだ安心はできません。
ワタクシ達の行く手には、グォイドの移動する本拠地【
そうそう! その大艦隊を後方に見ながら去る時に、ワタクシは大事な発見をしたのです。
消滅するワープゲイトの周囲に、もの凄く沢山のオリジナルUVDが輪になって浮かんでいたのを。
…………でもそれが何を意味するのか、その時のワタクシには分かりませんでした。
それどころじゃなかったからです。
この時点でア
ですがその使い道はすでに決まっていました。
【
ア
すでにアミさんから〈ウィーウィルメック〉経由で分かっていたことですが、【
巨大な……という表現では生易しすぎますね。
銀色のドーナツとは言っても、そのように見えたのは一瞬で、すぐに接近し過ぎて全体像なんて分からなくなってしまいましたから……。
それでいて近づいても近づいても、まだガス大気に突入しないものですから、ワタクシは騙されたような気分になってしまいました。
〈じんりゅう〉級三隻の行く手にあったのは、超高速でゆる~い弧を描いて流れるガス大気の内壁でした。
【
ワタクシ達には大きくカーブして【
ワープゲイトを通過した時点で、回避が不可能なレベルで【
そして【
ですからワタクシ達は【
この状況に対し、ア
そもそも横倒しの移動するガスの竜巻という時点で、この宇宙ではとてつもなく不可思議な存在らしい【
ワタクシ達にはガス大気を利用する以外の選択肢はありませんでした。
ワタクシ達が乗る〈じんりゅう〉級三隻は、過ぎ去った大艦隊の射程距離外に出るなりすぐさま180度回頭し、艦尾を進行方向に向けて最大出力で噴射をかけると同時に、【
行動だけを説明するとそれだけなのですが、ワタクシの表現力の限りを用いて例えるなら、小さな小さな虫さんが、回転する洗濯機のドラムの内側に突っ込もうとするようなものでした。
とても安全な行いとは言えませんが、自力で減速するより速く、またガスの無い【
【
高速で擦過する白い雲のように、円筒の内を流れるガス大気に船体が接触するのと同時に、ガンッという船体をぶん殴られたような衝撃がはしり、さらにせっかく灼熱の太陽の熱から解放されたのに、再び船体がガスとのダンネツアッシュクにより灼熱のプラズマに包まれます。
〈じんりゅう〉からも、ガスの彼方でオレンジに輝くベールに包まれる〈ナガラジャ〉と〈ファブニル〉の姿が、火の球となってガスの奥に光って見えました。
〈じんりゅう〉も外から見れば、その二隻と似たような状態なのでしょう。
ガス大気の中は視界はすこぶる良くありませんでした。
ましてや艦は今、ガス大気のダンネツアッシュクによるプラズマに包まれており、センサーの効きは非常によろしくありません。
もしもガス大気の中に何か個体の浮遊物でも漂っていて、それに衝突したら……と思うと気が気じゃありません。
と危惧していたそばから、進行方向に向けたワタクシのいる艦尾上部格納庫のハッチに、小さな……直径およそ40センチほどの穴が瞬間的に出現しました。
恐らく氷塊の一種と思われる個体が艦尾から激突したのです。
〈じんりゅう〉の速度が、ただ漂っていただけの氷塊を、UVシールドを貫通し、さらに格納庫ハッチをも貫くレベルの実体弾代わりにしてしまったのです。
その氷塊は艦尾格納庫のハッチを貫通し、さらにワタクシの肉体を貫通したところで蒸発してしまいました。
ワタクシの身体を貫通したことで減速したのか、船体奥への被害は免れたようです。
もちろんワタクシ自身は、ちょっと穴が開いたくらいは平気でした。
ですがワタクシは、役に立てたことを光栄に思う前に、心臓があったら口から飛び出そうな程ビックリしました…………ワタクシに心臓も口もありませんでしたが……。
ともかく、ワタクシの精神的疲労と穴の開いたハッチ以外に、〈じんりゅう〉に被害はないようでした。
格納庫内は元から真空状態だったので、減圧の問題もありません。
すくなくとも今は……でしたが。
その一方で、主機にオリジナルUVDを持っていない〈ファブニル〉は、覆すことなど不可能な絶対的減速推力の差ににより、〈じんりゅう〉と〈ナガラジャ〉よりも減速が遅れ、二隻からみるみる離れ、【
すでにUVワイヤーが両艦から外れていることもその理由の一つです。
そしてどうすることもできないまま、〈ファブニル〉を包む火球はガスの雲間へと見えなくなってしまいました。
〈ファブニル〉とのデータリンクが途絶え、ア
〈ファブニル〉の方の【ANESYS】がどうなったのか?クルー達は無事なのか? とても気になりましたが、こちらは自分達のサバイバルで精一杯でした。
〈ファブニル〉ほどではありませんが、推力に差のある〈ナガラジャ〉ともまた、徐々に〈じんりゅう〉との間の距離が開いていっているのです。
いかに主機がオリジナルUVDに換装された〈ナガラジャ〉とはいえど、船体フレームやメインスラスターの内部までもがオリジナルUVD
二隻分の思考力となったア
推力に差がある二隻が連結したままでは、返って危険だと判断したのでしょう。
敵本拠地のど真ん中で離れ離れになってはしまうのはいただけませんが、独立してそれぞれで減速した方が安全なのです。
UVワイヤーを外した途端、見る見るうちに〈ナガラジャ〉を包むダンネツアッシュクの火球が遠ざかっていきます。
こうして、とうとうア
【ANESYS】の残り時間も残り数十秒です。
減速行程は、前進する【
もし白い雲のガスを抜けた先の空間が、グォイドの皆さんのお家などで埋め尽くされていた場合、今度こそ〈じんりゅう〉は発見され、総攻撃を受けてオダブツかもしれません。
ですが白い雲を抜けた先にあったのは、水面でした。
ワタクシは木星のガス大気の底で生まれ育ったので、ガスの海以外の海はもちろん、地球上のあらゆる景色を実際に見たことは無いのですが、ニンゲンの方々が液体の水で出来た広い広い平面のことを海と呼ぶのであれば、それは正しく|“海”でした。
アミさん経由〈ウィーウィルメック〉からの情報で、【
なんで【
「そんなのアリかよ!?」……と、アミさんがもしも気絶してなかったならば言っていたかもしれません。
あるいは、もうそれくらいでは驚かないかもしれないですね。
【ザ・トーラス】や【ザ・ウォール】とかいったケッタイ極まる場所に行ったことがありますから……。
円筒の内壁に液体の水が張り付いていたのは、【
だって地球直径ほどもある筒の内側の話ですからね。
〈じんりゅう〉の行く手……上空を覆うガス大気の雲と、下方の水面との間の重力に対して上下逆の弧を描いた水平線(?)の彼方は、【
問題だったのは、減速を続ける〈じんりゅう〉が、猛烈な勢いでその水面へと吸い寄せられていたことでした。
ここまで真空無重力の宇宙を飛んでいたはずの〈じんりゅう〉でしたが、ガス大気の雲の接触することで減速を試みた時に、同時に竜巻の如くロール回転する【
ガス大気の雲もまた、【
〈じんりゅう〉がそのロール回転を無視できれば、遠心力に捕まることもなかったのでしょうが、それは現実的に不可能でしたし、一応ア
見る見る接近する水面に対し、まだ減速の終わらない〈じんりゅう〉の船体が接触しようとしたその寸前で、ア
盛大な水柱というか、まっすぐに連なった水の城壁めいたものが〈じんりゅう〉の行く手に登り上がり、それは左右に分かれて即席の
ア
UVキャノンで海面に巨大な溝を作ると同時に海水を泡立たせて、着水を少しでも遅らせると同時に、着水時のクッション効果を狙ったのです。
【ANESYS】が終わる直前でした。
ア
ですが、UVキャノンで開けた幅と深さが200mはあるトレンチに滑り込むことで、〈じんりゅう〉はその船体の左右と下面から包み込まれるようにして、再び平面になろうとする水に接触し、空中回転を防ぎました。
ですが、〈じんりゅう〉が時速数百キロで着水したことには変わりありませんでした。
何度目かという凄まじい衝撃が、ワタクシを盛大に格納庫内の艦首側の壁にベチャッとぶつけました。
まぁ痛いで済む範囲ではあったのですが…………。
〈じんりゅう〉の船体の方はもっと深刻でした。
〈じんりゅう〉の船体は、木星での【ザ・トーラス】での戦いの時は、木星深深度ガス雲の超高圧にも耐えたことがありました。
ですがその時〈じんりゅう〉は、木星上空から時間をかけて超高温高圧空間へと入っていきました。
今回の場合とはまったく状況が違います。
木星でのようにゆっくりと水中に入ったならば〈じんりゅう〉は平気だったかもしれません。
しかし今回は、本来0気圧無重力にしか対応する必要のない宇宙である〈じんりゅう〉が、灼熱の太陽での激戦からいきなり水の中に放り込まれてしまったわけです。
そして丁度着水の瞬間に【ANESYS】の限界時間が訪れてしまいました。
何が起きたのか詳しいことは分かりませんが、〈じんりゅう〉の船体からUVシールドが一時消滅し、直接水に触れた船体表面の全てから猛烈な勢いで泡が昇りました。
高熱の船体に触れた水が蒸発したようです。
そして〈じんりゅう〉は泡に包まれたまま、泡の発生する勢いでゆっくりと水平力しながら沈降していきました。
そしてワタクシのいる艦尾上部格納庫では、ついさっき氷塊の開けた穴から、猛烈な勢いで水が侵入してきていました。
浸水です。
格納庫内を真空にしていたことが浸水の勢いを最大限にまで強めていました。
【ANESYS】が終了したア
アミさんも目下のところ絶賛昏倒中です。
エクスプリカさんは健在でしたが、直接この格納庫の穴を塞ぐことができるわけではありません。
エクスプリカさん……あるは〈じんりゅう〉のメインコンピュータが指示したと思われるヒューボが数機が、格納庫内に急行してきましたが、格納庫の艦首側ハッチを潜って入ろうとした瞬間、膝の高さまで侵入した水の勢いで流し返されてしまいました。
……ですからこの問題に対処できるのはワタクシだけでした。
ワタクシはワタクシの身体そのもので、入って来る水の勢いに必死に逆らいながら、キュポっと水の侵入してくる穴に栓をしました。
まぁこの試みは、悪く無い作戦だったと思います。
[さてぃ! ソノママ頼ム!]
明らかに焦ったエクスプリカさんの声が届くと同時に、格納庫内にエアが送り込まれ、加圧されていくのを感じます。
格納庫内の気圧を上げ、水の侵入を防ぐと同時に、格納庫が潰れないようにするおつもりのようでした。
これにより、格納庫への浸水はストップし、事態の悪化は防げたかに思われました。
問題だったのは、件の穴に栓として突っ込んだワタクシの触腕の先を、何かが……あるいは誰かが掴んで引っ張ったことです。
それは吸引されたと言った方が正確かもしれません。
ワタクシは抗うことも叶わぬ程の猛烈な強さで、強引にその穴から船外へと吸い出されてしまいました。
出来たのは、完全に素い出される寸前に格納庫の内側でワタクシの身体の一部を千切り、栓として穴を塞いだままにしておけたことくらいです。
ワタクシは訪れてから1分もたたない敵本拠地【
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