▼第六章『スーパーコンボ!!』 ♯3
「オリジナルUVD74柱を納めた〈
残るオリジナルUVD38柱は、ムカデ・グォイドに奪取された模様。
〈じんりゅう〉一行は【ANESYS】マニューバを敢行!
ムカデ・グォイドの〈
「すでに太陽圏外縁を航行中だった〈ウィーウィルメック〉が〈
「…………」
――〈リグ=ヴェーダ〉作
待ち望んでいた戦況報告が、キルスティと他のクルーによってついに届けられたが、テューラ司令は難しい顔をしたまま何も言わなかった。
待ちかねていた報告ではあったが、喜ぶことも、落胆することもできない微妙な内容だったからだ。
そして、〈リグ=ヴェーダ〉に連絡が届いた段階で、事態はすでに数秒から数十前に過ぎ去った出来事であり、〈リグ=ヴェーダ〉が今いる位置からできることはほぼ何もなかった。
むしろこれまでに増して、精神衛生に負担をかけかねない報告だったとキルスティは思った。
「あの……〈じんりゅう〉達は……大丈夫でしょうか……」
「……………ふむん…………まぁ…………」
思い切ってキルスティが尋ねると、テューラ司令は大きく脚を組み直してからゆっくりと口を開いた。
「多分……きっと……なんとかするんじゃぁ~ないか……なぁあぁあぁ~」
首をひねりながら言葉を捻り出すテューラ司令に、キルスティはちっとも安心できなかった。
今届いた報告によれば、すでにムカデ・グォイドにオリジナルUVDが40柱以上奪われたことになる。
その時点で、ある意味今回のヘリアデス計画は失敗したと言えるかもしれないのだ。
だがテューラ司令は、どうやらキルスティほどには心配しないことにしたらしかった。
「いや……だってホラ、連中にはプランBがあるじゃないか」
テューラ司令は告げた。
“プランB”それはヘリアデス計画の太陽周回オリジナルUVD回収が、ある程度順調に進んだある地点で〈ナガラジャ〉のアイシュワリア艦長が提案し、テューラ司令により承認され、準備されていた対オリジナルUVDを狙う野良グォイドへの策であった。
当然キルスティもその内容について知っていたが、キルスティ的には、それで到底安心することなどできない内容であった。
“プランB”はグォイドに勝つ為の策では無く、どちらかというとグォイドに
プランBを実行せねばならない時は、相当にマズい状況になっているに違いないと思っていた。
とはいえ、仮にプランBが見事成功したならば、ムカデ・グォイドに一泡食らいは吹かせるかもしれない。
キルスティはそう信じるしかなかった。
数十柱ものオリジナルUVDをムカデ・グォイドに奪われてしまった時点で、〈じんりゅう〉一行はムカデ・グォイドとの対決は避けられなくなってしまっていた。
オリジナルUVDを多数有したムカデ・グォイドを放置した場合、約二年後の【
今届いた〈じんりゅう〉からの状況報告は、その未来を阻止すべくユリノ艦長達がムカデ・グォイドからの撤退ではなく、攻撃を選んだことを意味していた。
キルスティには、ただひたすら〈じんりゅう〉の勝利と無事な帰還を祈る他無かった。
自分達課せられた最優先任務である『戦闘宙域から離れた安全圏に留まり、〈じんりゅう〉一行に心配をかけない』を実行中の今、他にキルスティにできることはそれだけだった。
アミを演じているケイジがこのアイディアを閃いた時、もっとも懸念していたのは、〈ゲミニー〉こと〈ゲミニー〉級近接格闘無人艦が使えるかどうかであった。
同艦は、今はオリジナルUVD112柱を納めている〈
が、本来の〈ゲミニー〉は、分離したその双胴の船体の間に、〈ナガラジャ〉の使用するス|
双胴とはいっても、ニンジンのような緩やかな円錐形をした〈ラパナス〉級駆逐艦を、さらに小型化した上で繋げた事実上二隻で一隻の艦といってよかった。
今は二隻の〈ゲミニー〉のこの双胴を分割して、四角錐である〈
〈ゲミニー〉はこの状態であっても、不測の事態に備え、分離した船体の間はス|
ケイジが気になっていたのは、〈ゲミニー〉が、〈じんりゅう〉級の両舷にあるオプション装備用ハード・ポイントに接続することが可能か? であった。
〈じんりゅう〉級各艦には、オプション装備を堅固に接続する為に、メインフレームに直接追加装備を接続できるハード・ポイントが数か所あり、それらはこれまでにUVシールド・コンバーターなどが接続されることで活用されてきた。
〈ゲミニー〉もまたSSDFの航宙艦の一種であり、当然オプション装備接続部の規格は共通しているはずであった。
が、同じSSDF艦艇といっても、〈ナガラジャ〉と〈ゲミニー〉を建造したのはSSDF第三艦隊・火星防衛艦隊〈ディオスクリア〉であり、ついでに言えばス|
かなりのアレンジがされている可能性をケイジは心配したのだ。
実際、元の〈じんりゅう〉級の設計からの火星SSDFのアレンジが原因で、ついさっきまで〈ナガラジャ〉の主機関は予想外の問題に見舞われてもいた。
だからケイジは〈ファブニル〉の合流により、自分の閃きの実現の可能性がでてきた時、大慌てで〈ナガラジャ〉に問い合わせたのであった。
結果、ケイジのその心配は杞憂であった。
〈ナガラジャ〉に問い合わせた結果、〈ゲミニー〉は僚艦とドッキングしてブースター代わりとなる為の接続機構が両舷にあり、それは各〈じんりゅう〉級と共通の規格であった。
そしてもう一つ心配していた、〈ナガラジャ〉両舷のス|
その機構もまた、僚艦を牽引する、あるいされる時の為に設けられていたのであった。
ケイジは安堵すると同時に、運命に操られているような奇妙な気分を味わっていた。
ついでに〈ナガラジャ〉からは、主機関の調整作業がようやく完全に終わったことも伝えられてきた。
これでケイジの閃いたアイディアを実行可能な条件は、一応全て揃ったことになる。
ユリノ艦長はケイジの具申を、おそろしくすんなりと受け入れた。
ケイジにとってはプレッシャーでしかなかったが、迷っていられる状況ではなく、他に妙案が無い以上、ケイジの考えた戦術を採用するしかなかった。
すでにこの時点で、ムカデ・グォイドに追いつかれることが不可避となっていたのだ。
ケイジ考案の戦術は、まず〈じんりゅう〉の左右両舷に〈ナガラジャ〉と〈ファブニル〉を繋げることから始められる。
ただし間に〈ゲミニー〉と〈ナガラジャ〉のス|
ムカデ・グォイドが迫る中、〈じんりゅう〉をセンターにして、三隻の〈じんりゅう〉級がUVワイヤーを介して、数キロの間隔をあけて繋がった。
この作業時間中に〈
ユリノ艦長は〈
これまで〈じんりゅう〉級三隻、〈
ムカデ・グォイドは当然の如く加速し、遠ざかる〈
もちろん、それをユリノ艦長達は許すはずがなかった。
「全艦、アネシス・エンゲージ!」
久しぶりに聞くような気がするユリノ艦長のその声と共に、ブリッジ各セクションの座席から磁気共鳴スキャナーと共に四肢への固定パッドとが展開し、クルーの身体を固定、これから襲い来る高機動に伴うGからクルーらの肉体を守ると、彼女達は眠るようにして思考を一つに統合した。
それらの座席の変形は、ケイジの掛ける機関コントロール席でも同じであった。
磁気共鳴スキャナーと共に
「あ、エクスプリカ……サティ? ……ちょっとタンマ――」
ケイジは大慌てで【ANESYS】に繋がらない残り二人……つまり自分と同じ境遇なはずの二人のクルーに呼びかけたが、時すでに遅かった。
ケイジが助けを求める前に、艦内の慣性相殺装置を上回る急激なGの変化がケイジの肉体を襲った。
「きゅッ…………」
ケイジは自分でもよく分からない呻き声を、ただ無様に漏らすことしかできなかった。
そしてこれから数分間襲い続けるであろうGに震えた。
他のクルーは【ANESYS】に繋がる為に関係ないが、自分だけは意識をもったまま、この後の〈じんりゅう〉の超絶機動に耐えねばならなくなるのだ……と。
オリジナルUVDの残り74柱を納めた〈
だがそれは〈じんりゅう〉側でも予測できたことであった。
〈じんりゅう〉級三隻のア
これで〈じんりゅう〉級三隻は、正三角形状にUVワイヤーを介して繋がったことになる。
この配置こそが、ケイジの考え出した太陽表層でムカデ・グォイドと同じ原理で高速移動する方法であった。
ムカデ・グォイドは太陽表層の磁気の流れに乗ることで、その巨体に似合わぬ高機動を発揮する。
〈じんりゅう〉級各艦は、当然そのような航法を行うようには設計されておらず、単艦でその航法を模倣することなど不可能であった。
〈じんりゅう〉級が磁気の流れに乗るためには、自艦の重量をキャンセルした上で、磁気の流れを受け止める言わば
が、仮に洋上船舶のように艦上に帆を立てたとしても、真空無重力の宇宙では、艦の重心と、前進する力にズレが生じて無様にその場で回転するだけになってしまう。
上下左右に重心からズレないようUVシールドで帆を張る手段もあったが、その場合、帆の先端ではUVシールドが散逸してしまい、磁気の流れを効果的に受け止めることはできない。
普通にスラスター噴射で移動した方がはるかに効率的だろう。
だが、三隻で輪を作り、その三角形の中心に磁気の流れを受け止める帆をUVシールドを利用して展開すれば、帆の周囲を三隻の〈じんりゅう〉級が囲む形となり、UVシールドが散逸することはなく、磁気の流れを逃すことなく効果的に受け止め、ムカデ・グォイドと同じ原理の機動が可能……なはずであった。
それこそがケイジの閃いた航法の原理であった。
理屈だけでいえば、太陽表層に限り、その機動性は単艦時の機動性を上回るものとなるはずであった。
だが実行には三隻の〈じんりゅう〉級の完璧な連携が必要であり、それには【ANESYS】を行うしかなかった。
それも〈じんりゅう〉級三隻分の【ANESYS】が…………。
ア
そして回転運動で正三角形を維持しながら艦首を内側に向け、通過するムカデ・グォイドにUVキャノンと実体弾の近接全力砲撃を食らわせた。
ムカデ・グォイドは眼前の三角形に連結した敵艦三隻が、回転しながら突如これまでと見違える機動性で己を囲み、すれ違いざまに近接攻撃してきたことに、まったく対処などできなかった。
自分の身を頭から後端にかけ、満遍なくUVキャノンと実体弾の砲撃を受ける。
多数の命中弾により、ムカ・グォイドの100箇所ある節で繋がれた胴体に貫通した穴があき、脚部が数十本単位で吹き飛んだ。
だが、集中攻撃を受けたにも関わらず、ムカデ・グォイドはまだ充分に行動可能であった。
そのダメージでもまだ動けたのは、ムカデ・グォイドが恐ろしく長大であったからだ。
ムカデ・グォイドは全長100キロの巨体有することで、多少のダメージを受けても、他の無事な部分で損傷部の機能を補うだけの冗長性を備えているのであった。
そして、有しているオリジナルUVDの出力で、まだ敵艦三隻に勝ってもいた。
オリジナルUVD4柱分の出力で展開されたUVシールドは、敵艦の砲撃から致命的なダメージを負うことを防いだのであった。
ムカデ・グォイドはこの予想外の状況から、すぐに次の決断を下した。
『ワタクシ……この遠心力で成分が分離しちゃいそうですぅ……』
[むかで・ぐぉいどハ〈
艦尾格納庫にいるサティと、ブリッジの隅にいるエクスプリカの声が聞こえたが、ケイジに何か答えることは不可能に近かった。
〈じんりゅう〉級三隻は、遠心力で正三角形を維持する為に回転し続けながら、ムカデ・グォイドとの高機動戦闘を行っているのだ。
ブリッジ内は慣性相殺システムにより、本来船体に襲い掛かっているGから大いに軽減されてはいたが、それでもケイジの肉体は悲鳴を上げていた。
遠心力G以外の戦闘機動によるランダムなGが襲ってくるからだ。
それに加え外景ビュワーに映る景色が、ケイジの認識力をはるかに超えたスピードで上下左右斜めへと過ぎ去っていく。
ケイジはアリになってシェイカーの中に放り込まれたような気分になった。
有り体に言ってケイジは酔ったのだ。
とてもではないが、サティやエクスプリカに対し、何か答える気力など湧かなかった。
早くこの【ANESYS】による機動終わってくれることを祈るだけだった。
辛うじてエクスプリカが告げた、ムカデ・グォイドがプロミネンス砲で〈
収束のうえ加速して放つプロミネンス砲ならば、今からでも太陽表層から、遠ざかる〈
だが、ムカデ・グォイドはプロミネンス砲を撃つことはできないと、ケイジはもう分かっていた。
〈じんりゅう〉級の攻撃により傷ついたかに見えたムカデ・グォイドであったが、すぐに行動を再開し太陽表層へと降下をし始めた。
その行動の目的がすぐに推測できたア
その〈じんりゅう〉級三隻の前方で、再び太陽表層のごく低高度へと降下したムカデ・グォイドが、その全身から強力なレーザーを進路前下方へ乱射し、はるか下方の太陽表層の命中させると、大小のプロミネンスを誘発させた。
そのレーザーこそが、ムカデ・グォイドがプロミネンスを意図的に生み出す手段だったのだ。
ムカデ・グォイドはその多数発生したプロミネンスから、離脱中の〈
納められていたオリジナルUVDは、〈
そしてそれ以外に発生させたプロミネンスの柱が通過したムカデ・グォイドの後方で伸び上がり、無数の障害物となって追尾中の〈じんりゅう〉級三隻を襲う。
だが、三隻分のクルーの思考を統合して生まれたア
先行して上空よりの観測を行っていたア
そこへ三隻の〈じんりゅう〉級が、形成する正三角形を巧みに変形させ、時に細く長い三角形となり、あるいはキャンセルさせていた自艦の重量を一隻だけ戻すことで重しとなって急制動し、カーブする残り二隻の支点となって、単独では不可能な急カーブでプロミネンスの間を通過する。
徐々にムカデ・グォイドに肉薄する〈じんりゅう〉級三隻。
その間にア
約40数柱ものオリジナルUVDが起動した場合、いったい何が起きるのか、現時点では情報が少なすぎ、ア
だが、それを何としても阻止せねばならないことは分かっていた。
いつから、どの時点でこの未来が決まっていたのか、ケイジにはよく分からなかった。
確かに〈ウィーウィルメック〉のア
ともあれ、ムカデ・グォイドは最終的に、ケイジの予想通りの行動にうつり、ケイジ達はすでにプランBという形でそれに対処済みであった。
今行っている〈じんりゅう〉三隻同時【ANESYS】も、それによって可能となったケイジ考案の三角形航法も、全ては予言の実現に向かっている気がしてならなかった。
[奴ハ飲ミ込ンダおりじなるUVDヲ起動サセハジメタゾ]
ケイジはエクスプリカの言葉を辛うじて認識した時、
ア
それが〈じんりゅう〉級の攻撃による破孔から漏れ出したものなのか、それとも4柱のオリジナルUVD出力を上げた結果なのかは、観測だけでは分からなかった。
ただ、オリジナルUVDの数で勝るムカデ・グォイドに自分達は追いつけないことは分かっていた。
ムカデ・グォイドはそんな〈じんりゅう〉級三隻を尻目に、目的の位置まで移動を終えると、下方より発生してくるプロミネンスをプロミネンス砲へと変えるべく、再びリング状となって待ち受けた。
それは追いつくまでのほんの数秒の出来事でしかなかったが、実体弾でもUVキャノンでも、決定的なダメージを与えらない〈じんりゅう〉は、ムカデ・グォイドのプロミネンス砲発射を、ただ見ていることしかできなかった。
だから次のチャンスに賭けることにした。
ムカデ・グォイドがプロミネンス砲の発射に失敗した直後にだ。
ムカデ・グォイドはリング状となり、下方より迫るプロミネンスを通過させようとしたその直前になって、ようやく違和感に気づいた。
飲み込み起動させたオリジナルUVDの内の1柱の出力が、異常に弱かったのだ。
だが、気づいたところでもう遅かった。
ムカデ・グォイドの頭部に納まっていた敵より奪取したオリジナルUVD……と思っていたUVDが、その瞬間爆発したのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます