第16話 魔法

 カラツァの合図で敵兵士六名は散開。レイジたちがいるトラックの周りを一気に囲み始めた。


「おいおい、俺を巻き込むのか!」


「君は結局あいつらの……守護剣の仲間なのか!?」


「仲間もなにも初めて見たっつーの!」


 ハルトは一瞬なにかを考えてから舌打ちし、レイジの手錠と足錠を外し始めた。


「ハルト! 一体なにやって――」


 リディアはハルトの行動に目を丸くして叫ぶ。


「今はそんなこと言ってる場合じゃない。もうこいつも動けるみたいだし、僕らの敵じゃないなら逃げてもらうべきだ」


「もし敵だったら!」


「敵なら倒す。ただ僕は、もしあいつらとなにも関わりがないのに、巻き込まれて死んでしまうなんてことだけはさせたくない!」


「……」


「敵なら僕たちと戦え! 違うならあいつらから逃げろ!」


「俺は……」


 なにやら仲間内で揉めている姿を見て、カラツァは首を傾げた。


「おやー、そういえばさっきからいるそこの男、新しいお仲間かナー? 残念だったネー、こんなことに巻き込まれちゃっテ」


 確かに理由もなく巻き込まれるのは不本意だが、どちらの味方でも敵でもないレイジには、この場をどう切り抜けるのが正解なのか考えなければならない。


 ハルトは逃げるよう言ったが、すぐに逃げるのは得策ではない。どちらも自分の仲間ではないからだ。それにあの兵士たちがどのような武器を持っているかを知らぬまま駆け出すのは、いくらZスーツを着ていようが危険行為だ。


 ならどうする。


 どちらかに付いて切り抜けるというのも一つの手ではある。


 まず守護剣と呼ばれる謎の軍隊。始めて耳にするその組織は、どうやら〝マホウシ〟という者を集めて従わせているらしい。そのやり方は今見ている通り強引で、決して国民に好かれているような想像はできない。


 自分も軍の養成校に通う学生だが、もしもこのような上官の元で働いたなら、自分の正義の概念を貫き通すことはできないだろう。


 そして自分の周りで剣を構えるこの三人。英雄と呼ばれていたが、彼らが一体なにをしたのかはわからない。今はっきりしているのは、守護剣のやり方が気に入らず敵対していることだけ。たったそれだけだった。


 ただ、カラツァとハルトのどちらが善人かと問われれば、言うまでもない――


「攻撃開始ぃぃぃいイ!」


 カラツァの号令で、兵士らは金属の棒をハルトたちに向けた。すると兵士全員の足元に直径三メートルほどの輝く紅い円が出現する。円の中には複雑な紋様が描かれており、それはまるで子どもの頃に映画やアニメで見たことがある、魔法陣のようだった。


 いきなりの現象にレイジは戸惑っていると、アルダスは仲間に聞こえるように叫んだ。


「すぐに接近戦に移れ! 遠距離からは勝ち目がない!」


 聞いた二人は返事をし、すぐに言われた通り敵に向かって走り始めた。

 レイジは身体を低くし攻撃に備えることにした。


「撃ーテ、撃ーテ」


 自分は高みの見物とでもいうように、カラツァは戦闘に参加せず、ずっと踊るように身体をクネクネさせながら命令を出している。


 兵士の金属の棒からは火の玉のようなものが射出され、それはどんどん加速して標的に近づいていく。ハルトが横に跳びそれを躱すと、地面に着弾した火の玉は勢いよく爆発した。人に当たれば怪我では済まない威力だった。


「もう、意味がわからない……これはなんだ? 魔法?」


 もうここは自分の世界ではない。無理やりそう結論づけるしかなかった。


 周りを見ると、アルダスが一人の兵を斬ったところだった。殺してはおらず、この戦闘から退場させる程度の怪我を負わせただけだ。しかし斬った一瞬の隙に、別の兵が放った火の玉が背中に勢いよく当たり爆発が起こる。


「ぐああッ」


「アルダス!」


 ハルトは叫ぶが、助けに行く余裕がない。


「こいつら、熟練してる……!」


 リディアもハルト同様、自分の敵を捌くのに手一杯だった。下級魔法だと思って油断していたら、使い手の魔法士としての技術が予想以上だったのだ。連射速度が早く、連携が上手い。躱す場所を予想しての攻撃が見事だった。


 ハルトとリディア、そしてまだ動けるアルダスは必死に大量の火の玉を掻い潜りながら攻撃を仕掛けていく。しかしよほど訓練された兵なのか、レイジの想像する魔法使いのような棒立ちで魔法を使うのではなく、体術も含めながらの攻撃方法でハルトたちを翻弄していった。


「く、近づけない……!」


「まだまだこれは序の口だよーン。今回の戦闘のために強者を六人も集めて来たんだからネ☆! もっと楽しんでちょーダイ!」


「カラツァめ、戦う気満々だったってことじゃないか!」


「むふぅ? ま、そーともユー」


 地面を割る魔法でも使ったのか、突如地面に亀裂が入り始め、ボコボコと不自然な穴が生まれた。ハルトはそれに足を取られ態勢を崩してしまう。その隙に一人の兵の右腕に小さな魔法陣が出現し、拳をハルトの腹に叩き込んだ。


「ぐはッ」


 続けて左腕にも同様の魔法陣を出し、膝をついて苦しむハルトの頭部に両拳を叩きつけた。腕力でも強化したのか、ハルトは人間離れした攻撃力によって地面にめり込むようにして倒れた。


 ハルトはそのまま沈黙。アルダスはそれを見て吠えながら敵に突撃するが、剣一本では複数の魔法に太刀打ちできず、数の暴力に屈するしかなかった。


「ハルト! アルダス!」


 リディアは堪らず叫ぶが、自分も敵の攻撃を躱すだけで精一杯だった。

 敵の攻撃で、周りの青草が火の海になりつつあった。


 リディアは細い脚で地面を強く蹴り敵に突貫するも、その攻撃が届くことはなかった。ついに彼女までもが魔法の力に倒れた。

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