第15話 黒龍と仕事
黒龍は、聡に怒られながら家に帰った。
「我が君、お帰りなさい」
玄関に出迎えにきた青龍が、カバンを受け取ろうとしたが、俺は資料が入っているからと持ったまま靴を脱ぐ。青龍は経済を動かす事も出来る。資料を見せるわけにはいけない。
「夕食まで資料を読むから……」
着替えるのを手伝おうとついて来たが、パシンと部屋から追い出す。
✳︎
「黒龍、何か会社であったのか?」
サッサと着替えてリビングで寛いでいる黒龍に、青龍は尋ねた。
「第一事業部は、というか教育係の前田はアクアプロジェクト課に属しているんだ。どうも、発展途上国が売り込み相手みたいだな。明日の会議で、売り込み先を絞るようだけど、聡が治安の悪い国に出張するのは困る」
黒龍は青龍に愚痴っているのではなく、何か手をまわして他のプロジェクトにした方が良いと言っているのだ。夕食を作っている白龍と、ソファーで話を聞いていた赤龍も、聡を危険な目に逢わしたくないと思う。
「でも、聡ちゃんは嫌がるわよ」
赤龍は聡が真面目に仕事をしているなら、それを応援してやりたいと思う。激しく怒る聡を想像して、黒龍も首を竦める。
「聡がしたいようにさせろ」
料理をしながら、白龍も声を掛けた。青龍は聡を治安や衛生状態の悪い国に行かせたく無かったが、本人の意志を尊重したいとも考えて悩む。
「アクアプロジェクトって……黒龍なら水を操るのは朝飯前だろ?」
出汁の味を確認しながら、白龍は悩んでいる青龍を見かねて口を出した。龍である全員が水を枯らすことも、湧き出させることも自在にできるが、特に黒龍は得意だ。
「そんなのは問題じゃないんだ。東洋物産はアクアプロジェクトを政府にプレゼンして売り込むのが仕事だ。後は業者が、現地で水道施設を建設したりするのさ」
そうは言っても、現地と問題が起きないようにしなくてはいけない。黒龍がアフリカだろうが、中国の奥地に行こうが、屁とも思わないが、聡が不便な生活をするのは駄目だと三人は考える。
「新入社員を二人も派遣しないだろう。聡様を国内に留めて……」
資料を読み終えた聡が、リビングに入って来たので青龍は言葉を止めた。
「私だけ危険な国に行かせるつもりだな! 聡から引き離す魂胆か!」
しかし、黒龍は聡に気づくのに、半テンポ遅れてしまった。
「何? 何の話をしてるの? 青龍! まさか資金を使って、東洋物産に圧力を掛けるつもりはなのか!」
龍人の全員が黒龍に非難の目を向けた。
「まさか、黒龍が一人で騒いでいるのです。我が君のしたいことを邪魔したりは致しません」
全員を眺め回して、そうだと頷いているので、聡も何時もの口喧嘩かなとスルーする。黒龍が大学や会社について行く件では、何度も龍人達は言い争っているのだ。
「さぁ、聡! 今夜は初鰹だぞ」
白龍は、いそいそとテーブルに大皿に盛り付けた鰹の叩きを置く。
「わぁ~! 美味しそうだね!」
聡が席につくと、青龍がキンキンに冷やした酒を切り子のグラスに注ぐ。
「うう~ん、美味しい! 皆も一緒に食べようよ」
聡は喧嘩していた龍人達に気遣ったのだが、本人は酒は一杯で止めてご飯にする。
「明日は会議だから、ちょっと早く寝ようと思って……会議中に居眠りしたら、洒落にならないよ」
サッと席を立つ聡を見送ると、黒龍も部屋に引き上げた。
「できたら、治安の良い国がいいけど……まぁ、どの国でも聡を護るだけだ」
さっき自分だけ海外に出張しろと言われて怒ったのは、危険とかを考えたのではなく、聡から引き離す策略を感じたからだ。引っ越した夜、公園で薄い金色に発光していた聡を思い出し、黒龍はそろそろ覚醒するのではないかと期待が膨らんでいた。
『黄龍……私の黄龍!』
外国で二人っきりの時に覚醒すれば、ライバル達より有利かもしれないとほくそ笑んだ。
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