第32話 李大人と四龍
「まさか、一夜であの荒れた屋敷が……」
報告を受けた李大人は、改めて龍の力に畏怖を覚えた。
「黒龍殿も若い見かけを裏切る威圧感だったが、他の龍人達はどういった御方なのだろう? 中国の龍が如何なる理由で、日本に住み着いておられるのか知らないが……本来の地に帰って頂かなければ」
四龍を中国に呼び戻すことを李大人は決意したが、それには龍を統べる者である黄龍が必要だとは知らなかった。
「聡は……龍神を祭る一族だと聞いたが……黒龍殿は、聡に気を使っておられたが、何故なのだろう? 確かに、整った顔立ちだし、素直な性格だし、竜神祭の斎宮を勤めたとか聞いた。しかし、斎宮は普通は女がなるものでは? 四龍は綺麗な男がお好みなのか?」
李大人は次の接待には、見目麗しい男を揃えてみようと考える。
そんな事とは知らない青龍達は、原田課長と前田主任に屋敷を案内していた。
「夜なので庭はお見せできませんが、蓮が咲いた池は美しいですよ。この屋敷と同じく庭も西洋と東洋の一体化を試みています。初夏の時期には紫陽花や薔薇なども見事です」
うっすらとした灯りでも、見事な庭の様子が見てとれた。
「そろそろ、食事の用意ができたようです」
昼間の御馳走で、まだ空腹ではなかったが、和食、それも家庭で食べるお総菜に、原田課長の箸はすすんだ。
「いゃぁ、やはり日本人には和食が一番ですなぁ。どのお総菜も美味しくて、つい食べ過ぎてしまいました」
前田も、この料理を白龍が作ったのかと驚いた。
「外国でこんなに美味しい和食を食べれるとは思いませんでした」
原田課長は、器の素晴らしさにも感嘆する。
「料理の味も素晴らしいが、それを盛り付けてある器がまた引き立てているのだよ。こんなことを申し上げては迷惑でしょうが、李大人の接待にこの屋敷を貸して頂けませんか?」
黒龍は内心でチッと舌打ちしたが、青龍、赤龍、白龍はにっこりと微笑む。
「聡と黒龍がお世話になっている東洋物産様に、少しでもお役に立てるなら嬉しいです」
いかにも礼儀正しそうな青龍に言われると、原田課長も優秀な新入社員ですとお世辞を言い始める。赤龍は、原田課長の相手は青龍に任せて、前田と具体的な話を勧める。
「いつ頃、李大人を接待したいと考えておられるのですか?」
前田は日を開けずに招待したいと考えていた。
「できたら、明日か明後日の夜をと考えていますが、そんなに急では用意とか大変でしょうね」
龍に不可能は無いので、赤龍はにっこりと微笑んで承諾する。
「今夜は急な話でしたから、屋敷や庭も手入れ不足ですが、李大人を招待する日までには、完璧に仕上げておきます」
「料理も任せて欲しい、聡の初仕事を手助けしたいんだ」
確かに、料理の腕も、盛付けのセンスも見事だったと、前田はそうして貰えればと喜ぶ。
「白龍、御馳走様。でも李大人の接待なんて、頼んでもいいのかな? 上海で和食の材料なんて、手に入れるの大変じゃない?」
聡が心配そうに見上げるのを、可愛いなぁと白龍は笑う。
「日本から調味料は持ってきている。野菜や肉や魚介類も、日本から取り寄せるから、大丈夫だ」
頭を大きな暖かい手でぽんぽんされると、聡は子どもじゃないよとふざけて払いのける。一人むすっとして、三龍が自分の聡との海外デートの邪魔をするのを傍観していた黒龍は、そろそろお暇しましようと言い出す。
「では、私達もホテルに帰ろう。長い間、留守をしていたので、召使い達が寝室まで掃除をしてなかったみたいだ。それに、李大人の接待とか話し合うのに、同じホテルに宿泊していた方が便利でしょう」
『どこまでも邪魔をするつもりだな!』黒龍が睨みつけても、他の龍人は素知らぬ顔だ。
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