第103話 Event3:到着! 突撃……の前に


 それからマップを見ながら、丁寧に道を探りつつ進んでいった。勾配が激しくて、降りていっても途中で道が消えてたりするのよね。

 竜の洞窟は、入り口が山の上にあった。

 といっても、派手な入り口があるわけじゃなくて、普通の洞窟がぽっかり口を開いてるんだけど……


「間違いないわ。あれが、虹の洞窟。竜がいる場所よ!」


 虹の丘という場所ではあるけれど、虹は出ていない。

 あの町だって、虹の町とかいうわりに、虹なんて出ていない。


 地味~な地形、普通の洞窟に見える。もっとおどろおどろしいのを想像してたんだけどなあ。入り口にすごい芸術的な装飾が施してあって、いざ冒険者よ竜に挑戦せよ! みたいな感じで出迎えてくれるんじゃないかと。


「これじゃちょっと拍子抜けかも」

「なにいってるの。本番は、この洞窟の中にあるのよ」

「…………そっか。入り口なんかに惑わされてたら」

「あっという間にピンチかもよ。さしあたっては洞窟に入ってみないと、私たちのレベルが通用するのかどうかも分からないけど」

 うん。推奨レベルってものがあるわよね、ダンジョンには。

 リンダリングの世界ではモンスターのレベルはリンダポイントに関連してるんだけど、ボスのレベルはその限りではない。リンダポイントに比例してる場合もあれば、固定レベルなボスもいる。

 ガルディエントがレベル40で固定! であれば私たち、敵う要素があんまり無いけど、リンダポイント比例であれば、まだ戦って勝てるかも知れない。……でもね、竜だもんね。そんなあなた、レベル20に至ってない私たちが敵うような相手なわけがない。


「あれ? あそこに人がいるよ」

 シロウが指さした。

 洞窟入り口の近くに商人が立っていた。身長くらいの看板が隣に。

「安いよ」

てシンプルに書いてある。


 売っているのは、ポニーテールにした女の子だ。商人特有の大きなかばんを装備してる。あれ装備してると、所持可能アイテム数が何十倍にもなるのよね。


「こんにちは~。よければ商品みてってね」

「こんなところで商売なんて。儲かってる?」

「んんん。ぼちぼち? かなあ。儲かるところは競争率が激しくて……。私まだどこのギルドにも登録してないし、こういう自然系洞窟の出店だと、店舗代がかからないのよね」

 うーん、商人界にもいろいろあるんだなあ。


「でも私は商人としてがばがば儲けて、いつかカジノをつくってみせるわ!」

「カジノか~……」

 カジノ大好き。いつか世界最大のカジノってところに行ってみたく思う。

「……もっとおもしろいものとかって、ないかな」

 相手は目を丸くする。

「もっとおもしろい……?」


「や、今ちょろっと思いついただけなんだけど。イベントを行うための、館みたいなやつをつくってみるのはどうかな。

 カジノだとお金を賭けるけど、そちらでは名誉を賭けるの。

 たとえば騎士コンテストとかいって、騎士を集めて人気投票したりとか。そういうの。みんなの自慢の武器や防具を披露するのよ」


「ああ。コンテストはあると思うんだけど、でもそれ専用の見せ物小屋みたいなのは、ないかも?

う~ん、なんかそのアイディアいい感じかも! もしできそうだったら挑戦してみても、いいかしら」

「いいわよ。自分じゃ絶対しないし。

 で、アイディア料ってわけじゃないんだけど。薬草とか安くなったりしないかな……?」


 もお、買い物上手! と背中をたたかれつつ、薬草とか別の回復系アイテムをいくつか買った。

 残念ながら根性試しキャンディは売ってなかった。


「あ、でもここだけの話ですけど」

 カンナがこそっと話しかけてくる。

「アリエッタ姫を戦闘でアイテムとして使うと、姫様との友情ポイントが下がります」

「……道具扱いするなってこと?」

「下がりすぎた場合、アリエッタ姫はパーティから離脱してしまいます! その場合、えーーと、リンダポイントがですね……」

「馬鹿上がりするってことかしら」

「間欠泉のように」


 どーーん! と上がるリンダポイントの様、想像できた。

 怖いよ~。そんなに上がってしまったら、もう普通の旅人として生きていけなくなるかも。だって、フィールドに現れるモンスターのレベルはリンダポイントと連関してるんだもんね。もし馬鹿上がりしたら、フィールドモンスターと戦えない・レベルが上がらない・そもそも普通に旅ができないってことになってしまう。

「それでも抜け道は、ある……」

 モンタが言った。

「そのときはきっと俺が役に立つ……」

 なんか裏街道な情報、いっぱいもってそうだなこのハムスター。


「ほんと、個性豊かよね、ナビって。

 こんなに役に立たないのってハチくらいじゃないかしら」

「ふぇっふぇっ。王様は実は裸だって、みんな、知っ・て・る」

とバッチョがつんとほっぺたをつついてきた。

 意味がわからんよ意味が。


 で、無事アイテムを供給しつつ、私たちは洞窟に近づこうとした。






*******





 ガルディエント……たぶん、実はトカゲだったりする可能性は、ないと思う。や、ミュンヒハウゼンが本物はあんなやつだったんだもの、実はものすごく小さかったりして。



 ……そのとき。

 洞窟の方から、風が吹いてきて、地面が揺れた。私たちは一瞬なにが起こったのか理解できず、地面の揺れに耐えた。そして風とともに、全身に震えが走る大音声が聞こえてきた。


 それは間違いない、強大な獣の声。


 自分の領域を侵すものに警告を与えるための……いや、あれはそんなこと思っていない。その他愛ない呼吸がすでに、冒険者たちをひるませ、怯えさせるに足りるものなのだから。




「いまの……」

「ガルディエントの声ね。割とよく聞こえるわよ。あなたたち、ガルディエントのイベントに挑戦するの?」

「そりゃーもちろん、ここまで来たからには、そうだよ、うん」

 私はほとんど自分を納得させるためにそう答えた。

「でも、前挑戦した人たちはかなりレベル高そうだったわよ……」

 眉をひそめて見つめられてしまった。

「ついでに、装備もかなりすごかったわ」

「……ほら、私のこれ、ドラゴンナックル。

 このシロウの剣も、サンダーソードだったりするの。

 ノアの呪文もね、ドラゴンファイアー! て叫んだりするし」

「…………」

 その沈黙が、


 お話にならないんじゃない?


と言っているかのようで、ちょっっっっとだけ、つらかった。


「私たちは、ガルディエントのタマゴをいただきにきたの。

別に、ガルディエントを倒しに来たわけじゃないわ。それって、まったく別のことだと思うし」

「タマゴ……か。まあ、イベントにも色々あるのね。

がんばってね、応援してる。あ、これ。おまけしとくね」

 といって渡してくれたのは、イチゴのキャンディーだった。

 包みがとっても可愛い。



 お礼を言って、商人の子から離れた。

 洞窟の穴に向けて、私は

「じゃ、行く?」

と振り返る。

「行こうか」

「……だめそうだったら、あきらめていったん退却すればいいしな」

「後ろ向き~。だめよ、こんな絶望的な状態なんだからさ!

 やれきたぞ 絶対タマゴ ゲットだぜ

って一句詠うくらいの余裕が欲しいわ」

「詠ってる場合じゃない!」


 なんて軽口をたたきつつ。

 私たち、ガルディエントの洞窟に、入り込んだ。




 しかし、すぐに商人の所に戻ることになった。

「あれ、どうしたの? 帰るの?」

「えっとね、明かり関係のアイテム、売ってくれるかな」



 洞窟は、ものすごいリアルで、そして真っ暗だった!



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