第98話 Event3:ゲームしましょう(ゲームの中だけど)


「チューーーチューーーーー……ふひひひひひひひひひ」

「なに?! 下品な声」

 起きた場所は、暗闇だった。いや違う。……天井裏?


「クキキッ! 下品とはひどいな。

 こんにちは、えーと君は、サラちゃん? 可愛い名前だね。今日は、よろぴこ」


 よろぴこ、て。それ挨拶?

 見るとそこにはネズミがいた。でっかい。体長は立ち上がった私の、腰くらいまであるかな。

 今の私は座り込んでるので、ほとんど目の高さは一緒だ。


「よろぴこ。

で、現状を説明してもらえたら嬉しいんだけど」

「おっと。なかなか適応力があって素敵な子だねー。

 俺の名はネズミン。シーフのスキル持ちの小粋なモンスターさ。ちなみに種族名はぬすっとネズミ」

「なんかこう、ふつふつと煮えたぎる怒りが燃えてきちゃうような種族名ね。私の財布は狙わないでね」

「……善処する。

 では説明しよう。ちゅー!


 君たちパーティはミュンヒハウゼン様の屋敷にやってきた。

 だがしかし、招待状を持ってなかった!

 残念無念、ミュンヒハウゼン様はお忙しい方なんだ。予約もないのに会うことはできないんだよ。ほんとならね。

 だけど彼はお優しい方。招待状もなくやって来たぶしつけな客にも、チャンスを与えてくださるのさ。それがこのゲーム!


 消えた仲間はどの人形!? ~名前だけで推理せよ!~」


 ドンドンズドドンパフーパフー!

て、効果音がなった。とりあえず、つきあいで拍手する。


「では足下を見てもらおう。

 ほらね、下の部屋が見えるね」


 ほんとだ。真四角の部屋。なんか、子供部屋みたいな雑然とした感じ……部屋の真ん中にテーブルがあって、本棚とか、玩具の棚とか、色々並んでる。

 で、そこかしこに人形が転がっている。

 それは全部、女の子の形をしたものだ。

 大きいのも小さいのも中くらいのも全部全部、女の子の人形だ。ちょっと、怖い。金髪のも赤毛のも、いろいろなタイプの人形がいる。


「んじゃ、ひとつ選んでくれるかな」


 言われるがまま、人形を選んだ。するとネズミがちょわっと気合いを入れた。

 下の部屋にあったはずの人形が、目の前に現れる。

 青いドレスを着た、金髪の人形。ちょっと目がうつろだ。

 

「んじゃ、その人形に名前をつけておくれ」

「名前!? なんで」

「今から、下の部屋に君の仲間たちが現れる。そして、全ての人形の中から、君を見つけるんだ。

 人形は全部で32個ある。その中から、君が選んだ、君の化身ともいえる人形を探し当てるんだよ……ふひひひひひひひ」


 あー。


「じゃ、仲間に私だって分かるような名前をつけるといいのね」

「もちろんー♪」

 ネズミの楽しそうな様子からして、ちょっと罠を感じた。


「……他の人形にどんな名前をつけてるか、教えてくれない?」

「ん、んーー? そんなこと……まあいいか。特別サービスだ」


 げっ。

 赤毛の人形には「サラよ、助けて!」、緑のドレスの人形には「私がサラだからね!」なんて名前がついてる。他には「武闘家です」「サラ」「私がほんもの」「いいから私を選んで!」「さらだよ」「まちがえないで」「おなかすいた」「コナン・ドイル子」みたいなのが並んでいる。

 ……名前か? これ。

 コナン・ドイル子てなによ。なんだってのよ。


 ノアとシロウがこれをみたときには、当然悩むわよね……。

 シンプルにサラって名前をつけても、他のとかぶっていたらそれはもちろんさらに悩む要素にしかなりえないだろう。

 うう…………


「ふひひひひひひひひひ」

「おおっ!? なんだなんだ、俺の笑い声取らないでくれないか」

「ばっかねー! このゲーム間違いなくあんたたちの負けっ!!」

「なっ、なんだその勝利宣言その余裕!? ちくしょうなんだかくやしいっちゅーーー!!」


 ま、パーティになって間もなかったり、クールに目的だけを果たしているようなメンバーであれば、わりと悩むゲームだったかもね。

 でも私たちは、はじめっからずーっと一緒に旅をしているんだからね! ちゃーんと私たちにだけ分かるような名前をつけるなんてこと、たやすいったらありゃしないってーの!!


「くやしいから文字制限だー!

 最大5文字! それで名前をつけるがいいっちゅーーー!!」

「なんですってーー!

 なんて言いつつ、よ・ゆ・うだってば! わはははははっ!」






*******






 窓から下の様子を見ることができた。

 しずしずと歩いてくるルルに先導されたノアとシロウが、不安そうに部屋にやってくる。


 部屋の中にある人形をひとつひとつ手にとって、選んでいる。

 ルルがかすかに口元に笑みを浮かべているのが悔しい。でもそんなの、すぐに……ほら、二人が私の人形を手に取った!


 二人は、顔を見合わせた。

 そして笑い出した。


「これ! これです間違いないっ!」

 ノアが叫んだのが目に見える。

 あははは、もう他の見る必要もないって……とネズミに言おうとしたとき、


「ちくしょう、次があれば絶対お前たちを倒してやるからな……」

なんて悔し紛れの言葉を吐いて、ネズミは私を突き飛ばした。


 視界が真っ暗になる。両手を伸ばすけど、なにも掴むことができない……落ちる!


「わああああーーーーっ…………!?」


「サラ!?」

「だいじょうぶ!?」

 伸ばした手を、二人が掴んでくれていた。

 ノアとシロウ。二人は、戸惑う私を見てぷっと吹き出した。


 人形を選んだとたん、ぽんっと音がして私が現れたらしい。


 大地(じゃなくて木の床だけど)に両足をつける喜び。そしてノアに背中を叩かれた。

「ナイス、サラ! あんなのもう迷う余地ないくらい。絶対サラだって、分かったよ!」

「ほんとだよ。見た瞬間分かった」


「く……。サラさん、あなたはなんて名前をつけていたのです?」

 メイドのルルが悔しそうに話しかけてきた。


「ん? えっとね。

 ハチきらい、って」


「んなっ!? そんな名前で……あなたたちは仲間を見抜いたというのですか」

「なんか驚かれると恥ずかしいような」

 頭の上では「ちょっ、しどい!? でもあなたのそんなひどさがアタシをなおかつ燃えさせる」とか呟いてるバカッパチがいますけどそれは力一杯おいといて。

「でもこれほんとにサラ以外にありえないよね」

「最初は不安だったけどさ、見た途端これだって」


「仲間たちとの絆……これほどのものだなんて……」


 なんて言われるほどのものではないと思うんだけど。

 でもパーティ組んだばかりでここ来てたら分かんなかったかも知れないよね。


「時間制限300秒の内、あなたたちは20秒でクリアーしました。これは歴代1位の記録です。

 記念として1000ゴールド。記念バッチ。そしてあなたたちの名を刻んだ盾をこの部屋に飾ることにいたします」


 ルルさんはものすごく悔しそうにそんなことを言った。

 ……ミニゲームだったのか、これ。

 ミュンヒハウゼンさんもなんつーか、お茶目……なのかな。忙しいっていってるしな。


「あと、一位の特典として、今すぐミュンヒハウゼン様のところにお連れしましょう」


 そういってルルはくるりときびすを返した。

 ついてこい、ということらしい。





*******






「あのー、質問なんですが」

「なんでしょう」

 廊下をすたすた歩いていくルルを追いかけつつ話しかける。

「さっきのゲームで、ミュンヒハウゼンさんに会う時間が決められたんですか」

「そうです。もちろん順位内に入ることが条件ではございません。それだと記録を更新しなければ会えないことになってしまいますから。

 50秒以内であれば、1時間後。100秒以内であれば2時間後。制限時間をオーバーすれば、再チャレンジというふうに決められています。

 ミュンヒハウゼン様はとてもお忙しいお方ですから」


 ミニゲームで会う人間を絞ってるというわけね……。 

 なんだか、印象悪いなあ。あの騎士の像はかっこよかったんだけど。この町を救ったとかいうエピソードの持ち主ではあるんだけど。でもなあ……ジェイドさんたち。レジスタンスのメンバーたちは、ミュンヒハウゼンのことをかなり悪く言ってたよね。

 ううーん。


「こちらにおわします」

 ルルが案内してくれたのは、屋敷の一番奥にある扉。

 ぎぎぎぎぎ、と入ったときの扉にも負けないような、古い木のきしむ音がした。

 

 効果とは分かってるけど。

 油、さした方が良い。


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