第96話 Event3:わりと、お先まっくら?
シロウはさっそくサンダーソードを試してみたいと思ってるみたいだったけど、
「んじゃ外に出てみよう!」
……の前に、私たちにはするべきことがあった。
酒屋で情報収集である。
「いらっしゃーい!」
教えられた酒屋は繁盛していた。人がたくさん。レベルが高そうな戦士に、魔法使い……うーん、装備が高級。
でもみんなあんまり元気なさそうなのよね。やはりそれは、
「あんたも虹の町から出ることができなくなっちゃったの?」
「あんたも言うからには、あなたも?」
「そうそうそう。もちろん私もよう……ほんと最悪よねえ」
銀髪をポニーテールにし、赤い鎧を身にまとった魔法戦士のお姉さんがビール片手に嘆いた。
「この町の呪いについて、どこまで知ってるのう?
……あ、私はノーマ。よろしく」
「私はサラです。よろしく……呪いについては、あんまり知らないの」
「この酒場の地下に、よっぱらったおじいさんがいるんだけど、その人が呪いについては詳しいわよ。聞きに行けば?」
「へえ……ありがとう」
言われたとおり、酒場の地下にいく階段を下りていった。
なんだろ。地下って。選ばれし酔っぱらいの集う場所かな?
と思ったら、ほんとにそこは酔っぱらいの楽園だった。みんなぐでんぐでんに酔っぱらってテーブルにつっぷしている。
「ミュンヒハウゼンめ……次こそは、次こそはあああ」
「ぬう……牛さんに豚さんに、猪さんんんん」
「なんか姫の教育上に悪いよな、ここ」
「おお、なんと心遣いの行き届いた男になったものよのう、シロウ。それもこれもわらわの教育のたまもの。わらわに感謝するとよいぞよ」
「うん、ありがとう」
なんて会話が聞こえてきた。それでいいのシロウ!? と胸ぐら掴んでゆさぶりたくなるが、そこは敢えてぐっと我慢する。
「酔っぱらったおじいさんって、あれかなあ」
ノアが指さした先には、サンタクロースみたいにかっぷくのいい、赤鼻のトナカイみたいに真っ赤な鼻をしたおじいさんがいた。周りには数十本も酒瓶が転がってる。
確かに教育上どうかと思うようなありさまだ。
「なんだ、お前たち。新顔だな。
町に来て間もないのか?」
ういっく、としゃっくりしながらおじいさんは話しかけてきた。
「うん、そんなところ。呪いについて教えてくれる?」
代わりにものすごく美味だという伝説のブランデーを持ってこい。
なんてケチなことは言わず、おじいさんは呪いについて語り出した。
*******
この町には「呪い」がかかっている。
一度でもこの町で宿屋に泊まったり休んだりして体力を回復させた者は、この町からいくら遠ざかっても、逃げようとしても、どこかで宿屋に泊まったり休んだりして体力を回復すれば、ランダムでこの町に戻ってきてしまう。
「なんでこんな呪いがあるのか? それは、この町の支配者が、魔法使いを怒らせたからだという。黒い服を着た魔法使いが……いや、魔道師といった方がいいか。
その黒衣の魔道師が、町全体に呪いをかけたのだ。その日からこの町には虹がかからない。昔は美しい町だったのだが」
「その支配者って、ミュンヒハウゼンのことなの?」
「いや違う。ミュンヒハウゼンではない。前の支配者だ。ミュンヒハウゼンは黒衣の魔道師を追い払ったのだが……、しかし追い払うだけで、呪いを解くことはできなかったのだ。
そのへんのいきさつは、ミュンヒハウゼンにきくといいだろう。
彼は気さくな人物だから、旅人が尋ねていっても追い払ったりはしない」
黒衣の魔道師……か。
実はこの町の黒幕は錬金術師ラガートだったということにならんもんだろうか。話が楽なのに。いやもうこれから全部黒幕はあいつでいいじゃないか。ラスボスもやつで。
すごい話が理解しやすいよ。
「サラ、そんな話はつまんないから」
ノアは容赦なくつっこんできた。
「で、呪いをとく方法を知りたいの。私たち、この町でぐずぐすしてる暇はなくて……竜のいる洞窟に行かないといけなくて」
「呪いを解く方法は……いくつかある。
まず、教会に行く。一万ゴールドで解呪してもらうことができる」
「却下だわ。そんなお金ないもん」
「他の方法は……そうだな、黒衣の魔道師を引きずり出して参ったと言わせることだな」
「黒衣の魔道師は、どこにいるのよ?」
「さあなあ」
おじいさんは歯を見せて笑った。
「意外と、近いところにいるかもしれないなあ? ぐはははははは……」
*******
「……実は、あのおじいさんが黒衣の魔道師……という説は、いかがなもんかしら」
「あなたの発想こそ、いかがなもんかしら?」
ノアの言葉のナイフは容赦なくざっくりと私の心を切り裂いた。
ちぇー。わりと「あるかも?」て話じゃない?
「無理に謎を解明しようとしないでくれる。
私たちはまだ呪いの全貌も見えてないのよ。材料が揃ってないでしょ。もしその適当な推理が当たってたらどうするのよ。すごく、むなしいじゃない!」
まあ、確かに。ミュンヒハウゼンの屋敷に行って、話を聞いてからか。推理するのは。
「おかえりぃ。話聞いてきたんだー?」
「ノーマさん。まだいたのね」
「あ……厳しい言葉。ノーマすねちゃう。いじいじ」
ノーマさん……一人旅らしい。一人で、この町の呪いにかかって。呪いを解く方法が分かんないから、呪いがかかったまま別のイベントに参加したんだって。
それで、運良く何度か体力を回復させてもこの町に戻る強制力が働かなかったみたい。そしてそのイベントのラストバトル! てとこで、最後に回復してみたところ、無理矢理リターン……という憂き目に。
「すごいむなしいのよお。ラストバトル! ノーマさん、ここは僕が押さえておきますから、あなたはあの魔神像を! てかっこいーサブキャラが叫んじゃってー、私は剣を構えて音楽が変わったりしてー、んで魔力が心許ないからそんな場面でも一応体力回復させるかーって、思っちゃったら思っちゃったら運の尽きー」
あー。
でもやっぱ体力回復なしでその状況、バトル突入はつらいもんがある。
「なんかこの町に戻ってきたらむなしくなってー、そしたら酒場の明かりがとっても優しく私を迎え入れてくれてー。
あーー、今とっても脱力ーーー」
「……元気出してください」
ノーマさんはううううと目をうるませた。
「良い子! サラちゃんたらすっごく良い子! うわーんおねーさんサービスしちゃううう」
「いりませんいりませんいらないってほんとにもー」
ぐいぐい抱きつかれてしまった。
「あ、虹の洞窟の話、知ってたら教えて欲しいんですけど」
抱きつかれている私を助けようともせず、ノアが問いかける。
んんんー? とノーマさんは私を抱きしめたまま首をかしげた。
「虹の洞窟? あー。この町の虹に関係してるとかいう、あれねー」
「そうなんですか?」
「すごい祭壇があって、ドラゴンがいるんだって。
ドラゴンよー、ドラゴン。おっそろしいわよねー。なんでも緑色のタイプの竜で、すごく獰猛。話しかけたら襲いかかってくるって。この前レベル40の冒険者が挑戦したけど、あきらめたって言ってたわあ。なんか、倒すには史上最強の氷冷魔法が必要なんですってえ」
……まっくらじゃん、お先。
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