第78話 Level 3:カンナ、吠える
天をつくような門。
なんて表現が、冗談ではなかった。エメラルド色をした石を積んで積んで積みまくってできあがったそれは、まるで神々の門のような迫力で私たちを出迎える。
門に刻印された文様は、騎士。薔薇を抱いた騎士が剣をもち誓う格好で、門にその姿が刻まれている。
不意にぽーんぽーんと音がして、空に花火じゃない、ほんとの花がはじけとんでいる。花爆弾みたいなのをうちあげて、破裂させているのだ。まるで桜吹雪のように花びらが舞い散っている。
まるでお祭りみたいに。
王都は、貴族の都トルデッテすらかなわない華美で私たちを圧倒する。
エメラルドの都、だけど近づいていったら分かった。目を疑うような色の洪水。基本は緑色だけど、無邪気な子供が絵の具を散らばらせたみたいに、いろんな色が咲いている。店店、教会、さまざまな建物! みんなとても見ていて楽しい。
「う、わあああーーーー………」
私たちはばかのように周りをきょろきょろしている。
道を行く冒険者の、なんか強そうな事と言ったら。見たことのない防具とか武器とか。あなたそもそも職業なに!? て、ききたくなるような人もちらほら。
まず通りの広さがただごとでない。
この町のつくりは、まず北側にお城があって。 その女神が両手を開いたような形をしたお城から指を広げた数だけ通りがあって。その間にいろいろな建物が並んでいる。お城の大きさがただごとでない。だって普通に見ただけじゃ端と端がいちどきに見えない。見上げただけじゃ、てっぺんが見えない。
「さすが『至福の王』のお城なだけあるわね!」
「なに、その私服て。制服とかあんの?」
私の質問はノアのお気にめさなかったらしく、軽く無視られてしまいました。いいもんそんなこと気にしない!
懐はわりと、潤ってるのよね。
前のイベントで入ったお金は、装備に投資して消えたとはいえ。トルデッテからここまで来るのにちょっとは戦闘をこなしたもんね。あの憎むべきウッディ☆モンキー……思い出すだに踏みにじりたくなる。あいつらを倒したお陰で、うーーんと……
「500ゴールドかあ。微妙な数字だね。やっぱお金たまりにくいよねー」
「回復手段がないから、薬草買っちゃうもんね。どうしてもそれは必要だもん」
「うーん、そろそろなにか考えた方がいいよね。たとえば回数無制限の回復アイテムとかないのかなあ。元気杖とか」
「その安直なネーミングは何事よ。たとえば『ホーリィワンド』とかぁ、『リペアウィップ』とかぁ、『リカバリーソード』とかぁ」
「なにそれ」
「シロウが剣を振るうたびに回復するのよ」
「五回に一回は暴発してダメージ、とかね。それがまたよく暴発しそうよね」
「なんだよ、想像のアイテムで俺をからかうのはやめてくれよ!」
シロウは怒ったけど、いやしかし想像はあまりにもリアリティ溢れてる。この逆ビンゴ男。「はずれなし」でも空くじをひきあてそうな男。あるいは運がいいのかも知れないけど。でも
「また呪われるのだけは勘弁してよね。次やったら怒るわよ」
「怒られても、別にわざとやってるわけじゃないし!」
「わざとの方がましなときってあるわよねー」
なにげない一言がいたくハートを傷つける。ハムスターに元気づけられるシロウを後目に、あ、あっちに人が集まってる、とノアが行くのについていった。
*******
「腕相撲対決だよ参加料50ゴールド! 買ったら豪華賞品だよ、なにかは手に入れてのお楽しみ!!」
広場みたいなところで、人が集まっている真ん中に腕っ節の強そうな男が、入れ墨の入った筋肉粒々の腕を振り回している。
わあ、あんなのに勝ったら乙女☆失格だね! とハチが余計なことを言う。まるで私が乙女失格であるかのように頬をつついてくる。
「うるさいなあわたしゃ乙女☆合格なんだからほっといてくれる」
「そんなこと言っちゃってコノコノー! ご飯五杯は軽いくせにー」
「あっはぁ、んじゃお代わりいっちゃうぞー☆ じゃないっての。参加するならシロウだわよ。シロウーー……」
落ち込んでいたはずのあの男、道行く騎士に胸ときめかせている。
広場を横切っていくレベルの高そうな騎士。深い青色をした鎧に身を包み、銀色の髪をナイフですっぱりきったような髪型をして、なんかすごい飾りのついた剣を腰に下げている。
うん、かっこいい。かっこいいけどさ。
そんな魂吸われるような顔で見つめなくてもいいと思うのよね。どうかな、なんていうか、そのありさまどうなのかなって、文句さしはさむのも憚られるような。迫力ある視線に、相手の方がびびっちゃうんじゃないのーって茶化すのも遠慮しちゃうような。
「シロウ!」
「はっ!? ぅえ、え、なに?」
「あれ参加してみない?」
ノアたんはさすが容赦なかった。夢見ることを忘れた乙女☆番長だよ。ほめてるんだよ。
「えーーーーっと……………」
台の上に立つ男は上半身裸で、「サバンナのこしみの」て防具を装備している。武器は、みがかれた石オノだ。シンプルながらなかなかに使い込まれた一品。レベルはそれほどでないとしても、腕力はかなりの高め方をしていると思われる。
手に入れたスキルポイントを全て腕力にそそぎこむようなこと、平気でしてそう。お前の辞書にバランスはないのかと。
比べてシロウときた日には。
効果音で言うと向こうが「バーン!」ならこちらは「ぽっそり」といったところか。別に弱そうというわけじゃないんだけどさ、ちょっとあのインパクトには欠けるわよね。や、あんな野獣みたいなやつとパーティ組むのやだけどさ。
……盾としてなら使えるかも知れないけど。
そろそろシロウもレベル10だもんね。
いろいろと生き様を考えてもいい頃だよね。
「や、純粋にその、無理じゃないかなーー……あれ」
「そうかな。死ぬ気でいったらいけると思う」
「死んでも無理なような気がするんだけどなーー……あれ」
「そうかな。友情・努力・勝利だよ!」
「とりあえず友情には欠けてる気がするんだけど……特に君」
「あらっ、何言ってるのよ! そんなわけないのよ! 友達を疑うなんて、あなたこそ友情に欠けてるんじゃないの!?」
「そろそろ漫才みたいな会話はうち切ってさー」
などと口をはさんだところ、「ハチとあんたの会話の方が」と返ってきた。
とりあえず腕相撲は、無理だよね! と二対一の多数決であきらめることに決定した。
……ノア、なぜそんなにシロウに勝負させたがる。もしくはこの子勝負好き? カジノで競馬みたいなのが出てきたらこの子にはさせない方がいいかしら。私はスロットがしたいけれど。こんだけ大きい町なら、カジノだってきっと、でっかいのがあるよね。
「んじゃとりあえず、買い物しとく?」
裏に違う目的をひそませた提案をしたとき、ぴょーーんと飛び上がった影があった。
「みなさん大事なことをお忘れじゃ、ないですかーー!」
それはカンナだ。そうだよね、ウサギは飛ぶよね。ハムスターみたいに肩にのりっぱなしなんてことはないよね。モンタって床に置くと「しゅたたたたたたたた」みたいな擬音で素早く動くかと思いきや、「ひねもすのたりのたりかな」といった風情でのそのそ動く。いいから肩に乗ってなさい、みたいな。
「大事なことって、ああ、この新しい杖をまだろくに使ってないこと?」
「ちーがーいーーまーすぅぅぅーー!」
「薬草がちょっと足りな……」
「ちーがーいーまーーすーーっっ」
「ハチをまだ捨ててな」
「それもこれも違いますーーっっ!!
みなさん、この町にどうしてきたんですか? ユリアさんとの約束、どうなってるんですか。さっさと連絡してくれって言われるのを待ってたのに、どうしてみなさん何も言わないんですかー!」
あ。
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