第61話 Event2:ラスボスじゃないの?

 バニーガールのビビと話しておくことが、糸をもらえる条件のひとつだったみたい。

 再び尋ねていくと、シスター・セーラは糸をくれた!

「アリーゼのこと、よろしくお願いするわ……」

 セーラさんはため息のような声音でそう言った。



「んじゃ、糸と真珠を手に入れたってわけよね!」

 ノアが元気よく拳をふりあげた。

 教会から出ていくと、シロウが待っていた。

「変な女の人に、また追いかけられたよ……」

 疲れきった様子。肩にのってるモンタは、いつだってそーゆー感じだけどね。

「あれでしょ。看板の近くにいる目隠しした女の人! あのひと怖すぎるわよね!」

「んで、君たち手に入ったんだね、アイテム」

「もちろん。それじゃ、さくっと交換していくわよー!!」


 長い旅だった……えーと、そもそもヴィクトリアとお喋りしたいがために、歩き回り続けたわけで。

 ヴィクトリアはノアが抱いてるんだけど、あくびなんかしてる。ああん可愛いなぁ。

 まず「猫語の教科書」を手に入れるために「恋のしおり」が必要になってて、そのために「真珠の首飾り」が必要で、それ売り切れてたから「真珠」と「糸」を手に入れないといけない、という寸法だった。

 悪意に満ちてる感じで、どこにいっても行き詰まり。先手先手を打たれてるような感触、私だけのものじゃないと思う。

 真珠の首飾りが売り切れてたのは、あのシャーリーらしき女が買ったからだったわよね。アラビア風のあの女。なんだか……、うーん。

「どう思う? ノア。あのシャーリーって、怪しいわよね」

「ていうかラスボスじゃないの、このイベントの」

「あ、そう!? そうかなやっぱり。て、ちょっと待ってよー、そういう風に当たってそうな先読みしてイベントこなすのって、楽しい!? もっとオドロキの感覚を大事にしようよ」

 ノアは、眉を上げただけだった。

 確かにこの子がいちいち驚くために思考を止めてしまったら、私たちこのイベントをクリアーできるかどうか分からない……なんてそんな、まるで私考えてないみたいじゃないか。そんなことはない。ないない。

「邪のオパール団、ていうのが暗躍してるわけでしょ。

 今のところ分かってることは、アリーゼの母親のクラリーネにそのオパール団が接近していたこと。どういう狙いがあるのかはよく分からないけど」

 するとノアが答えた。

「簡単なことでしょ」

「なんだよノア、分かるのか?」

 シロウも目を丸くしている。

「狙いは、結果を見れば分かるんじゃないかしら。アリーゼ姫の失踪と、トルデッテ伯爵の病気。床にふせってるって言ってたわよね? それ、オパール団のせいじゃないかしら」

「ああー、そうかも」

「執事のイシューさんは、アリーゼ姫の失踪とクラリーネ夫人の失踪は関係在るようで関係なく、それでいて密接に関係しているとか、ややこしいこと言ってくれたわよね。だから単純な話じゃないんでしょうけど……、そこらへんはきっと、イベントすすめていけば分かるわよ」

「うん、そうだね!」



 そして私たちはマハドールギルドにある道具屋「魔女の指先」に向かった。店の数も多すぎてややこしいっての! 違う店に突撃しそうになって、止められた私でした。

 ぼっさりしたお兄さんは真珠と糸をみて、

「あ、それで首飾りを作ってあげるよ。ちなみに五十ゴールドだけど」

と言った。

 カジノで余ったコインを換金し忘れていた、なんてことはなく、五十ゴールドを出した。

 道具を精製するスキルっていうのがあるらしい。錬金術士と道具屋関連の職業が密接な関係にあるのはそのため。あのレアラだって今は単なる道具屋のお姉さんだけど、スキルを高めてすごい錬金術士になろうとしているのかもしれない。

 そういやあのラガートとかいうのも、昔は道具屋で商売していたのかも知れない。すっごい居丈高な店員だったんだろうなと、簡単に想像がつく。商品をお包みするのは客の側、みたいなね。


 道具ができあがる効果音が鳴り響いた。

「はい、真珠の首飾りいっちょうあがりー! ありがとうございました」



「ねぇカンナ、私たちに道具屋のスキルがあったら、今無駄金払う必要なかったのかな」

 話しかけるとカンナは、

「無駄金って……」

としばらくシーンとした。口がすべっただけじゃないの。

「えっと、確かに今合成のスキルがあったら自分たちで真珠の首飾りを作ることができましたね。でも皆さんはまだスキルをもつことができません。そのためにはパーティレベルをあげないといけないんです。

 パーティレベルというのは、そのメンバーでこなしたイベントの数と関係があります。簡単にいうとひとつイベントをこなすたびにレベルがひとつあがると思ってください。でも、皆さんのレベルに呼応したイベントをこなさないと、パーティレベルはあがりません。レベルの低いイベントを十こなしても、パーティレベルが十になったりしないということですね。

 レベルがあがったらちゃんとご案内しますから、楽しみにしててくださいね!」

「ちなみにどれくらいレベル上げたらいいの?」

「えっと……、3は欲しいところですが、他にも色々条件はありますから」

とのことだった。

 ほんとにいろいろ細かい設定にあふれたゲームだな、リンダリング。全部覚えておくなんて不可能だわ。



* * * * * * *




 真珠の首飾りを持って、酒屋のトムのところに突撃していった。

 アイテムを出すとトムは、酒を口からぶっと吹き出した。


「それは……それは真珠の首飾り! おお、俺はこれでようやく帰ることができるんだな、懐かしいあの、海へ!!」


 諸手をあげて大喜びしている。私たちは手をにぎられてぶんぶん上下に振られた。トムは「飛び上がらんばかり」どころかほんとに飛び上がり、カンナみたいにはねていた。

 しかし。


「トム、あんたこのまま出ていこうってのかい」

 酒屋のあるじが立ちはだかった。

「あんた今までどれだけのツケが積み上がってると思ってるんだ? 行くっつーならアンタそれ全部精算してからにしてもらうよ」

 トムの顔から喜びが消え、後には絶望が広がった。

 ちなみにきいた借金の額は、シロウが胸をおさえるくらいのものだった。あんたの胸に生えてるものも、けっこーな同情を呼びそうだけど……と言うと傷つきそうだからやめておいた。

 出ていこうとすると、トムが私たちを呼び止めた。


「あんたたちには感謝しているよ。コレ、少ないけどとっておいてくれないか」

「それって……」

 金袋だった。中には千ゴールドもぎっしりつまっていた。

「いいんですか? これ、借金にあてればいいのに」

「いや、このままだと全然らちがあきそうにないから、ドーンと一発荒稼ぎに賞金ハンターイベントにでも挑戦することにする。これは、君たちに渡したいんだ。真珠の首飾りは、本当ならそれくらいするはずだから。ほら、そのしおりは通りすがりの男から巻き上げたものに過ぎないから。ただで手に入れちまったもんで、真珠の首飾りゲットなんてさすがに夢見が悪いだろ!?」

 照れたように頬をかくトムが、とっっても素敵に見えた。

 ああこれが私だったら「巻き上げたしおりで真珠の首飾りゲット、大ラッキー! さすが神に愛された人間はち・が・うわぁぁ!」なんて鼻息あらくケーキでも食べて甘い生き様を楽しんでいたことだろうに。

 えっと……ほんとはそこまでひどくないと思うんだけども。

 だけど千ゴールドだよ千!! あぶく銭で一気に金持ちだよ。この金でノアに杖を買ってあげられるんじゃないの!? と喜ぶかと思いきや、ノアは考え込んでいた。

「これ、どういうひとから手に入れたんですか?」

 訊かれたトムは天井を見てしばらく悩んだ。

「よく覚えてないけど……なんだかイノシシみたいな顔をした男だったかな……」


 そして私たちは「恋のしおり」をゲットした。

 古びた紙でできている、手作りのしおりだ。恋関係のアイテムの効果をあげるらしい。というか恋関係のアイテムって……なんだ?

「告白したりするのかなぁ。恋愛要素って、あのドジョウヒゲのどこをさがしたら見つかるっての?」

 道で座って本を売ってるあの有様はけっこうな枯れっぷりだったけどね。ミューちゃんとの恋をはぐくむとかいうのなら、納得だけどさ。


 なんて考えていたらひどい目に遭っている彼のもとにたどりつくことになってしまった。




* * * * * * *




「もんもんもんもん、我ら門番ブラザーズ!」

「--ズッ」

「ときに門番、ときに地上げ屋、お前だれの許しを得てここに店を出してるんだか言ってみろ!」

「そうだそうだ、言ってみろ!」


 ノアがイヤそうな顔をして立ち止まった。

 道に本を並べているあのドジョウヒゲオヤジ、悲しげに三角座りしてブラザーズの恫喝に肩をふるわせている。

 ま、まるで小鳥のように可憐じゃないか。



どうしますか?

1 「ちょっと待ったらんかいこのハゲ兄弟が!」

2 「通りすがりの者ですが、通り過ぎていきますので」

3 「ニャー……へっくしょん」


 ウィンドウが立ち上がった。どれを選択する? とばかりに数字がきらきら光っている。

「ま、また三択!」

 うめくと二人が目を丸くした。この前夜のかぼちゃ屋敷で、シャーリー達の会話をきいたときにこの窓が立ち上がったのよね。

 ブラザーズの動きはぴたりと止まり、私たちの選択を待っている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る