【主人公】戦場駆動【喋らない】
アルファるふぁ
第壱章
第壱章一話 【出撃】
砂漠の荒野
水分の無い、静かな大地に
「3」
無機質な塊とその中の人間が、いくつも並んでいた
「2」
その遥か数百メートル先、同じ様な物が陣形を堅持し突撃する
「1」
突撃する鉄には白い体に二本の脚と、マシンガンを握った二本の腕と、大福のような頭が付いている
相対する迎え撃つ鉄には、六本の脚と、長い砲台が載っている
「ファイア」
防衛側の一人が言うと、各機が砲弾の雨を敵に対し降らせた
迸る爆風
襲い掛かる死の流星群
二本脚の大福頭が一機二機三機と、敵の大砲の餌食にされていく
「6番機大破ぁ!15番機、動けません!」
「構うなッ!あいつらの命を、無駄にしてはいけない!」
数に勝る突撃側が全力で攻撃を耐えきり、射程圏内に敵を捉えるまでに接近する。歩兵のそれとは比べ物にならないサイズのマシンガン弾が六本脚に突き刺さった
連続マズルフラッシュ、弾丸シャワーマシーン。防衛側の一方的な攻撃から、接近戦仕様の攻撃側の反撃ラッシュ
たちまち戦場は大混乱状態になってしまった
十人十色の悲鳴、断末魔の嵐
六本脚からの機銃攻撃で思うように攻撃できない二本脚。二本脚のマシンガンに恐れをなし浮き足立つ六本脚
つまり両方一進一退
片方がもう片方を上手く潰すことができなくなっている
戦況は完全に泥沼となった
「作戦内容を説明します」
狭いコクピットの中、砂漠には似つかわしくない爽やかな女性の声が響く
「新発見の資源を発掘中のフルハウス団調査隊に向け、白虎帝国の部隊が攻撃中です」
コクピット内の映像パネルに、地図と、それぞれの対象を示す点が写る
「両部隊が疲弊したころを見計らい攻撃、殲滅します」
別のパネルには、予想される敵戦力の画像が出ていた
「漁夫の利を狙う卑怯な戦いですが、この数では仕方ありません。早めに終わらせてしまいましょう」
コクピットを内蔵した機体の駆動音が大きくなる。それは言うなればレース前のアイドリング
「作戦領域到達。タナトス、出撃してください!」
声と同時、低空飛行していた輸送機から、今殺し合いをしている鉄達とは一際違う機体が投下される
「無事を、祈っています…!」
黒い全身、かなり無骨なボディ、それに見合う太い脚、暗い赤の頭、片手にバズーカ片手に手持ちガトリング、それらを纏めて飛ばすための背部大型ブースター
異形と呼ぶには圧巻なそれ、は
「北西から新たな機影確認ッ!」
「こんなときにぃ!」
その場にいた誰からも歓迎はされなかった
しかし、目視の瞬間それ、は
「あれは死神って噂のヤツか!」
「知っているのかお前!?」
「だからなんでこんなときにぃ!」
顰蹙から恐怖の声に、周りからの反応を変えさせた
ブースターユニットが焔を吐き出す、急加速
対空砲火を試みようとした六本脚が隙を見られて蜂の巣になる中、それは無様に戦う機体達を見下ろす位置に滞空する
「なめやがってぇ!このッ!」
「いかん、待て!」
「え?わっ!?」
それに対し攻撃を仕掛けようとした大福頭がカチ割られる
そう、ここは泥沼の戦場。隙を見せたらコクピットの中で死ぬ
オペレーターと輸送機パイロットは、このタイミングを狙っていた
ならば戦闘パイロットがやるべきことは一つ
大福頭のマシンガンとは比べ物にならない威力の弾幕が降り注ぐ
もはや雨すら凌ぐ鉄鋼の矢は、ガトリングから放たれている
六本脚は脚が遅く回避が間に合わない。穴だらけになり、ことごとく大破した
二本脚は全力疾走何機か逃げおおせたが、離脱出来たのは数機のみ
「隊長!見捨てないで下さい!助けッ」
息がある機体に、巨大な砲弾。爆発。
バズーカによる砲撃が、あわれな敵を消し炭にしてしまった
「し、死神め、怖かねぇ、怖くなんかぁ!」
若いパイロットの一人が、それに銃口を向ける
しかし、バズーカの無慈悲な一撃は、攻撃を許さなかった。巨大な弾頭が装甲を食い破る
若い命は死神により、他の機体ごと爆風に包まれる
「があああああ・・・!」
唐突に現れ、無慈悲な攻撃で死神は、一分足らずで魂を粗方持ち去った
大型輸送機、ホーネット号
その機内修理ドック、ほぼ無傷なタナトスの修理ドック。オペレーター・ミシェルがパイロットに話し掛けていた
「大きな怪我がなくて安心しました、いつも無茶な戦いかたですよ、次は気をつけて下さいね」
心配するミシェルは少々怒っているらしい。可愛らしいブロンドが、揺れている
鉄臭いドックの中、タナトスの上から二人に声が掛けられる
「夫婦喧嘩なら他所でやったらどうだい?」
初老の整備員、ラドリー
彼は髭を撫でながら、ミシェルをからかう様に言った
頬を赤くし、ラドリーを無視しながらオペレーターは話を続ける
「伝えたいことがあるんです。あなたが、私と一緒に借金を協力して返すって聞いた時、私思いました」
またブロンドが揺れる
「優しいひとだな、って」
ミシェルは静かに立つ黒鉄の巨像に顔を向けながら、
「戦場で生きるのが辛いなら、辞めたいなら、言ってください、あなたは死神なんかじゃありません、その名前はこの子が持っています」
優しく微笑んだ
輸送機は死神を載せ、飛び続けた
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