第11話

 守人はこの場での為すべきことをやり遂げたことに達成感を感じていた。

 魔法使い二名、うち一名は全身ボロ雑巾のような状態で気絶している。そして、魔力を形成しつつある彩葉の処罰。一日で計三名もの魔法使いを倒したことに対してだ。


「これで、この町に巣食う害悪を排除できた。あとは、あいつを殺せばこの件に片は着く」

『まさか、一日で三名もの魔法使いを殲滅してしまうとはね……!』


 不意に鎗真からの通信が入る。


「手ごたえのある魔法使いは一人しかいなかったからな」


 自身の負った傷と雨宮源十郎を一瞥する守人。


「雨宮源十郎。キャパシティ所属の最高幹部の一人か……この強さの魔法使いがあと何人いることか」

『有益な情報に期待しときましょう』

「それよりも鎗真。蘭はあとどのぐらいで着くことになっている?」

『もうそろそろ到着する頃かと』

「なら、撤収準備をしておくか」


 守人は三名の魔法使いを回収するべく、黒いビニール袋を取り出す。

 通常魔法使いを殲滅し終えたあとは、表の治安維持組織である警察に任せるか、自分たちで死体回収までを行う。

 それを以て、各所属の支部に戻り事後処理を行う。そうして魔法使い殲滅の業務が終わる。

 守人が源十郎をビニールに詰め込むべく近づいた時、通信機から鎗真の荒げた声が守人の耳に響いた。


『天童さん! 後ろ! 彼女が生きています!』


 振り返ると、そこには禍々しい邪気を漂わせた、幽鬼の如く彩葉がゆらりと立ち上がった。


「完全な死を確認していなかった私のミスだな。まさか、あの状況からその力を手にするとは」


 最後で犯してしまった自らの失態に嫌悪する守人。

 死の間際、生と死の境界線上から彩葉は帰還した。

 

 

 ――新たな力を持って。


 

 土砂降りの雨の中、虚ろな瞳に明確な殺意を持って静かに守人を見据える彩葉。憎しみと悲しみと絶望に打ちひしがれた彩葉は、存在そのものが危険で破壊と災厄を振りまく魔法使いへと成り下がった。

 そこに彩葉の自我などない。溢れ出る膨大な魔力に取り込まれ、感情のままに体が動き出す。

 彩葉は腕を差し出し、その手の先から魔力が収束され一本の刀を形作る。白と黒の織り交ざった色をしている。刀身三尺、彩葉の胸辺りまである刀を両手に構える。

 自然と守人も戦闘態勢を取り、来たる戦いに闘志を漲らせる。


「悪いが雑魚に用はない。一瞬で終わらせてやる」


 その瞬間、血に飢えた狼の如く駆け出す彩葉。その手に握る刀には、獲物を一太刀で切り伏せる鬼気迫るものを感じる。


「遅いな」


 子供の遊戯に付き合っているような感覚でたやすく体を反る少ない動作で避ける。

 虚しくも空を斬るだけで終わった彩葉は、諦めず二振り目に入るも守人の手刀によってガラスの割れるような音と共に砕け散る。彩葉がもう一本刀を造ると同時に守人の拳が彩葉を襲う。大きく吹き飛ばされる彩葉。

 一瞬早く刀が出来上がったおかげで防御に間に合う。が、刀は砕け、その先を通り越して彩葉にまで届いた。守人にとっては鈍らの刀以下の所詮ガラクタに過ぎず、まるで防御になっていなかった。しかし、先の刀によって威力は緩和され致命傷にまでは至らなかった。

 それでも衝撃はかなりのもので体中にガタがくる。


「反応は大したものだな。このまま放置しておけば、後々厄介なことになりそうだ」


 守人は素直に彩葉の運動神経を褒める。同時に危険度を再認識し、次の一撃で仕留めるべく全神経を研ぎ澄ます。

 彩葉は軋む体を奮い立たせ、再び立ち上がる。

 両腕に魔力が収束され、二本の鋭く尖ったレイピアを生成する。

 ダーツの矢のように守人という的へ向けて投げる。時間差でもう一本のレイピアも投げる。

 守人は二本の指の隙間で迫りくるレイピアを挟み込むようにして捕え、そのままもう一本のレイピアを叩き落として彩葉に投げ返す。悲鳴をあげた彩葉の肉体では満足に動くこともできず、せめてもの致命傷を避けるべく体を捻り、彩葉の肩を掠める。

 彩葉は力が抜けたように両膝を地面につけ、杖代わりに生成した刀で体を支えた。

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