明け方: 祈り [????]
‘ゲオルグさん、報告が入りましたよ。あの地の穢れですが、ルツェルブルグの者達が処理したようです。彼女達の無垢なる奉仕の精神を御主への賛美とし祈りましょう’
‘知るかクソガキが。クソしてさっさと寝ろや’
隣であの男が悪態をつき始めます。
‘うぜェぞ。元々はこの島のサル共は全殺しにしろって話だろうが’
狭い部屋に座っているせいか、この男の大声は反響し耳に残りますね。
‘局長からの命では、です。しかし、御主から与えられた任務ではありません。何人たりとてそれを阻むことは許されません’
‘頭イったか? ちッとは黙ってろや’
‘どうしたのです? あの少年に手柄を譲り、貴方が人間と呼ぶ者達と戦う機会に動けなかったのにやけに上機嫌ですね?’
‘カッ! あの二人とは一度やり合ったからな。二回目は何時かで構いやしねェんだよ’
‘ほう、覚えていたのですか。十年、いや九年前ですか。審問中の彼女を攻撃したことを。あの時は巻き添えで死んだ審問官二名の咎を取らされた人がいて、随分と大変だったそうですよ?’
‘ケッ、クソ同士の舐め合いか? 知らねェなァ’
‘俗人の願いで彼女を審問にかけたあの罪人達の弁護をするつもりはありませんがね。貴方が破壊した数々の審問具、まだ一つも修復されていないのですよ?’
‘知るかよ、クソガキが’
はぁ、全くこの男と言う人物はしょうがないですね。
‘貴方の鎌とて元を辿れば御主へと捧げる信仰心から創り出されたものですのに……。審問官達の下劣で悪趣味極まりないものを肯定するつもりはありませんがね’
元はと言えば我々人間の手で創り出した審問と言う名を借りた拷問のための道具達です。高みに立ち、見下ろすようでは御主は喜ばれません。鉄の処女、ファラリスの雄牛、回転丸太寝台、三日月の振り子、車裂きに八つ裂き——古より御主の名の元に思考停止した愚者達が流させた血は計り知れません。
それだけではありません。それらを恩寵具として錬成させるだけでなく、より苦痛を与えんがための独善的な工夫を施しているのです。御主の御心を慮るに、この愚行こそが御主に対する拷問と呼ぶに相応しいでしょう。
‘話を聞いて驚いたのですが、彼女には未だ自我らしきものが残っているそうですよ。常人ならば三分と持たず発狂する審問を九年の長きに渡りされていたとと言いますのに……。これもひとえに御主の御慈悲のお陰でしょう’
‘カスの作るカスなんぞ人間にゃカスなんだよ、あァ?’
意味が分かりませんね。
‘ケッ! クックック——……’
‘何がそうおかしいのですか?’
‘いや、あいつ、たった三日で二足歩行を始めやがった。クックック……’
あの少年のことでしょうか。
‘あの第二種、どう倒したのですか? 原理は分かるのですが……?’
目の少女は、『二つの首を時間概念的に同時破壊しなければ死なない』と言いました。
この男はあの少年の攻撃方法をコピーし、あの少年が首の一つを攻撃し、この男が残る一つを攻撃しました。
結果、あの第二種、水色の大蛇は死滅したのです。ならば、あの少年の攻撃は、時間概念次元に及ぼすものであった——そうなりますね。
あの少年の持つ恩寵と兵装については調べがついています。<何も無い>少年と、展開装具を持たない『ある特定の剣術の極意を実現するために鍛えられた』と言うただの剛剣です。いや、正確には
時間次元に力を及ぼすなどあってはならないはずなのですが……。
そこでふと思い至りました。あの刀の実現する剣術が、あの少年の剣術と同質なものであったとしたら——お互いを高め合い、頂き見えぬ遥か高みまで行くのではないのでしょうか、と。
‘クックック……。分かってねェな、クソガキが。だからテメェはいつまで経ってもクソガキなんだよ’
‘またそれですか。——いいでしょう。ゲオルグさん、この島での神聖なる任務ももうお終いです。くれぐれも悔いの残らぬように。御主の御子はこう仰られています、『私は世の光である。私に従い歩く者は闇の内を歩くことなく、命の光を得るだろう』、と’
‘ああ。クックック……’
私の言葉などやはり意を介さぬのでしょう。素っ気ない返事を返し、この男は含み笑いをします。
力は力を呼び、戦いは戦いを呼ぶものです。
闘争を好むこの男が動く以上、戦いを好む者、戦わざるを得ない者が集まってきます。
問題は数です。残りの数をどうするか。
そして、この島をどう断罪するべきか——。
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