恋は異なもの

 こうして好きな相手とデートをするのは、出灰が初めてだ。

 とは言え、恋愛としては初めてなだけで――相手から「好き」だと言われ、体だけと言うのは男女問わずある。出灰に、万が一にもドン引きされたくないので言わないが。

 しかし、相手はともかくおれにとっては単なる性欲処理なんで、終わった後に体も心も冷めていく中、相手に抱き着かれたり更に求められたりしても、ただただ辟易するだけだった。

 そんな訳で恋をしたのも、自分から触りたいと思ったのも出灰が初めてで。

 こうして海(今日は浜辺に来てみた)を眺めながら潮風になびく髪を撫で、傍らの小さな体を抱きしめたいと思うのも。


「刃金、さん?」


 おれの名前を呼ぶ声や、視線の先で動いた唇が愛しくて、キスしたいって思うのも――。



「チッ」


 目覚めた瞬間に舌打ちをしたのは夢オチだったからではなく、夢の中ですら出灰にキス出来なかったからだ。


(いや……昨日、本物に出来てねぇんだから、夢で無駄撃ちしてる場合じゃねぇけどな)


 そう、このおれが(頭を撫でたり、抱き寄せるくらいはしたが)昨日『も』キス出来なかったのだ(二回目)


「……アザラシ?」


 そう言って、出灰はおれから離れたかと思うと海面みなもをしばし見つめ「あぁ、サーファーですね」と納得した。それはそれで可愛かったが結局、キス出来なかった(三回目)

 もっとも夢は願望だと言う一方で、本番に臨む為のシミュレーションだとも聞いたことがある。

それならば、情けないがこうして出灰の夢を見ることで、いつかは本番に役立つかもしれない。


(覚悟しろよ、出灰)


 浮かんだ面影に、挑むようにそう告げると――おれは身を起こし、シャワーを浴びる為に浴室へと向かった。

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