双子の魔道師、その3―水系魔道師の姉―
ラルファロ諸島に住む魔族と、他の島から海に遊びに来た魔族及び宿泊客全員を巻き込んだ、水系魔道師リゲリオンの非情かつ卑劣な攻め方。
この戦法に気づき、ようやくリタ達は〝周囲の魔族達を巻き込みたくないから、戦う〟と腹を据えた。
「どうした? かなり動揺しているようだが。もう降参か?」
「だ、誰が降参なんかするもんか! リゲリオン、お前のような卑劣な攻め方をする奴に、私達は絶対に負けない!」
「そうだ! リタの言う通りだ! 僕達はどんな時でも、絶対に諦めない!」
二人は奴隷戦士として働かされた怒りや恨みを、リゲリオンにぶつけた。
「ほう。それが、お前達の想いか? もしそれが本当の気持ちなら、俺達魔道族にとっては、綺麗事にしか聞こえないぞ!」
そう言いながらリゲリオンは、津波のような形の水系呪文を、リタ達に向けて放った。
だが、それをヨゼフが捨て身で防いだので、幸いにもリタ達や他の魔族達は無傷で済んだ。
「リゲリオン……。全く、あんたは何してるのよ?」
どこからか、リゲリオンを知ってるかのような女性らしき声が、リタの耳に入った(他の魔族達には、この声は聞こえないようだが)。
その声の主は、凄まじい冷気を放ちながら、リゲリオンの前で姿を現した。
「メアリー……。キア様に仕えていて忙しいはずのお前が、なぜここに?」
「あら。忙しいのは、あんたも同じでしょ? それに、姉である私に向かって、〝お前〟はないでしょ?」
「俺は認めないぞ。いくら双子の魔道師でも、お前が操るヘボな氷系呪文と、俺が操る水系呪文とは……」
「はぁ……。また、その話? そのことなら、もううんざりするくらい聞いたわ」
メアリーとリゲリオンは、揉め事を始めた。
(あいつら、双子だったのか。さっきからどうりで、そっくりだと思ってたよ)
リタは双子の魔道師のことを、顔や容姿などから、そう判断していた。
氷系魔道師メアリーと水系魔道師リゲリオンの揉め事は、更に続く。
「大体あんたって人は、いつも下級のくせにキア様に逆らうような真似をして、勝手な行動ばかり。恥ずかしいったら……。取り敢えず、キア様の命令で、あんたを連れ戻しにここに来たの。本来ならあの小娘を始末するのは私の役目だったはずなのに、あんたが勝手に自分の役目と勘違いして、こんな雑魚な鮫まで呼んで……。さあ、早く領国に帰って、キア様にたっぷりとお仕置きして頂かなきゃね」
メアリーの脅迫めいた言葉――いや、脅迫という程度ではなく、むしろこれがキア一味の魔道師にとっては当然の仕打ちなのだという意味も含めて、彼女はわざと厳しく言っている。
このことは、リゲリオンにも痛い程伝わっていた。
が、伝わっているからこそ、余計にメアリーのことを小癪な魔道師と決めつけ、〝絶対に認めない〟という気持ちで、彼の胸はいっぱいになる一方だとも言える。
結局、水系魔道師リゲリオンは、双子の姉の氷系魔道師メアリーにレザンドニウム領国まで連れて行かれた(最も、リゲリオンが素直に従って、というわけではないが)。
(突然のメアリーの登場によって、私達も周囲の魔族達も命拾いした。が、いつも今のようになるとは限らないだろう)
リタはベッドに横になって、ずっと考え事をしていた。
そのことを考えていたのは、他の二人も同じだった。
(早くフィブラスに帰らなきゃ。王国に帰って、キア一味の魔道師達が陰謀を企ててるってことを仲間達に知らせないと。とにかく、これはもう、砂龍族や他二つの種族だけの問題じゃないんだ)
(リタ宛ての手紙に書いてあった、《ガルドラ龍神伝》って、一体何なのかしら? その伝説にある《闇龍アルエス》と龍神に姿を変えたそれぞれの一族の代表者達の戦いは、本当なのかしら? どっちにしろ、調べる必要があるわね)
レザンドニウム領国と闇龍アルエスとの関係について疑問を抱きながら、三人は明日からの船旅に備えて、睡眠をとった。
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