双子の魔道師、その1―手紙のやり取り―

「ランディー陛下!」


 フィブラス砂漠にある、砂龍王家の城。


 この城の中で、いつもより大きな声で王の名を呼ぶ魔族がいた。リタの乳母であり、砂龍王の部下の一人でもあるジオだった。彼女が王を呼び止めたのは、彼の部屋の近くだった。


「これ、落ち着きなさい、ジオ。一体、何があったというのだ?」


「あなた様宛てにお手紙が来ています。それも、リタ殿下直筆の物です」


「何? リタから?」


 ランディー王は、目を丸くした。彼の想像では、リタ姫は九年前にキアに誘拐され、レザンドニウム領国で亡くなったのだと、思っていたからだ。


 彼はジオから手紙を受け取り、読んでみた。その文字は、確かにリタのものだった。


『親愛なる父上へ――


 レザンドニウムの領主キアの襲撃を受けてから九年が経ちましたが、お元気ですか? 私は砂龍族から引き離され、奴隷として一生領国で暮らすのかと思いました。が、水龍族のヨゼフ、火龍族のナンシーが励ましてくれたおかげで、キアが操る奇怪な魔物に勝つことができました。今はレザンドニウムを脱出して、彼らと一緒に砂漠を目指して冒険しています。


 ――あなたの娘、リタより


 追伸 再会した暁には、パーティを開いて一晩中踊り、一緒に喜びを分かち合いましょう。お返事、お待ちしています』


 ランディー王は手紙を読み終えると、大臣に代筆を依頼した。



 一方、リタ達はレザンドニウム領国から南に八キロ行った所にある港町ヌータスの喫茶店で、ケーキを食べている。


「ねぇ、リタ」


「何だい、ナンシー?」


「お父様やジオ様には、ちゃんと手紙を送ったの?」


「うん、昨日ね」


(そうか……。リタもヨゼフも昨日、一族宛てに手紙を送ったんだ。私も今日、ゼネラ族長宛てに送ろう。レザンドニウムを脱出することができたから、いつかは火龍族の町に一泊するつもりです、てね)


 ナンシーは、奴隷として魔道族に誘拐される前のことや両親を殺されたこと、仲間達と離ればなれになったことを振り返りながら、族長との再会を果たしたいという気持ちで胸がいっぱいになるのだった。


「どうしたの、ナンシー」


「あ……何でもない。大丈夫よ、ヨゼフ」


 二人の会話に、リタが入ってきた。彼女は、今後のことについてヨゼフとナンシーに話そうとした。


 その時、二羽の伝書鳩が手紙を運んでくるのが、彼女達の視界に入った。


「なんて早い……」


「まあ、ガルドラの伝書鳩は素早く手紙を運ぶように、特別な訓練を受けてるらしいからね」


 リタとヨゼフは、期待に胸を膨らませながら、伝書鳩が口にくわえている手紙を受け取った。


(良かった……。まだ父上もジオも生きてるんだ。しかし、これは絶対にツーリアン大臣に代筆させた物だね。ジオだったら、丁寧な字で書類を書いてたからわかるよ)


 リタは王国からの手紙を読み、安堵の表情を浮かべた。彼女が読んだ手紙と、ヨゼフが読んだ手紙の内容は、以下の通りだ。


『親愛なるリタ姫へ――


 手紙に書いてあった、帰省祝いの件は了解した。私もジオも、お前と会える時を、楽しみにしている。


 さて、話は変わるが、こんな伝説をお前も一度は聞いたことがあると思う。が、今後何かの役に立つかもしれないので、この手紙に記しておく。是非参考にしてほしい。――


 千五百年前、このガルドラという魔界は、闇龍アルエスの魔力による襲撃を受けた。各一族の族長や王達は、十人の代表者達をその龍と戦わせ、強固に封印させた。その代表者達の名は――


 砂龍族のデュラック、水龍族のアークレイ、火龍族のバイル、葉龍族のルナ、氷龍族のガトラ、岩龍族のシトラル、風龍族のルニス、華龍族のセルラン、雷龍族のハンス、金龍族のレグルスなり。


 闇龍封印に成功した時には、既に彼らは息絶えてしまっていた。が、この魔界を守るために、彼らは龍神に姿を変えたという。


 この伝説をこの魔界の魔族達は、《ガルドラ龍神伝》と呼ぶ。


 ――父より』


『我が友ヨゼフへ――


 手紙を送ってくれてありがとう。


 君達が冷酷な領主キア(族長の話によれば、彼はこんな性格だと聞いた)が支配しているレザンドニウム領国から脱出することに成功したということが、僕にとっても、他の水龍達にとっても嬉しい。


 いつでも良いから、一度アヌテラに戻ってきてほしい(寂しいから)。


 ――スーラルより』



(スーラル……。やっぱり九年経った今でも、僕のことを心配してくれてるんだ)


 ヨゼフは、幼い頃に生き別れた友人スーラルからの手紙を読み、微量の涙を流した。


 それは、リタも同じだった。


「ほらほら、二人とも。早く涙を拭いて。周りのお客さんが見てるよ」


 若いウェイトレスが、二人を心配してタオルを彼女達に渡した。彼女達は慌てて、涙で濡れた顔を拭いた。


 その時、ナンシーがカウンター側の壁にかかっている時計を指差して、言った。


「リタ、ヨゼフ。もうそろそろ代金を払って、船乗り場に行かないと、乗り遅れるわよ」


「本当だ!」


 リタ達は代金を払って、走って船乗り場に行った。


 出発二分前だったが、乗客はリタ達だけだった。ヨゼフは、船長に聞いた。


「あの……。この船は、ラルファロ諸島行きですよね?」


「そうだけど」


 三人は船長の言葉を聞いて、安心した。というのは、彼女達の目的は、まずヌータスから五十キロ南西にあるラルファロ諸島で一泊してから船を乗り換え、そこから四十キロ西にあるエクストロン島に行く、というものだからだ。


 今、こうしてリタは仲間達とフィブラス砂漠に帰省するため、船に乗ってエクストロン島に向かうのであった。


(父上、ジオ、待っててくれ。明後日には、帰省できると思うから)

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