バダガンラの香り

安部詠一

第1話

バダガンラの香りは、猟奇的な甘い香り。その奥に申し訳なさそうに佇むが、ふとした瞬間に人々を刺し殺す。そんな花だ。

バダガンラは、町中に蔓延すると、比喩でなく殺人性を持つ。僕がバダガンラを栽培できているのは、それが僕自身の手によって人工的に作られたものだからだ。

 僕の三十三年にわたる科学者人生の中で、これほどに自分を惹きつけた花はない。あの忌まわしい大人たちにも、この香りを知ってほしいものだ。

 大人たちは何もわかっていない。

 二〇三〇年、この国は色彩を失くした。立ち並ぶビル、アスファルト。このままでは、確実に破たんするだろう。分かっているはずなのに、大人たちは金儲けのことしか考えていないのだ。

 僕は孤独だ。それもまた大人たちのせいだ。大人たちは、僕を見るたびにまるで腫れ物に触るような扱いで接する。僕を孤独にしたのは、昔も今も大人たちだったのだ。

 だから僕は、大人が嫌いだ。

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