術式キングテッド

@yuusetu

第1話 最強と最敬―入学

『これより入学式の予行練習を開始します』

桜が風で舞い散る春の朝、新しい制服を着た二人が立っていた

「眠い・・・」

「はいはい、だけど七泉は優秀だからまだ帰れないぞ」

「優秀じゃなくてもいいから睡眠時間が欲しい」

俺の名前は祠堂凱斗しどうかいと、それでこっちの眠そうな言葉しか言っていないのは長瀬七泉ななせななみ、通称なーちゃん

そして俺達が今いるこの場所は国立一条高等学校高等部

魔術法

幻想的で不可能と言われていた技術はここ数十年の内に完成され、今では生活の中にまで影響を及ぼしている

この技術の発展により世界審査基準まで設けられ、各国が様々な技術を作り出そうと切磋している

まだまだ多く可能性を残しているこの技術を若い世代から伸ばそうと設けられたのがこの学校だ

「それにしても凱斗はセカンドコードなんだね」

「体が体だからな、こうなるのも予想していたがまさか本当にこうなるとはな」

「凱斗はそれで納得しているならいいんだけど」

この学校の定員は一学年に付き200人程度

その約150人だけが『ファーストコード』という名誉ある肩書きを得ることが出来る。『セカンドコード』は伸びた場合を想定して移行される、悪く言えば実験体

入学試験に行きつくまでもかなりの実力がなければいけないし、それでファーストコードに認定されれば凄い事だ

俺は少し『特殊な理由』が色々あって、下のコードに落とされた

審査基準は、術式の大きさと早さ、そしてその術式の展開の難しさによって決まる

そしてもう一つ、バススロット(魔力貯蔵量)の数値でも審査される

基準は0~100として普通の学生が50~60、ファーストとなると70~85クラスもいる

一方俺はと言うと試験の結果、魔力貯蔵量を測る機械ではたったの『15』だとはじき出された。

言わなくても分かるが学年最下位であり、歴代初の数字だ

そんな俺がどうして入学出来たかと言うと基礎知識のテストで良い点数を出した為だけだ

『あの子見て、セカンドよ。可哀想ね』

『何で笑っていられるのかしら』

そして入学出来たとしてもファーストとセカンドには大きな影があった

第一コードは、ある程度の術式ができてエリート気分なのか、全くそういう事が出来ない第二コードを蔑んだ目で見ている

それ故に入れたとしてもセカンドコードと言う理由で辞退する人も中に入るらしい

「じゃあ学年一位様はスピーチがあるだろ?行ってこいよ」

「了解です、凱斗もちゃんと参加するんだよ」

「気が向いたらな」

こうして学年最高位と最低位のコンビは解散した

わざわざ何か言われる式に出るかどうか考えながら校舎の周りを歩き出そうとすると後ろから女性の声で呼び止められる

黒髪長髪でいかにも日本人らしい顔立ちの人

少し小柄だが威厳とお嬢様らしい雰囲気を恥じなく出している

『新入生ですか?』

「はい、そうですけど?」

「何か困っている様に見えたものですから」

「大丈夫ですよ、生徒会長さん」

「あら?私の事を知っているの?」

叉條院雪風さじょういんゆきかぜさん、この学校の理事長の娘でもあり現生徒会長。最高位術式は風の上級術式の『不可視激風エンフェザー』をお使いの御方で間違いないですよね?」

「そうだけど、貴方は何者?」

「セカンドコード、1年5組に決まった祠堂凱斗です」

「祠堂、凱斗くん・・・そう、貴方が」

その先を言いかけた時に違う人に声をかけられる

腕に腕章をつけているから生徒会役員で間違いないだろう

「要件があるみたいですね、では俺はこれで」

「いつでも生徒会室に来ていいわよ、凱斗くん」

「前向きに検討します」

俺は振り返らずにその場から離れた。

これが悲劇の始まりだという事にその時の俺は気が付いていなかった

入学式も終わり、全員がクラスに集められる

クラスといってもアメリカの様に席は自由で階段状に縦7列ある

とりあえず座って勉強内容を確認していると声を掛けられる

『あの~?お隣いいですか?』

振り返ってみるとメガネの掛けた同級生らしき人だった

肩の辺までチョコレートの様な色をした髪を垂らして話す度にかき上げている

肉眼は、金色になっており、おそらく『術眼』の持ち主だ

術眼とは、術者が視るだけで能力行使できる眼の事で、多くの種類はあるがほんの一握りの人しか持てない眼だ

それを置いて瞬間的に思ったのがその存在だ

この人・・・どこかで見たことあるような・・・気の性か

「大丈夫ですよ、少しうるさいかもしれないですが」

「凄いですね、私なら絶対に間違えちゃいます」

「俺も時々は間違えますよ、でもこういうのは慣れですから」

「あぁ、そういえばまだ自己紹介してませんでしたね。私は、笛木満奈ふえきまなです」

その言葉に数秒前に抱いていた疑問は無くなった、雰囲気が少し似ている知り合いの妹さんだ

だがお互いに面識はないのでこれが初めましてだ、少なくとも悪い人ではない

「俺は祠堂凱斗です、よろしく」

「もうすぐ友達が来ると思うんですけど」

そう言っているとちょうどその二人組がやって来る

「いた満奈・・・あれ?お邪魔だった?」

「えっ!?いやそんな事ないよ」

その友達が来たと言われ振り返ってみるとそこには 時に知り合った子がいた。今日は『さいかい』が多い日だな

髪は紅く、長いその髪をつむじの下の所で一つにまとめている。所謂ポニーテールだ

手には布で包まれた何かを隠しながら持っている

もう一人は短髪でしっかりと鍛えられているのは制服越しでも分かる

腕には黒い手袋をしていて、学校内だが警戒を解いてはいない。勿論俺に向かってもだ

思わぬ再会に嬉しくなり思わず立ち上がって女性の方にお辞儀をする

「お久しぶり、司」

「ん?・・・あっ!凱斗!!」

思いっきり指を指され大きな声で叫ばれる

だがその後に余程嬉しかったのか抱き付かれて、反動を消す為に一回転して降ろす

「良かった、覚えていたのか。1年半位振りだな、お互い元気そうでなによりだ」

「そうね、でもお互いにまた生きて会えるとは思っても見なかったわね」

突然意気投合して満奈さんと隣にいた男の同級生は戸惑っていた

この子とは"昔少しあって"お互いにお互いを隅々までよく知っている

「でも何で?ここに居るのはおかしくない?」

「同じ言葉を返すよ、多分で落とされたんだろう」

あぁ、そういう事ねと言って納得してくれた。他の二人は全く納得していないが

「改めて自己紹介すると私は結城司ゆうきつかさ、そしてこの男が藤岡ふじおかロウリードよ」

「ロウでいいぞ、得意術式は岩石系だ」

「俺は祠堂凱斗、俺も凱斗でいい、俺の得意系は・・・司と同じで特にないと言っておく」

「特にないっていうのは逆に珍しいですね」

人それぞれに個性があるのと同じように得意術式がある。つまり無いのは個性がないのと同じようなものだ

矛盾するが得意系がない訳じゃない、ただ

「俺はどっちかというとMMD技師になろうかなと思って入学したから」

MMDとはマジック・メイク・デバイスの略

簡単に言えば術式を展開しやすく、そしてより強く術式を出せるようにした物である

その機械に使用者が使える術式を登録されており、使う瞬間に補助してくれる

これを使っているのといないのでは使う魔力の量が倍近くになることもある

「それはまた意外なものに、あんたのスキルと術式なら他の何にでもなれるのに」

「MMD技師と言うと結構大変だぞ」

「それは分かっているよ、まぁ自分に出来るのはこの位だからな」

そんな事をしていると先生がやって来る

俺のことを見ると少し会釈するので俺も同じように返す

今日は少し内容を話しただけで解放された

HRと次の時間からの話だけで終わり、すぐに解放される

「思ったより早く終わりましたね」

「そうだな」

「その後予定ある?みんなでパーティーしない?」

「ごめん、この後は待ち合わせがあるんだ」

そんな事を言っていると俺を見つけて七泉が駆け出した

「来たな、早かっ―――」

俺の目線の先では七泉がやって来る

だがその後ろから雪風先輩と男の役員も引き連れてやって来る

しっかりとした感じの男の人でいかにも仕事が出来そうなキリっとした顔をしている

目付きは俺を見ているからか吊り上がっている

ニッコリと笑っているが俺は同じようには返せなかった

「こんにちは、また会ったわね」

「こんにちは、それで何の御用ですか?」

本当の事を聞いたのに男が少し睨んでいる

俺の連れは早くもクラスメイトと意気投合して楽しそうに話している

「まぁまぁそんな警戒しないで、今日は挨拶みたいなものよ」

「そうですか・・・」

「じゃあなーちゃん、詳しい話はまた後日、その時は君にも来て欲しいね」

「遠慮しておきます」

「そんな謙遜しないの」

去り際、俺の真横を通る瞬間に少し小耳にはさまれた

『君の秘密ももう聞いちゃった事だし』

驚いて振り返った瞬間には、もう話しかけられる状況ではなかった

男性の方は去るまで俺を睨んだままだった

そして同時に充電切れになったのか、七泉が寄りっかってくる

「全くいつになったら無駄口はなくなるんだ」

「だって別に状況が変わる訳じゃないじゃん、変えようと思えば変えられるけど」

「お前が幼馴染じゃなかったら見捨てる所だぞ」

「でも結局は構ってくれるじゃん」

「何だ?お前ら付き合っているのか?」

「言葉がストレートだな、それは時と場合を選んだほうがいいぞ」

「付き合ってはないよ、ただの幼馴染同士」

「まぁ少し特殊な関係だけどな」

「特殊な、関係」

俺の言葉に瞬時に反応したのは満奈で顔を一気に赤くした

「思っているような関係じゃないからな」

「凱斗には結構助けてもらっているからね」

「手助けしかできないけどな」

「それがかなり助かっているんだよ」

「はいはい、そうですかよ」

家に帰ると七泉をベットに寝かせて俺は夕食を作り出す

七泉は確かに強いがその分リバウンドが生じる、それがこの睡眠欲だ

簡単な術式ならばあまり効果はないが上級な術式を使えばその分睡眠欲は強くなる

その結果何かあった時を想定してこうして俺が一緒に暮らしている訳だ

「ほら、ご飯の時間だぞ。起きろ」

「ん~、起こして」

「今起こしているだろ」

「一階まで運んで、そしたら起きるから」

「絶対だからな、起きろよ」

おぶったままゆっくりと階段を下りながらテーブルの椅子に腰掛けさせる

そしてテーブルを枕にしながら俺が出した料理を口に運んでいく

体勢がそのままなので詰まらせそうになる事が多い

「MMD改良すべき点があるよ、こんなに眠くなるなんて」

「その前に今日付けていくの忘れていただろ、重さで気が付かなかったのか?」

「マジで!!あぁ~どうりでぇ~」

「MMD無しで術式使ったらそりゃ消耗は普通よりも早いよ」

「道理でなんか使いにくくて燃費が悪いと思ってたよ」

「それはどうにも出来ないな」

「という訳で眠る」

「寝るんだったらちゃんとした所で眠れ」

「運んで」

「俺はお前の執事じゃないんだぞ」

そう言いつつもちゃんと部屋まで運んでやる

七泉とは付き合っているとかではなく俺の家族が亡くなって、一人になった時に迎え入れてくれた新しい家族みたいなものだ

次の日の放課後、半ば強引に俺は生徒会室に連れてこられる

何故かと言うと七泉が呼ばれたのだが俺の袖を握ったまま離してくれない

「到着しましたよ、いい加減離してください」

「呼ぶように頼まれているからそれは無理」

方法を考えていると勝手にドアを開けてしまう

「失礼します」

「来たわね、どうぞ入って」

「じゃあ俺は失礼します」

「日本語って難しいよね」

より深く握り込まれて強引に俺も入らされる

席に座ると目の前には生徒会長の雪風さんと女性3人の生徒会役員、つまり面接状態だ

「じゃあさっそく本題に入りましょうか、本生徒会は選挙制ではなくて役員は生徒会長である私に選考を一任されています

そして例年成績トップの方は生徒会へ入ることを容認されています」

「つまりだ、七泉ちゃんをスカウトしたいってことだ」

口を挟んで来た髪の短めでボーイッシュな女性が風紀委員の須郷光咲すごうみさき

「結論的には即戦力なので出来るだけ入ってもらいたいのが現状ですが」

逆に髪の長くて落ち着きのあるこの人は須賀谷英美すがたにえみ書記委員でタブレットを手元に構えている

さっきから部外者だからかすごく睨みつけられている様に見えたが元からそういう目をしているみたいだ

「でも決めるのは本人ですが・・・ね」

この人は響杏明ひびきあみ、正確にはミドルネームでエイシアが付く、会計で役員の中で一番まともそうだ

「それでどう?」

「良い評価ありがとうございます、丁重にお断りさせていただきます」

「日本語として合ってない!!」

「さっきも言ったけど日本語は難しいからね」

そう言って眠りにつきそうになる、まだ昨日のが続いているのか

「その理由はなんでか説明していただける?」

「術式の後遺症があるからあまり戦力にはならないと思うからです」

「高度な術式や上級魔法を使うとリバウンドで睡眠欲が増すらしいです」

「その症例は何回かは聞いてことがあるな、MMDで何とか出来れば良いんだけどそれは不可能―――」

「今は凱斗が作ってくれたMMDで症状は改善されているけど、昨日は持ってくるの忘れちゃいまして」

タイミングがまずかった

一瞬にして4人の視線が俺に向く、犯人は机を枕にして眠りそうな雰囲気だ

「どういう事ですか!?現行医学でも『ミスイム・シンドローム』の改善面は定義されていないと言うのに」

「MMDだけでその症状を改善させたというのか、君は!!」

ミスイム・シンドローム

七泉がなっている病気の名前で文字通り睡眠症候群

魔術法と同時位に出てきた症例で今の医学では手足が出せていない病気だ

一定の量の魔力を排出してしまうと連動して脳から睡眠物質を出されてしまう

体が体力と勘違いして体を休ませようとしてしまう病気だ

それをただの学生が改善方法を見つけたとなれば大ニュースだ

「いや、ただ単に使う補助機能を七泉用に改良させただけですよ、改善はしてないです」

「だけどその場合でも成りにくくなるという面では改善しているんじゃないの?」

「これはニュースですね、大学病院に連絡しますか?」

「やめてください」

一旦落ち着こうと会長を判断でお茶が出される

この時はちゃんと七泉も起き上がった

「じゃあ詳しく聞きましょう、君は何者?」

「昨日も言いましたが1年5組の祠堂凱斗です、ただ"それだけ"です」

「個人データによると学年最下位、バススロットは歴代最小の15しかないそうです」

「たったの15か?・・・あっ、気を害したのなら謝る」

「いえ、大丈夫ですよ。機械の結果ですし、そう思うのは不思議じゃないです」

「それにしても15も異常といえば異常ね」

「成績も筆記以外は駄目でしたね」

「筆記は5教科と魔法術式学共にオール満点の様です」

「知識は豊富、そういう事か」

「術式を使うのは少しMMDの補助寄りになっているって事ね」

そうでもないですよ、と寝言か何かで七泉が口走る

「確かに凱斗はバススロット15ですけど、それには訳があるんですよ。私が知る限りでは凱斗に勝てる人はいないです、現に私も―――」

爆弾を置いてまた夢の中に入って行った、ご丁寧にクッションまで貰ってぐっすりだ

「お前は人を不利にする言葉しか言えないのか、七泉!!」

「病気で寝ているんだし可哀想よ」

「元々はこいつがMMD忘れたのが原因ですよ、自業自得!!」

「それよりも君に勝てる人はいないという言葉の方が私は気になっているのだが?」

「夢の中の話でしょう、だって15ですよ?物を数メートル動かすのも出来るかどうかのランクですよ?」

「それにしてはなーちゃんの言葉にかなり動揺していたけど」

俺も自業自得な事をしたようだ

勢いで立ち上がっていたから自分のペースに戻すためにネクタイをいじりながら椅子にかけ直す

「では言い訳を聞こうじゃないか、少なくとも誤魔化さないと信じているよ」

「何から話せばいいんですか?」

「全部だな、もしかしたら風紀委員に推薦する可能性があるからな」

「学年が上がりちょうど席が一つ空いていますからね、状況によってはいい判断かと」

「じゃあ―――」

俺は自分の口で『真実』を言おうとした瞬間生徒会室のドアが空いた

士燮ししょうくん、遅かったわね」

「教師の手伝いをしていたので」

そんな中俺とちょうど目が合い、表情が変わる

こいつは昨日会長の後ろに付いて来て睨んでいた奴だ

「紹介がまだだったわね、彼は副会長の―――」

「どうしてこんな所にセカンドが居るんですか、そいつは最下位のセカンドの中でもまともに術式が使えない『雑魚』ですよ?」

「俺の事知っていたんですか、俺もかなり有名人みたいですね」

「始めはなーちゃんの付き添いで来ただけどね」

「面白い話がゴロゴロ出てきまして」

「今は風紀委員審査に変更した所だ」

「風紀委員に!?風紀委員は不正を行った生徒を取り締まる役職ですよ?セカンドに出来る訳がない」

「だからそれを今審査しようとしていた所だ。そうだな、ちょうどいいから凱斗くんと戦ってくれ」

「コイツとですか?勝負にもなりませんよ」

「それを今から見るんだ」

俺の意思も聞かずに第三実技場に移動して俺の力を見せる事となった

「じゃあルールを説明するぞ、先に相手を戦闘不能にした方が勝ちだ。物理的な攻撃は即失格とする」

俺と士燮先輩、そして監督員の須郷先輩以外強化ガラスの内側にいる

「二人共準備はいいな」

手首に構えた腕輪型のMMDを弄りながら少し笑みを零している

どうしてこうなってしまったと呆れつつため息をついて、俺も自分専用の拳銃型のMMDを取り出す

全体的に銀色で構成されているが銃砲面には『ある人』が鞘に刻んでいたお守りマークの十字架が入っている

使えないのがこの銃の特徴だ

「では、始め!!」

先に動いたのは先輩の方だった

俺の下に円柱状のエネルギーを展開して突き飛ばす気だ

それを回避すると狙っていたかの様にギロチン型に壁が四方向からやって来る

「上が空いているな」

前から来た壁を利用して壁走りで上に飛び出す

決まったのかと思っていたのか、また術式を構え直した

「セカンドの癖に生意気なんだよ!!」

この型は上級術式っ!!

俺と同じ位置に電気で構成された円状の物質を展開する

地面に足を付いてすぐに回避行動を取るがぎりぎり間に合わなく、吹き飛ばされる

「ぐっ、結構まずったな」

何なら早く使っておけばよかったかもな

ゆっくり立ち上がると士燮先輩の攻撃は続いた

あまり強い術式を使ってこないからただ痛みが走るだけだ

どうやら恐怖心で棄権させたいようだな

その方が副会長が最下位のセカンドを倒した何て汚名が出てしまうからな

棄権させた方が本気を出していないようにも取れるから何かと都合がいい

俺も防戦でかわすだけなのでなかなか勝負はつかないが衝撃の性なのか、七泉もやっと睡魔から抜け出した

「あれ?何で凱斗戦っているの?」

「貴方が蒔いた種なんだけど?」

「そこは少し覚えています、凱斗!!そろそろ反撃した方がいいよ、みっともなく見える」

「マジかよ・・・じゃあ行きますか」

逃げる事をやめて銃を指で回す

目付きもやる気に満ちている目に変わる

「どうやら、こっからが見所みたいね」

「反撃って言っても高が知れてる」

終わりにしたいのか炎系統の術式を展開する

その前に凱斗がエネルギーで出来た弾で差し出されていた手を打ち抜いた

勿論無機物でエネルギーだけなので何事もない、だが今ので一つ大きなものを撃ち抜いた

凱斗が撃った弾丸が術式を展開した手に触れた瞬間、吹き飛ばされる様に腕が仰け反り、展開される筈だった炎系統の術式も発動しなかった

「「「えっ!?」」」

「術式を・・・」

無効化キャンセルされた!!?」

全員が思わず驚くほど、俺が使った術式はイレギュラーな物だ

先輩は反動によって腕は反対方向、背中側に移動して体勢を崩した

「まさか術式を破壊した!?そんな、現行術式じゃあそんなもの存在しないわよ!?」

「それも術式だけを破壊したとなると、かなり高度な術式じゃないと成り立ちませんよ」

「完全に消滅している事からジャミング系統術式でもない、どういう事ですか?」

「これが凱斗が『今』使っている術式『ブランク系術式』術式対人戦なら凱斗は負ける事は絶対にない」

簡単に説明すれば術式を無かったことにしただけだ

本来術式を発動する時に使用人から魔力を貰い、MMDの中に記録された術式を展開する

そこには多くの数列が存在し、それが術式の元となっている

ならそれを書き換えたり、空白を入れたらどうだろう?

MMDがその術式が何なのかが理解できなくなり、エラーを起こして術式展開をやめる

送られてきた魔力は使用者にリバウンドされ、余った力で吹き飛ばされる

得意系がないというのは、自分が使う術式が該当しないだけだった

「試験では対人戦や実践力は専門外なので評価はされなかった。それが凱斗がセカンドの理由の『一つ』を抱えている今の凱斗でもファーストに勝つ事は容易い筈です」

「だ、だがその説明だとこんな高度で複雑な術式を何で凱斗くんが使えるんだ?」

「そもそもリスト外の術式の説明もまだされていません」

「あれは凱斗オリジナルの術式、凱斗の使う術式は一応全部凱斗だけしか使えない。術式解明してもコードが間違っていないにも関わらず再現不可能になってしまう『アンノウン』な術式。例え使えたとしてもこの術式に見合った処理能力と演算能力がないと使いこなせないです」

凱斗にはそれが出来るだけの演算能力とそれを使える処理能力を持った自作特性のMMDがある

「あの術式で唯一欠点があると言えば、術式を破壊するだけで攻撃は無効化できない」

「それを言うなよ!!だけどそれをしないだけの瞬発力と動体視力がある」

瞬時加速をすると先輩の目の前までやってきて銃口を向けた

銃を向けた瞬間先端に何かがぶつかった

「「「「「「あっ!!」」」」」」

久しぶりの戦いで浮かれていたのか、勢い余って距離を測り間違えた

銃口はちょうど先輩のおでこにぶつかった、勿論軽くだ

「しまったぁぁぁっ!」

「えっ!?・・・あっ!物理的攻撃により祠堂凱斗を失格とし、勝者森山士燮もりやまししょう・・・で良いのか?」

「このー馬鹿が~~!!」

眠そうだったなーちゃんとは想像できない程の飛び蹴り

かわせたのかは知らないけど顔面で喰らう

そして何故か説教する形で目の前で正座をさせられている

「あ~ぁ、対人戦で初めての黒星だ。落ちたね落ちた、堕落した」

「負けは負けだからな、言い訳は言わない」

「黒星記念にパフェ食べてあげてもいいよ」

「はいはい、なら今日は他の3人も誘って外食で決まりだな。では先輩方お先に失礼させていただきます」

色んな事がありすぎで5人共動けずにいた

こうして俺は生徒会役員へと巻き込まれていくのであった

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