20「星屑祭二日目~三日目 予選の顛末 そして」
結論から言えば、予選は楽勝だった。
私は第四試合に出場した。
「はい! ただ今から、個人戦予選の第四試合を始めます!」
司会はさすらいのトーマスから、本来務めるはずであったベラ・モール先生に戻っていた。
試合が始まると、他の四人は前評判もそこそこにある私を集中的に狙って、落とそうという作戦を取ってきた。
左方から風魔法《ラファル》、右方から火魔法《ボルクナ》、中央から雷魔法《デルスラ》。いずれも中位の攻撃魔法を放ってきた。
残りの一人は、一見すると何もしているようには見えなかったが、実際そうであるとは考えにくかった。
危険を感じてその場を退くと、立っていた所に土魔法《ケルダー》が姿を現した。足元を縛る目的で使用されるものだ。これに捕まっていたら、魔法の集中攻撃を食らっていたかもしれない。少し危なかったシーンだった。
《ケルダー》を対処したことで、残りは三つ。差し迫った状況に、何度も魔法を使う余裕はない。一手で打破しなければならないが、さてどうしたか。
私は、左手でオリジナルの風魔法《ラファルス》を相手の《ラファル》にぶつけるように放ち、同時に右手で水壁魔法《ティルモール》を展開した。
火と雷は水の壁でどうにかする。風だけは水を切り裂いてしまうから、同じ風をぶつけることで打ち消すことにしたのだ。
この判断は功を奏し、すべての攻撃をノーダメージで防ぐことができた。
彼らは作戦が失敗して動揺していた。反撃するなら、今がチャンスだろうと私は踏んだ。
この日はこの一試合だけだ。よほど無理をしなければ、翌日には魔力は全快する。だったら、魔力を出し惜しみをする必要なんかない。
それに、さっきの大したことない攻撃と今の動揺っぷりから、四人の実力の底も露呈していた。ごり押しでも問題ないだろう。
トーマスの話を聞いて死ぬほど気が滅入っていた私は、気晴らしに派手にかましてやることにした。
燃やし尽くせ。
《プロミネンス》
彼らは必死になってそれを打ち消そうと水魔法を放っていたが、無駄だった。中位の水魔法《ティルマ》程度では、これほど強い炎を打ち消すことはできない。
《プロミネンス》は、《ボルアーク》の亜種として新たに考案した魔法だ。太陽の発する紅炎に見た感じがよく似ているから、そのまま名付けた。威力こそ凄まじいものの、《ボルアーク》よりかなり魔力の燃費が悪く、実際には使い勝手が悪い失敗作だった。
それでもあえて使ったのは、先程言ったように、高い魔力に任せただけのごり押しに過ぎない。おそらく実力者にはそう簡単に通じず、魔力の無駄遣いに終わってしまうだけだろう。
だけどまあ、このときはしっかりと全員に当たり、彼らは無様に砂地を転げ回った。
放っておくと本当に相手を燃やし尽くしてしまいかねないので、危なくなる前に数秒程度で解除することにした。
それで十分だった。四人とも、もはや立ち上がることができなかった。
「勝者、ユウ・ホシミ!」
ベラ・モール先生によって試合の終了が宣言される。実にあっけない決着だった。
「爆・炎! 爆・炎! 爆・炎! 爆・炎!」
どこからともなく爆炎コールが湧き上がる。
しまった!
あんな派手な火魔法一発で決めるんじゃなかった。私の爆炎女としての異名をさらに高めるだけじゃないかと、そのとき初めて気付いたのだった。
魔法のチョイスをミスったと後悔したが、時既に遅し。
本当は風魔法の方が好きなのに……。
鳴り止まぬ爆炎コールを背に受けながら(もちろんアリスも一緒になって楽しそうにやってた)、私は恥ずかしいような、鬱陶しいような気分を抱えつつ、闘技場を後にしたのだった。
***
夜にはミリアから、朝に起こった殺人事件のことを聞いた。それから関連して、少し気になっていた仮面の集団のことについても聞くことができた。
どうやら、ロスト・マジックを信奉する危ない奴らということらしい。
それで、ミリアはこう言ったのだった。明日はどうしても調べなければならない用事ができたから、しばらく一人で動きたいって。決勝戦まで残っていれば、もしかしたら間に合うかもしれないと。
結局、アリスだけが一回戦から見に来てくれることになった。
翌日。本戦に臨んだ私は、運良くアーガスとは決勝まで当たらない組み合わせになった。一回戦、準決勝をどうにか勝ち上がり、当然のように勝ち上がってきたアーガスとの決勝戦を迎えることとなる。
それまで大きな怪我はなく、魔力の消費も上手く抑えられたので、良いコンディションで彼との戦いに臨むことができそうだ。
入場すると、場内はこれ以上ないくらいに白熱していた。私は手を振ってその熱に応える。
前を見れば、アーガスもこなれた感じで声援に応えていた。一部、女子ファンの黄色い声援が混じっている気がするのは、きっと気のせいじゃないだろう。
途中、観客席で応援しているアリスの方を見た。アリスは、まさに全身を使って身振り手振りで私のことを一生懸命応援してくれていた。それを見て、私の心はますます弾んだ。
まあミリアがどこにも見当たらないのは残念だったけど、仕方がない。まだ忙しいのだろう。
ついに私とアーガスは、闘技場の栄誉ある決勝の舞台で向かい合うことになった。あのときに誓った、入念な準備の下に全力で戦うという約束を、今こそ果たす時が来たんだ。
この場にいるほとんど誰もが、間もなく始まる試合を楽しみにしていたことだろう。
そして誰もが、間もなく起こる惨劇など、知る由はなかったに違いない。
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