第20話 わたおに(処女卒業)
おにいを犯そう。
やっと帰り道を見つけたのは午後になってからだ。歩き回って疲れたわたしの思考は、もう最短距離しか目指したくなくなっている。既成事実、それさえあれば、両想いから逃れられない。
どうせなら和姦の方がいい。
わたしだって十六の女として、そう思う。だけど、それはムリだ。色々考えて、今のややこしい状況が「近親相姦したくない」というおにいの考えからはじまっているとわかった。
その考えを変えないと、和姦にならない。
担任教師のおちんちんを握ることより、妹とセックスすることをイヤがる。そんなド変態の変態性をなんとかするのは、一朝一夕ではいかない。時間がかかる。わたしがつらい。
なら犯す。
つらい片想いとか、そんなのはマゾのすることだ。わたしはサドとして、おにいの考えを踏みにじって、枕を涙で濡らさせ、近親相姦を忌避する考えを破壊し、わたしとの恋に服従させる。
「ただいまー」
土曜日の午後、おにいはバイト。
この間に準備を整えよう、善は急げだ。
「おかーさん、ちょっと道具貸して」
「……」
わたしの視界に入ってきたのは、ダイニングテーブルに突っ伏したミコシーの姿だった。ゆっくりと顔を上げたその両目は血走っていて、立ち上がるとスカートの前がテーブルに引っかかってカツンと乾いた音を立てる。
明らかにペニスバンド着けてる。
「リツさん」
「ミコシー、どうしたの?」
わたしは後ずさりした。
なんだろう、この不穏な空気は。
「わたくし、聞いてしまいましたの」
ミコシーは、ふっ、と笑って死んだ目でわたしを見る。ふわふわの髪の毛に力がないように見えるのは気のせいだろうか。
「成田先生とリツさんが明日デートするそうで」
「しないよ」
ナルセンとかもうどうでもいい。
どこから情報が漏れたのかは気になるけど、どうせ待ち合わせに行かなければ疑惑は疑惑のまま消滅する。授業で顔を合わせることもない。
「ウソですわ」
「ウソって言われても。教師と生徒だよ? ありえないでしょ。わたしとミコシーはもう恋人じゃん? 噂なんか気にすること」
「なら、リツさんの処女をくださいませ」
ミコシーはスカートを落として、黒いそれを見せつける。母からのプレゼント、確か、わたしの部屋に仕舞ったはずなんだけど。
「今日?」
そうきたか。
「ここで?」
「今すぐに、ですわ」
「えー?」
曖昧に笑って、わたしは逃げようとした。
「リッちゃん」
けれど、振り返った背後にヒロヒロがいて愕然とする。こちらはモノホンをスタンダップさせてゲットレディな状態だ。いつの間にというより、なぜこの二人のサンドイッチが。
なんだこの状況。
「わたくしたち、仲直りしましたのよ」
ミコシーが言う。
「うん。価値観を共有できそうだから」
ヒロヒロは頷いた。
「価値観?」
なにを言ってるのかわからない。
「「心配」」
二人は声を揃える。
「リッちゃんの気持ちはわからないけど、成田先生と御子柴さんを二股かけようとしたのは事実でしょう? ずっと友達とか言われると心配」
「わたくしと言うものがありながら、成田先生に靡いたりしないとは思いますが、リツさんの奔放さはいずれだれかを誤解させそうで心配ですわ」
「証拠、ある?」
「スマホのロックなら、解除するとこ目の前で何度も見てるもの。画面見なくてもわかるわ」
ヒロヒロが言った。
「もしかして、センに」
わたしは今更ながらハッとした。昼休みの密会になんでおにいが先回りしたかもう少し不思議に思うべきだったのだ。すべて筒抜けだった。わたしがスマホを手放した瞬間に、ヒロヒロは調べられる。
「そうよ?」
「この方、リツさんのことを調べ尽くしていましたわ。恋人としては複雑ですけど、事実を目の当たりにしては共同戦線を張るのも仕方のないことと諦めてくださいませ」
「ちょっと、待とう?」
わたしは焦りながら言った。
原因はすべてわたしで、ミコシーが怒るのは筋が通ってて、ヒロヒロはアレだけどもう今更だからともかく、この処女は守り通さないと。
挟まれたら逃げられない。
「ど、どっちが先とか決めてる?」
わたしは仲間割れを誘おうとする。
「……」
「……」
二人は顔を見合わせた。
ここだ。
「ほらー? 共同戦線とか言っても、処女は一度きりだからねー? わたしだって、はじめてなんだからちゃーんと味わいたい。そのくらいのワガママは言わせてくれるでしょー?」
「「二本で」」
二人は前後で声を揃えた。
「二本っ!?」
なんてところで意見の一致!?
「おしおきをかねますから、仕方ありませんわ」
「もう他の人には見せられないようになろう?」
二人とも、目が真剣。
「入る訳ないよ。そんな、ははっ」
わたしは首を振った。
「ねー?」
二人を見ても、真剣な目は変わらない。
「そーでしょ?」
助けを呼ぼうにもここは自宅で、二人がこんなに余裕であることから言って、母がなんらかの理由で外に出ているのは間違いない。なんにもいいアイデアが浮かばない。
「や、やさしくして?」
「「もちろん」」
二人の身体に挟まれて、わたしは部屋へ連れて行かれる。そこは準備万端、口にタオルを噛まされ、ベッドに両手を手錠で固定、アレの長いヒロヒロがわたしの下に潜り込み、アレの太いミコシーが上から覆い被さってくる。
「泣きませんのね。リツさん」
ミコシーが言う。
「リッちゃん、可愛い」
「そうですわね。可愛くて仕方ありませんわ」
「「センさんが好きなのに」」
「……」
そこまで言われて、やっと涙が出てきた。
わかってるんだ、二人とも。
それを全部、ここで壊そうと。
「今頃、センさん、成田先生としてるかも」
「そうですわね」
「!?」
なにを言って。
「「兄妹そろって処女卒業おめでとう」」
気がついたときには夜だった。
「い、ったた」
腰が重たくてすぐに起きられない。
「さんざん、やられちゃった」
つぶやいて、自分で笑ってしまう。
なんでだろう。
やっぱり別になんてことない。処女なんて。
「リツ」
パチ、と明かりが点いて、部屋の入り口におにいが立っていた。わたし全裸で、もうどうしようもない格好なのに見られちゃった。もうなにもかも今更だけど。気にすることないけど。
「「痛かった?」」
わたしたちは声を揃えた。
「なに、おにい。本当に?」
「リツこそ、本当なのかよ」
わたしたちは顔を見合わせて笑う。
特に語り合わなくても通じ合うものがあった。
「でも、わかったよ」
わたしは言う。
「オレもわかった」
おにいも頷く。
「わたしのせいでおにいがホモセックスしてると思ったらすっごい楽しくて。ほんっと身体いったいけど、途中からなんかもー気持ちよかった」
痛いのが気持ちいいとかマゾかな。
「同じだ」
おにいは言う。
「リツのせいでオレがこんな目に遭ってるんだと思ったら、どうしようもなく楽しかった。途中からリツになりきって、先生のを踏んだよ」
ド・サドですか。
「変態」
「変態だ」
救いようのない兄妹だった。
「これで終わりか?」
「まさかー」
わたしたちは笑う。
「久しぶりに一緒に風呂に入るか」
「そーだね。痛いとこ、洗いっこしよ」
守るべきものはなくなった。
わたしたちは一緒にシャワーを浴びて、互いの少ししか違わない身体を確かめ合う。いつから一緒にこうしなくなったのか、いつから二人が別々の人間だと思っていたのか。確認するまでもないことだったのに。
忘れていた。
「おにい、童貞?」
「ま、そうだな。先生のにはちょっと」
「わたしにそれ、くれない?」
「近親相姦はいやだぞ?」
「ケチ」
「オレがケチなら、リツもケチだ」
「バカ」
「オレがバカなら、リツもバカだ」
双子だった。
そしてわたしたちはこれからも双子だ。
「キスぐらいはしてもいい?」
「キスぐらいはいいかな? たぶん」
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