11/影二つ

 体育館横の更衣室やバスケットボードがある敷地を抜け、体育館の入口を無視して、そのまま裏地に向かう。


 角を曲がった所で、いつもは誰もいない花壇の前に、一人の女子生徒がいることに気がついた。残念だ。先客がいたか。


 女子生徒は、彼女の身長と同じくらいに伸びているひまわりを眺めていた。この学校で指定されている夏の制服。紺のスカートに、半袖のワイシャツを身に着け、胸元には紅いリボンを付けている。髪型は左右でリボンでまとめた黒髪を、自然に流している。俗に言うツインテールだ。ジョーは、あ、と思った。


 女子生徒の方もジョーに気づいて振り向き、数瞬目が合う。大きな瞳と、柔らかそうな薄いピンクの唇。


 ジョーはうつむいて、所在無く、手にしていたパンのビニールの包みを指で弾いた。


 少しの沈黙の後、ジョーは振り返り、その場を後にしようとする。


「待ちなさいよ」


 後ろからかけられた声は、気丈で凛としている感じ。そして、やはり聞き覚えがあった。


「宮澤ジョー君、だよね。クォーターの?」


 改めて振り返り、じっと彼女の全体像を見る。昼食時である。お弁当の包みと水筒を手にしていた。


「そっちも覚えていたみたいだな」


 元気のよい太陽に照らされて、影が二つ伸びていた。


 何年ぶりだろうか、名前を呼んでみる。


「空瀬アスミ」

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