211/八月十四日3~消えた蒼い線

 今日もネットカフェに泊まる。


 狭く区切られた個室の中で、ジョーは虚空を見つめている。


(割りあてられた奇跡は、もう終わりだって、何だよ)


 結局自分はイジけているのだ。大切だと信じたものが、ここで終わりだとどうしようもなく否定される現実を前に。


 こんなみっともない自分を、叱咤してくれる存在に思い当たった。だけど彼女ももういない。


 苦しくてどうしようもない時に、それでも勇壮なるあり方をジョーに補強してくれていた、背骨の蒼い線ももう、消えていた。


(そうだ。エッフェル搭。愛想を、つかされたんだった。違うな。彼女は悪くない。優先順位を付けただけだ。分かってる。俺だってそうだ。それは、正しい)


 金色の髪をなびかせる、凛としたエッフェル搭の姿が思い浮かんだ。どうしてあそこまで自分に助力してくれたのか、詳しいことを聞きそびれていた。だけどもう、問うことはないだろう。


 信頼は築いてもいつか壊れる。


 暗闇の中は冷たい。暖を取るものも、寄りかかれるものも何もない。


 悲しみにくれた中、ジョーは一人の人間としてこの宇宙に問うように言葉を発した。


「どうしてこの世界に、キセキは定量しかないんだ……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る