186/認識について

 認識されるという感覚には三種類がある。



 一つ目は、人一般・他人に見られている感覚。

 二つ目は、神に見られている感覚。

 三つ目は、親しい他者に見られている感覚。



 この三つだ。


 ジョーは理華の能力によって、そのうちの一つ目が消失したのに気がついた。


「あくまで認識されなくなってるだけだから、気をつけて」


 アスミからの説明は、自分達が異空間のような場所に入ったわけではなく、あくまで現実世界の中で、他人から認識されなくなっただけであることを告げていた。つまり、自分達以外の人や街への被害には、引き続き気を付けなければならない。


(逆に言えば、このまま俺達が死んだら、誰にも気づいて貰えないのか)


 その考えに至った時、ジョーには三つ目の感覚。親しい存在、アスミと志麻と陸奥がまだ自分を認識してくれていることが、とても温かいことに感じられた。


 高速で疾走するフェラーリの後を、大王は前傾のフォームで走って追ってくる。その姿は、洗練された陸上競技者を想起させる。やはり、能力以前に、単純な身体能力が常軌を逸しているのか。


(強い側の、最上に位置する人間か)


 強い側と、弱い側は違う。ジョーが昔日からの観念に囚われかけた時、隣から凛とした声がした。


「『主砲』で迎撃を試みます」


 陸奥である。


「お願い」


 首肯するアスミに、ジョーも覚悟を決める。出し惜しみができる相手では、なさそうだ。


「陸奥、勝ってくれ」


 かくして、世界の最上の勝者を名乗る大王と、ある歴史上の戦いにおいてその威を振るう前に爆沈した戦艦とが、向い合う形になった。

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