51/巨乳メイドな姉

 夕方の守人の作戦会議の前に、一旦家に戻ってきたジョーは、マンションの九階にて、カレンとアンナお祖母ちゃんと共に昼食を食べていた。カレンが作ったメニューはシーフードを煮込んだものに、パスタ、フルーツと野菜のサラダ、などなど。


「ジョーに対抗するわけじゃないんだけどさ」


 アンナお祖母ちゃん用に、白身の魚の骨を抜きながら、カレンがもったいぶった態度で話しかけてきた。ちなみに、アンナお祖母ちゃんは麻痺していない半身側の手で、フォークを持って食べることはできる。


「私、お付き合いしてる人できちゃった」

「マジで?」


 陸奥のことなら別にお付き合いをしてる人ではないが、と前置きしながら、ジョーとしても興味があるので話の先を促す。


「何回かバイト先に来てた人なんだけどね。普通はこういうことってしないんだけど、熱心、というか誠実に申し込まれたんで、数日前、一回だけデートしてみちゃったのよ」


 そう言ってスマートフォンを取り出して、当の男の写真を見せてよこす。これは、デートを承諾した要因に外見が多分にあるであろうイケメンであった。


暮島くれしま康太こうたさんと言います」


 続いて追加の情報を伝えてくる。地域では受験競争の勝者が行くT北大卒。二十七歳。務めている会社も、何やらジョーも聞いたことがある知名度がある企業であった。


「で、デートなんだけど、美術館でさ。私、全然分からないの!」


 ああ、カレンは漫画とかアニメとかゲームとか、そっち方面の人だから。


「でも、そんな私のこと察して、一般的な話に繋げて絵を解説してくれたり。私、めっちゃ気を使われてる!」


 そんな男が、何故にカレンのバイト先のメイド喫茶に。T北大とか、行こうと思っていけるものでもない。現在ジョーがこうしている間にも進学塾なり予備校なりで勉学にいそしんでいる同級生の、何人が入れるか。そういう競争を勝ち抜いた側の強い人間は、あんまりカレンのような人種の世界とは関わらない印象を持っていた。


「その後、なんか雰囲気の良いレストランで食事して、真面目な顔でお付き合いしてくれませんかって言われちゃったから、イイですよって、言っちゃった」


 カレンは少ししおらしい態度で、自身の金髪を指でいている。


 カレンは世間のスタンダードからは外れた立場の人間である。宮澤家でアンナお祖母ちゃんの介護が必要になったこと。就職活動に失敗したこと。ちょうどその頃震災があったこと。様々な要因が重なって、現在の生活に至っている。メイド姿で快活に色々なことをやっているように見えながら、一方で例えば大学に進学した友人。企業就職した友人。そして結婚した友人に、密かに引け目のようなものを感じているのをジョーは知っていた。そんなカレンだから、その暮島さんという男は少し眩しく映ったりしているのかもしれない。


「どう思う?」

「とりあえず、お付き合いする過程でお互いのことを知っていけばいいんじゃないか。良い感じだったらそれで良いし、やっぱりダメならダメだろうし」


 我ながら無難というか、ありふれた見解を返す。


 珍しく神妙な面持ちの姉をよそに、ジョーも次の用事があるので、デートの時はアンナお祖母ちゃんのことは俺が見てるよと伝えて、ジョーは食べ終えた食器を片づけ、九階を後にした。


 玄関口まで来た所で、二人の会話を聞いていたアンナお祖母ちゃんが、何やら英語でカレンに語りかけてるのが聴こえてくる。


 男を選ぶのに、慎重になり過ぎることはない。概ね、そんなことをアンナお祖母ちゃんは言っていた。

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