41/ちょっと待って

「それじゃ、今、私と志麻が追ってるターゲットの話からしちゃおうかしら」

「ターゲット?」

「そう、昨日の牛人はイレギュラーでね。私たちとしてはここ数か月の間警戒している、この街に潜り込んでる敵の存在変動者がいるのよ」

「アスミ、ちょっと待って」


 自然に話を進めようとするアスミの言葉を、志麻は遮った。


「悪いんだけど私、まだ宮澤君のこと、認めたわけじゃないのよね」

「ええっ? でもしょうがなくない? 強力な本質能力に目覚めちゃったんだし。一人にもしておけないわよ?」


 サバサバしてるのはアスミの良い所だが、少しは志麻の心情も察してほしい。アスミとジョーの距離感は昨日再会したばかりというのに極めて自然にみえる。幼馴染。その二人の関係性を意識すると志麻はテーブルをひっくり返したくなる衝動に襲われるが、いけない、今は自意識をコントロールするべき時だ、と内面の調整に努める。


 また、このジョーという男もクズであったなら表だって糾弾できたものを。志麻は他人の評価はあくまでありのままを捉える少女である。クォーターだと言ったか。あちらの文化が身についているのか、ドアを開ける時にアスミを優先する立ち居振る舞い。いくつかの場面での、あくまでアスミを立てて自然にサポートする位置に回るようなポジショニング。エスコートというものを自然なレベルで体現しているというのは好感だった。


 顏も悪くない。そしてその身体。太ってもおらず、痩せてもおらず、ほどよく鍛えこまれているのがシャツの上からでも伝わってくる。身に着けているのは安いTシャツにカーゴパンツであるが、その肉体も込みでデザインと捉えるなら、志麻の感覚としては美としてアリだった。


 つまり、データとは別に、実際に観てみた第一印象はなかなかの男だということになる。それが、悔しい。


「私たちの本質能力のことは、もう話したの?」

「アスミの能力は、火を操るんだろ?」

「うーん、それね」


 アスミも、どうやら志麻にジョーを認めてもらうという段階が必要だと理解したのか、自分の能力についてジョーに説明するのをしばし保留する。目で、場の主導権を一旦志麻に譲ると伝えてくる。


 ならば、少し試してみようか。


 そんな思念が志麻の頭を過った時、事態は急変する。志麻はすばやく己の凶悪性を解放すると、本質能力の使用体勢に入るのだった。

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