Section5-8 和睦

 戦闘は既に終わっているようだった。

 というのも、紘也がウェルシュ・ドラゴンの個種結界を破るのに時間を食ったからだ。〝拒絶〟の特性は想像以上に頑丈だった。

 それはそうと立っているのがウロボロスだけということは、世界魔術師連盟の大魔術師である秋幡辰久の契約幻獣が倒されたことを意味している。

 厄介なことにならなきゃいいが、などと紘也は胸中で嘆息する。悪い方向に傾き過ぎて連盟に目をつけられたらどうしよう。魔力制御ができるといっても一高校生に過ぎない紘也は真っ先に死ねる。

「や、やあやあ、これはこれは紘也くんじゃあないッスか。おっひさぁ」

 無駄な思考をしている間に先に声をかけられてしまった。ウロは盛大に刃こぼれしている〈竜鱗の剣〉を無限空間に放り投げ、普段通りの軽いノリで手を振っている。

 が、紘也は見逃していない。彼女の瞳が小動物のような弱々しさで揺れていることを。

「ウロ」

 呼びかけると、ビクン、と彼女の肩が跳ねた。

「――ったく、無理してんじゃねえよ」

 紘也は思わず溜息をついてしまいそうになったところを堪え、

「悪かったな。出ていけって言ったの、あれ全部嘘だ」

 彼女が軽い調子を望んでいるのならば、と頭も下げずに謝罪した。

「う、そ? あはは、嘘って……紘也くん、またまた御冗談を。あのウェルシュ・ドラゴンが来るからあたしはもういらないって――」

「おいおい、いらないとは言ってないだろ。あのままお前が家にいたらどうなっていた? 絶対に戦闘が始まっていただろうが。だから少し席を外してくれって意味だったんだよ。ま、結局は戦っちまったけどな」

 無事でよかった、とはあえて口にしない。無事だと信じていたから。

「えっと、じゃあやっぱりあたしの勘違いで、あたしは紘也くんの嫁のままでいいと?」

「さて、迷子の主役も見つかったし、今日は予定通りカレーパーティーができるな」

「あの紘也くん、慰めてる時くらいスルースキルをオフにしてくれないかな?」

 普段通りの遣り取りにも関らず、なおもどこか怯えの色が見えるウロ。やれやれと肩を竦め、紘也はガツンと言ってやることにした。

「ウロ、お前は俺の契約幻獣で、もうとっくに俺の、俺たちの日常の一部なんだよ。だから不安そうにするな。いつも通りでいろ。お前がシリアスに沈んでると天変地異でも起こりそうで怖いんだよ」

 愛の告白ではないにしろどうも照れ臭い。なんか顔が火照ってきた。と、ウロの目尻にじわりと涙が滲んだ。

「ひっく、えぐ、紘也くん、ふぇええええええええええええん」

「――って泣くなよ! シリアスにするなって言ってるだろ!」

 堰を切ったように嗚咽しながら紘也の胸で涕泣するウロ。本物の涙だ。ここで引き剥がすと人でなしだな、そう思った紘也は、彼女の小さな背中を優しくそっと抱き締めた。

 しばらくそうしていると、落ち着いたウロが自分から身を離す。

「うっぐ、紘也くん。実はあたし、過去に一度こっ酷く捨てられたことがあるんだ。だから紘也くんに出ていけって言われた時、また理不尽に捨てられるんじゃないかって思ったらすんごく悲しくなって……でも、違ったんだね。もう、拒んだりしない?」

「ああ、しないよ」

 紘也が頷くと、うん、よし、とウロは気持ちを切り替えるように自分の頬をしばいた。

「まあ一度捨てられたからかな、あたしって紘也くんのそういうなんだかんだで仲間想いなところに惹かれたのですよ。――うん、惚れ直しちゃいました。紘也くん大好きです。あ、もちろんラブ&ライクだよ♪」

「め、面と向かって恥ずかしいこと言うなよ! 聞かれたらどうする!?」

「いえいえ、個種結界の効果が働いていたので他に人なんて――」

 ウロは言葉を詰まらせた。紘也の後ろ、公園の並木道からぞろぞろと団体様が御到着なされたからだ。

 ふんわり笑顔で愛犬を抱いている鷺嶋愛沙。

 なぜか険のある表情で紘也を睨んでいる葛木香雅里。

 楽しそうなニヤついた顔を満面に貼りつけている諫早孝一。

 その他、葛木の陰陽師たちが遠慮するように遠巻きに眺めている。

「紘也、もう話は解決したのか?」

「白々しいな。全部聞いてたんだろうが」

「ありゃ、バレたか。心配するな。別に詰ったりはしない。……で、返事はどうするんだ?」

「早速前言撤回だなおいっ!?」

 孝一は時々親友でさえ娯楽のオカズにするから始末が悪い。

「まさか、告白を受ける気じゃないでしょうね?」

「アホか。アレは告白にカウントされねえよ。だからそんな顔で睨むな、葛木。怖いから」

 香雅里は兄のこともあってか幻獣との交際を酷く嫌悪しているのだ。

「ウロちゃん無事でよかったよぅ! わたしすっごく心配したんだよぅ」

 愛犬を地面に下ろした愛沙が温かくウロを抱擁する。愛沙がいるだけで場の雰囲気はすこぶる優しくなるのだ。

「オゥ! やっぱり愛沙ちゃんは天使だよ! 紘也くんなんか心の裏では心配に心配を重ねてるくせに口を開けば『し』の字も出てこないツンデレ――」

 ――グサッ!

 紘也流対ウロボロス戦必殺奥義――『アイズクラッシャー』発動。

「目っがビリってきたぁあああああああああああああああああっ!?」

 オプション効果――魔力干渉による一時的な麻痺付加。

「ひ、紘也くん、なんか、なんかいつもよりきつくない?」

「それはお前がパジャマだからだ」

「確かにパジャマだけれども意味わかんないよ!?」

 普段通りに戻った身食らう蛇はウザいことこの上なかった。

「紘也、お前って時々酷いよな」

「そう? 妖魔が相手ならこれでも生温いんじゃないかしら?」

 孝一と香雅里は先程と一変して柔らかな微笑みを浮かべていた。そんな温かな空気を感じ取ったのか、再びウロの青い瞳から感激の雫が溢れた。

「なんかアレだね。あたし、紘也くんを監視していた時から『楽しそうだな』『あの輪に入りたいな』ってずっと思ってたんだよね。で、ようやくその夢が正式に叶ったって気分だよ」

「うん。ウロちゃんはずっとずっとわたしたちのお友達です」

 愛沙が今一度ウロと抱擁を交わす。

 その刹那――

「愛沙ちゃん離れてっ!?」

 血相を変えて愛沙を突き飛ばしたウロの正面を、真紅の火炎流が横切った。

「「「ウロ(ちゃん)!?」」」

 紘也、孝一、愛沙の三人の声が重なる。香雅里が素早く臨戦態勢を取る。

「あうっ……」

 苦悶の表情で呻くウロ。愛沙を庇った彼女の両腕の肘から先が焼け爛れていた。血は流れていないが、力が入らないのかだらりと弛緩している。

 ヘルハウンドの地獄の炎すら物ともしなかったウロボロスが、一瞬にして腕を使い物にできなくされた。寒気を覚えるほど恐ろしい威力だ。

 紘也は火炎が飛んできた方向に目をやる。人工林の奥から、赤髪をバックツインテールに結った少女――幻獣ウェルシュ・ドラゴンが姿を現した。

「……ウェルシュは、頑強な超火力砲台として定評があります。あのくらいでは……破られません」

 彼女の息は絶え絶えで、見た目も酷くズタボロだった。そんな状態で動いていることよりも、生きていたことに紘也は驚いた。てっきり消滅したものだと思っていた。

「ウェルシュ! もういい、やめろ!」

「そうはいきません。マスターの命令ですので、紘也様が上書きすることはできません」

「こいつに危険はない! だから戦う必要なんてない!」

「それはウェルシュが判断することです」

 ウェルシュが手を翳す。真っ赤な炎が渦巻きながら収斂する。

「その体では自由に動けませんね。〝再生〟する前に止めを刺します」

 灼熱の業火球が宙を走った。ウロは避けられない。さっきの炎と同威力、いやそれ以上だとしたら、恐らく〈竜鱗の鎧〉を纏おうともウロボロスは焼き消される。

 ウロは紘也の契約幻獣で仲間だ。消滅させるわけにはいかない。

「くそっ、一か八かだ!」

 可能性に賭けて、紘也はその行動を取った。

「「「え!?」」」

 ウロを含め、その場にいた誰もが絶句する。ウロを庇うために、紘也はウェルシュの火炎弾の前に立ちはだかったのだ。

 ウェルシュは紘也を守るためにここにいる。だから紘也には攻撃をあてられないはずだ。

 ――さあ、炎を消すんだウェルシュ!

 そう強く念じるが、ウェルシュに伝わることはなかった。

 火炎弾は紘也に直撃。その体を真紅に炎上させたのだ。

「紘也くん!?」「紘也様!?」「紘也!?」「ヒロくん!?」「秋幡紘也!?」

 五者五様の叫び。それらの声が耳を劈くのを感じながら、燃え上がる紘也は膝から崩れて倒れ伏した。

 フッ、と炎が風に煽られたように消える。両腕が機能不能になっているウロが涙目で駆け寄る。

 膝を折り、彼女は泣き叫ぶように紘也を呼ぶ。

「紘也くん、死んじゃやだよ……紘也くん、紘也くん紘也くん紘也くん紘也くん紘也くん紘也くん紘也くん紘也くん紘也くん紘也くん紘也くん紘也くん紘也くん紘也くん紘也くん紘也くん紘也くん紘也くん紘也くん紘也くん紘也くん紘也くん紘也く――」

「うっさい黙れ聞こえてるよっ!!」

 苦しむ様子もなく紘也は起き上がった。服にすら焦げ目一つついていない。


 ……………………。


「紘也、お前、大丈夫なのか?」

 皆が呆然とする中、孝一が恐る恐る訊いてくる。

「あ、ああ、なんか熱いとも思わなかったな。ちょっと衝撃が鳩尾に入ったくらいで」

 紘也は腹の辺りを擦りつつ答えた。と、ウロが思い出したように声を発する。

「あっ、そうか。あの腐れ火竜の炎はあたししか〝拒絶〟しないから、紘也くんには効かなかったんだ。いやぁ、ウロボロスさん早とちりしちゃったね。テヘ」

 腕が動いたら自分の頭を軽く小突いていそうなウロの表情に、少しばかり殺意に似た衝動を覚える紘也だった。

「申し訳ございません紘也様!!」

「どわっ!?」

 紘也はいつの間にか真後ろにいたウェルシュに仰天する。彼女は両膝をつき、額を擦り切らんばかりに地面に押しあてていた。滅多に見られない完成された美しい土下座である。

「〝拒絶〟の対象ではないとはいえ、守るべき紘也様に攻撃をあててしまいました。ウェルシュ、一生の不覚です。日本流に則って腹切りで謝罪を……刃物がありません。ウロボロス、貸してください」

「オゥ! 勝手に死ぬならこちとら大歓げぶごあっ!?」

 紘也のゲンコツがウロに炸裂した。頭上でお星様を公転させる彼女は放置し、紘也は自害する気満々のウェルシュに言う。

「あのな、俺はお前にも死なれたら困るんだよ。親父になんて言えばいいかわからなくなる。どうしても謝罪したいのなら他の方法にしてくれ」

「では、紘也様が決めてください」

「ウロボロスとこれ以上争うな。それで許す。あいつは俺の契約幻獣なんだ」

 言うと、ウェルシュは顔を上げた。彼女は不思議そうにきょとんと小首を傾げる。

「……ウロボロスの契約者は『ヒロくん』という人物だと聞いています」

「秋幡紘也だから、ヒロくんなのです」

 人差し指を立てて愛沙が説明した。ウェルシュが「そうでしたか」と納得するのを確認すると、愛沙はとてとてとウロへ駆け寄る。そこには既に孝一と香雅里がウロを補助するように集っていた。

「ウロちゃんの腕……酷い。病院行ったら治るかな?」

「いえいえ、このくらいすぐにピロロ~ンって〝再生〟しますよ」

「本当だ。どんどん傷が癒えていくぞ。時間が巻き戻っているみたいだ」

「寧ろ腕がない方が蛇らしくていいんじゃないかしら?」

「ノット! かがりんそこはノット! アイム・ドラゴン!」

 そんな間の抜けた会話には参加する気など毛頭なく、紘也は土下座から正座に移行して逡巡しているウェルシュを見下ろす。

「で、どうだ? これ以上争われるといろんな人に迷惑なんだ」

「……やはり、命令違反になるのでウェルシュにはできません」

 紘也から目を逸らし、ウェルシュは囁くようにそう言った。しかし――

「ですが、一つだけ方法があります」

 希望はあるようだ。

「その方法は?」

「紘也様がウェルシュの新しいマスターになればいいのです」

 ウェルシュから紡がれた言葉の情報を紘也はうまく処理できなかった。ウロたちのアホな会話を耳にしたせいに違いない。

「悪い、もう一回」

「紘也様がウェルシュの新しいマスターになればいいのです」

 無表情をキリッとさせて、ウェルシュが一字一句違わずに答えた。どうしても他の意味を思いつかない。

「えーと、要するに、俺と契約するってことか?」

「はい、ウェルシュはそう言っています。そうすれば、命令の上書きが可能です」

「多重契約って、大丈夫なのか?」

「はい、大丈夫です。ウェルシュのマスターはウェルシュ以外にも十一体の幻獣と契約しています」

 一般魔術師だと幻獣契約は一体が限界だ。それを十二体分も行っているとは、紘也の父親はとんでもないバケモノのようだ。

「それに紘也様の魔力量なら、ウェルシュを含めてもまだ十体以上の幻獣と契約しても問題ないと思われます」

 どうやら紘也もバケモノになり得るらしい。将来は大魔術師になれると期待されていただけあって驚きはしないが、そこは論点とは異なっている。

「いやそうではなく、あんたが二重に契約できるのかって話だよ」

「いえ、現マスターとの契約は破棄されます。マスターは優しい方です。幻獣狩りの間だけ、護衛のため仕方なく、という理由なら許してくれます」

 確かに、と紘也は唸った。まだウロボロスを父親の幻獣だと勘違いしていた時、電話で似たようなことを話したからだ。というか、父親は既に契約が破棄されたと思っているのではなかろうか? 十体以上と契約していれば、一体分の魔力供給が消えたか消えてないかなど判断し難いだろう。

 紘也が黙考していると、腕の〝再生〟を終えたウロが血相を変えて口を挟んできた。

「ちょっとちょっとちょっと待ていっ! さっきから聞いてりゃ紘也くん、あたしという伴侶がいながら浮気する気じゃなかろうね!」

「で、契約の方法は?」

「ウガーッ! 紘也くんここはスルーさせるわけにはいかないよ! 浮気するなんてガッデムです! 紘也くんにはウロボロス愛好精神が全く持って足りてな――」

 ――グサッ!

「ふぎゃあああああああああああああああああああああああああああっ!?」

 割り込んできた鬱陶しい蛇を強制退場させ、紘也はもう一度ウェルシュに問う。

「契約するから、方法を教えてくれ」

「わかりました。安心してください。ウェルシュとの契約は簡単です」

 ウェルシュはゆっくりとした動作で立ち上がると、その小柄で華奢な体を紘也に急接近させた。「フンガーッ! あたしの紘也くんになにする気だこの腐れ火竜っ!?」と香雅里に抑えつけられたウロがなにやら叫んでいるが、余裕で黙殺する。

「ウェルシュとキスしてください。できるだけディープに」

「さーてなんか俺めっちゃ疲れたから帰って寝るわ」

「……冗談です」

 心なしか残念そうにウェルシュは呟いた。アホ毛も萎びた雑草みたいに力なく垂れる。紘也がなにかしら既視感を覚えていると、彼女は掌を上に向け、そこに真紅の炎を宿す。一瞬身構えそうになった紘也だったが、ウェルシュに戦意がないことを読み取って押し留める。

 メラメラと燃え滾る真っ赤な炎は、数秒と経たずに弾けた。すると金属質な小さな物体が出現し、彼女の掌へと落ちる。

 六芒星を形取ったペンダンド型のアミュレットだった。色はもちろん真紅。よく見ると六芒星の片隅に幼稚な文字で『Made in Welsh』と書かれてあったが、気にしないことにする。

 ウェルシュはそのアミュレットを紘也に手渡した。

「これは?」

「ウェルシュの〈守護の炎〉を編み込んだお守りです。ウェルシュの体の一部だと思ってくれてかまいません…………ぽっ」

「いや、かまうよ! けっこう大事なもんじゃねえのか? あとなぜ頬を染めた?」

「次は紘也様の大事な物をウェルシュに預けてください」

 まさか紘也がスルーされるとは考えもしなかった。

「ウェルシュの大切な物を守るべき場所に、守るべき場所の大切な物をウェルシュに。これが〝守護〟の特性の契約方法です」

 そういうことか、と紘也は得心した。なんか向こうで「あたしも紘也くんの大事な物欲ーしーいーっ!! ぬはぁーっ! ジェェェエラスィィイイ!!」と猛獣のごとく牙を剥いているウロは、とにかくひたすらに無視する。

「大事な物って言っても、今持ってるもので……あっ」

 ズボンのポケットの中に丁度いい物があった。それを取り出し、ウェルシュに差し出す。

 鉄色で細く平べったい、ところどころに凹凸のある金属――鍵だった。

「家の玄関の鍵だ。〝守護〟ってことだからけっこう合ってると思うが?」

「はい、それでオーケーです。辰久様がウェルシュに預けた大切な物も鍵でしたので。家ではなく、オトナの宝物庫と仰っていましたが」

「その鍵は永遠に預かっておいた方がいいかもしれないな」

 恭しくウェルシュは秋幡家の鍵を受け取った。合い鍵はあるので紘也はそっちを使うことになるだろう。

「契約成立です」

 拍子抜けするくらい呆気なかった。契約は幻獣によって異なるとウロが言っていたが、異なっても迫力的には似たようなものなのかもしれない。要は魔力供給のために互いの魔力をリンクさせることに意味があるのだ。無駄な演出はいらないのだろう。

「じゃ、命令する。これ以上ウロボロスと戦り合うな。迷惑だからな」

「了解しました、新マスター」

 このことを後で親父に伝えなければ、と紘也は心の予定帳に記録する。

「あうぅ、浮気成立ぅ……ひぐ」

 と涙の海に沈んでいるウロには「浮気じゃねえよ。お前だって俺の契約幻獣だ」と適当に声をかけておき、紘也は香雅里を見る。

「面倒をかけたな、葛木」

「まったくその通りよ。次からは身内の喧嘩に私たちを巻き込まないでくれるかしら?」

「善処するよ」

 香雅里はフッと軽く笑って踵を返した。と、愛沙が彼女を呼び止める。

「あ、待ってカガリちゃん!」

「なに?」

「今晩、ウロちゃんの歓迎会をヒロくんのお家でするから、カガリちゃんも来てね」

「……気が向いたらね」

 若干頬を赤く染めてそう言い、香雅里は陰陽師の仲間と共に公園を去った。

「ところで紘也、お前の親父さんに連絡して命令を変えてもらう方法はダメだったのか?」

「言うな、孝一。それは俺も気づいていた。契約が終わった後だったけどな」

 今さら契約を破棄するなんて気が引ける。ウェルシュに失礼だろうし、契約していれば今後彼女の個種結界に阻まれることもなくなる。紘也は無理矢理そう納得していた。

 さて、と呟き、紘也は自分の契約幻獣たちを振り向いた。

「ああああんた! ひ、紘也くんの本妻はあたしなんだからね! 渡さないからね!」

「それはマスターが決めることです。もっとも、マスターにスルーされるウロボロスには見込みはなさそうですが」

「なんやて!? もう三べん言ってみろ!!」

「ほらお前ら帰るから喧嘩するな目ぇ刺すぞ!」

 二倍に増した騒がしさに、紘也は頭痛を抑えることができなかった。

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