KAGARI
りょう
12.26 キスされる夢
カガリは少し言いづらそうにやっと声を出したかと思うと、「キスされる夢をみた」と言った。
彼女はハニカミながら少し困った顔で「うーん」と言って、しばらく黙りこんでしまうときがある。そういうときはだいたい頭の中で言葉を探してしまっている。自分を良く見せようとする彼女の悪い癖だ。
だが、こちらが「言葉を選ばなくていいから思ったまま話しなさい」と言えば、たちまち何か許されたかのように積極的に喋り出す。でも、今回は恋愛ごとだからか、いつもよりぎこちない。恥ずかしいのだろう。カガリは恋の悩みなど自分には似合わないと思っているのだ。
「それが…上司で、なんだか、なんだろう」
上司。以前、彼女が一目惚れした相手だ。それを聞いたのは私もつい最近で、その上司は今まで仕事の悩みでよく登場する人物だった。私は惚れていたことを聞いて、さほど驚きはしなかった。恋愛感情の有無に関係なく、彼女はその上司に執着し過ぎてる節があったからだ。
「最初は彼が私の肩に寄りかかって甘えてきて、気づいたらキスされてて。何度も。唇が触れるだけだけど、なんだか柔らかい感触がすごく気持ち良くて、最後の2回ぐらいは自分から求めてたんです」
キスってこんなに気持ち良かったんだっけって思えるぐらいリアルでした。と話す彼女は嬉しそうでもなく、無表情だ。カガリはとても表情から感情が読み取りづらい。押し殺しているようにも見える。
彼女がそんな表情なのは、おそらく今はカガリの中では上司に抱いた恋心などなかったことになっているからだろう。一目惚れしたものの、すぐにその上司は結婚。先週、子供も産まれたらしく、カガリは今では何とも思っていないと言っていた。
キスされてどんな気持ちだった?ドキドキした?
「いや、なんだか安心しました。なんだろう、今の私には恋愛は無理に思います。たぶん、今年の1月に中絶してからおかしいんです。優しくされるとすぐに好きになってしまう…
これは恋愛感情じゃない。寂しいだけなんです。
片思いしてる人に彼女がいることがわかったんです。だから、最近またよく上司と話すようになったので、気持ちがまた上司に移ったのかもしれません」
彼女は月に2,3回カウンセリングを受けに行っていて、その先生に上司と距離を置くようにアドバイスされていた。今年の5月に転職して、例の上司と頻繁に仕事上で言い合いになって、精神的ボロボロになっていたのだ。
アドバイス通り、上司と距離を置くようにして、最近は上司との関係や仕事も安定しているように思えた。なんだか悪い予感がするのは私だけだろうか。
そっか、片思いしてた人、彼女いたんだね。
「はい、メールで唐突に聞いちゃったんですけど、なんだかショックというよりホッとしました。これもそもそも恋愛感情なのか、自分でもよくわからなかったですし。でも、彼はこれからも大事したい人だなって思えます。それが恋人とか友達とか関係しなしに。
でも、片思いのように、ここ3ヶ月彼に夢中になって一人で勝手に舞い上がってる自分がいて。その状態が最近すごく辛くなってたんです。だから、解放されてホッとしたのかもしれません」
どこがカガリの本音で、どこがカガリが自分に言い聞かせて自分を殺している話しなのだろうか。私はまだカガリがよくわからない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます