070_1770 5th showdown Ⅷ ~朋友有信~
演算能力は依然として圧迫され続けている。
まだ準備は整っていない。合流には早すぎる。
「バ――!」
「文句は後にしてください」
左手を貫く木槍を抜きながら、痛がるのも忘れて
命令権など存在しないのは理解しつつも、なぜ十路の周りは、こうも我が強い女性ばかりなのかと思ってしまう。
「それに――!」
銃声で後の言葉は聞き取れなかったが、
まだ残る根が一斉に破裂した。立ち木に雷が落ちた時と同じように、高圧電流が中心部を駆け抜けて、わずかな水分が爆発した結果だ。
本体である
『《
今度こそ、『彼女』が現れた。
直接突き立てられる牙はまだしも、放電であちこちが焼け焦げた
十路たちのはるか頭上を通過する。河原に弾痕が一直線に
その虚を突いて、『雷獣』は再び
待ち構える
攻撃準備完了までの足止めは、『彼女』に任せておけばいい。誰もが口を揃えるだろう。
だが十路は、任せては駄目だと知っている。
「来たならコキ使うぞ!」
「いつものことです」
空けた右腕一本で
「放電するな!」
『!?』
更に『雷獣』に飛びついた。
走行中の自動車に飛び乗るようなものだ。しかも負傷している。ふたり分の体重を支える左腕全体が悲鳴を上げたが、歯を食いしばって耐える。
幸いにして『雷獣』がまとう外骨格には凹凸が多いため、取り付くことは難しくなかった。十路の行動は予想外だっただろうが、意を汲んだ『雷獣』が尻尾の一本で振り払うのではなく体を支えてくれたのもある。
見覚えある赤い
まだ距離があるのに、
そんなわかりやすい攻撃は、『雷獣』は進路を一歩分変えただけで易々と避ける。
問題は、この後だ。だから十路は『雷獣』の背中に押しかけた。
「右に跳んで止まれ!」
一瞬戸惑うような間があったが、『雷獣』は素直に指示に従う。急停止の慣性に放り出されそうになったが、十路も
等身大レベルとは比較にならない巨大な《軟剣》が、音もなく斜め後方から襲い来る。止まらなかったら直撃していた空間を切っ先が貫いた。
「
それだけなら脳内センサーで感知できる。『彼女』ならきっと避けられる。
だが《軟剣》の真価は変幻自在の連続攻撃だ。対処して油断した途端に逆方向から打ち据えられるなど、十路は何度も経験した。
『伏せ』した背中で十路たちも伏せると、その頭上すれすれを《
「高速移動用意!」
銃鉈と共に《軟剣》が剣・槍・鞭として三度振るわれると、わずかながら余裕が生まれた。
だが
更に腹から生えた
「ぶちかませ!」
効果を発揮される前に懐に入る。電磁投射の《
『雷獣』の頭部に生える幾多の角が、
あれほど困難だった接近が叶ったと同時に、十路と
「回路まで壊れるなよ……!」
十路は上へ。動作不良を起こした小銃を狼頭の咥内へと突き込み、そのまま発射する。
詰まった弾丸に後発の弾丸が激突し、
「人体の構造上――」
そして向けられる銃口よりも内懐に飛び込みながら、
「が!?」
「ここが弱点です!」
突き込まれたのは、破壊された《無銘》の柄だった。
鎖骨と肩関節を破壊すれば、異形の拳銃を向けられることはない。再生能力は異物を突き込まれたままでは発揮できない。
だが、そこまで。
十路は
(もう一手――!)
十路は腰から
しかも銃身が破裂した《八九式小銃》は、出力機能にも異常を来たした。脳機能接続状態は保ち、演算能力を奪われっぱなし
【おまたせ!】
もう一手が現れた。
体重表記単位は
【《
一応は等身大と呼べるが、それでも巨漢サイズのロボットが、蹴った反動で向きを変え、十路目がけて降ってきた。しかも
「ちょ――!?」
彼女の意図は理解できた。十路には疑問も異論も余地というか暇がなかった。
「がッ!?」
半ば仕方なく突き出した左腕に、コネクタがガッシリ食い込む。本来機械の腕を支えるのだから、挟む力は生半可ではない。
左手を木槍で貫かれて《
十路の左腕を作る細胞は導線として機能した。《コシュタバワー》との有線接続成立のステータスが灯ると、《
「ぬがあぁぁぁぁぁッッ!?」
それよりも、人間五、六人分の荷重が左腕一本にかかったことが、遙かに問題だった。片腕で支えられるわけがない。
《コシュタバワー》は地面に落とされたことを気にも留めず、
今度は体当たりだけでなく、ほぼ密着状態から限界出力で一斉射撃した《Aerodynamics riotgun(空力学暴徒鎮圧銃)》の衝撃を浴びせた。
すかさず『雷獣』が攻める。爪を突き立て四肢を踏ん張り、角でかち上げながら尾で投げ飛ばす。
地響きを立て巨体が河原に転がると、追って『雷獣』は身を
振り落とされた
「トージ!」
彼女は《コシュタバワー》のハンドルグリップを分離させ、片方を投げ渡してくる。
「左腕が折れたっつーのに……!」
愚痴をこぼし、十路は照準線ビームライディング誘導システムとして片手で構える。《
『雷獣』は倒れた
【も~! 世話かかるなぁ!】
『雷獣』に再度接近してくる《
十路と
だが杞憂だった。『雷獣』の背面から生物の一部が再現される。ミイデラゴミムシの分泌腺から高温ガスが。テッポウエビのハサミは弱プラズマ衝撃波で。
【そんなのでどうにかなるわけないっつーの!】
それらは生物の捕食・自衛能力に過ぎない。機械相手では役者不足だ。いくら《
『雷獣』も重々承知しての迎撃――否、その準備だった。
上空の《
毒液や血液で
きっと《
『蠢材……! (マヌケ……!)』
【え゛?】
援護するべく発たれた弾丸は、
本領発揮した《ヘミテオス》が、その程度で死にはしないだろうが、足止めにはなる。
飛び
仮想砲身が何本も胴体周辺に形成され、わずかなタイムラグを置いて、
戦闘で満身創痍とはいえ《
【がぁ!?】
それも加味された連射だった。回避先に置かれた五発目が左主翼を根元から溶断し、六発目が胴体を貫通した。むしろ四発までよく避けたと
河原に墜落する戦闘機には目もくれない。『雷獣』は氷を砕いて自由を取り戻そうとする
「……なんかもう、アイツひとりで勝てる気してきた」
「ここまできたら、任せてもいいんじゃないですか?」
思わずこぼした十路のひとりごとに、
「トージがそこまで『あの子』を信頼できるのなら」
両手で照準線ビームライディング誘導システムを構える
視線はこの上なく真剣だった。
場違いな
この戦場を任せきるには、『雷獣』の戦闘能力よりも、『彼女』の性格を信じることができない。
それに
ちょうど
「離れてください!」
暗号化プロトコルは、
「このまま撃ちます」
「おい!?」
「私は『あの子』を信頼してますから」
先ほどの暗号通信は、『雷獣』はギリギリまで押さえ込み、寸前で脱出する旨か。早く離れてしまうと、
失敗して離脱が遅れたら、
迷う暇などないのはわかっていたが、十路はそれでも
そんな彼に、暴れる
――早くしてください。
――私を信用してください。
目がそう語っている。
気のせいだとしても、他に手はなく、信頼するほかない。
「イクセス、合わせろ」
「了解」
狙いは宙。
十路が管制するA砲の、
「三、二、一、
△▼△▼△▼△▼
いわゆる
だが眼前の『雷獣』の腹から、毛皮を割ってなにかが飛び出した。濡れた肉紐が左手首に貼りつき、握る骨拳銃を明後日へ向ける。
カエルかカメレオンの舌か。接着剤並みの粘着力を持つ唾液と、引っ張られる力は、この際問題ではない。ほぼ筋肉で出来た舌で、ジェット機の二〇倍以上の加速力で叩かれると、骨など粉砕されるという、考慮外の事態のほうが問題だろう。
《
ノミの跳躍力は体長の二〇〇倍。アリの怪力は自重の七〇〇倍。重さは大きさの三乗に、ひいては必要エネルギーもそれだけ比例するため、その倍率を維持できるわけではないが、生物が持つ脅威の身体能力を巨大化させて発揮する。サイズ比で考えると、出力は機械でも及ばない。
更には隠匿性。《
先ほどの舌もそうだったように、予測できずに不意打ちを受けやすい。そして腹から舌が伸びるなど誰が予想する。
「操……! (クソったれ!)」
その上で《魔法》――仮想未来兵器も発揮する。『雷獣』は紫電を身にまとい、接触状態の
『ごめんなさい』
その状態で、『
『あなたは助けられません』
『助ける……!?』
まだ大人になりきれていない、毅然とした少女の
無自覚だろうが、見下した発言と。
『あなたのデータまで、回収する余裕がありません』
そんな気持ちなど伝わっていないだろう続きに、直感した
『同命(こうなれば……!)』
十路と
彼らならば、きっと
仮に撃ったとしても、せめて『彼女』を道連れにする。
「!?」
だが、目論見は簡単に
『
束縛はなくなったが、退避に必要な貴重な時間が失われてしまった。
『ごめんなさい』
白い煙幕から華奢な少女の腕が伸び、宙に浮いた赤い
【あー……これダメぽ】
墜落した《
亜光速で移動しているはずだが、十路たちの背後で構える巨大な仮想施設から、《
空間隔絶無差別跳躍――《光を避ける者は拒絶し星食す》。
他の《
だが巻き込まれれば、《ヘミテオス》といえど命はないのは想像できる。
『爸爸……!(パパ……!)』
見ているはず。知っているはず。
なのに呼びかけても、なんのリアクションもない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます