055_2060【短編】一動画配信者から見た総合生活支援部Ⅶ (やっぱり関わっちゃいけない連中だよ、コイツら……)


 そして気付いたら、ふたりして留置所にいた。警察病院ですらなかった。まぁ、無傷というか《魔法》で完治されたら、そうなるのも致し方ないかもしれないが。

 目覚めてもそのままだった。留置担当官たんとうさんを呼んでも話にはならず、無罪で勾留されたドラマの登場人物の気分を味わうことになった。


 そうして夕方になり、ようやく留置所から出され、ふたりして取調室に連れて来られ、今の図がある。


「さっきも言いましたけどね……修交換学院あそこは鬼門なんですよ」


 ずっと黙ってタカヤとヨーダイの話を聞き終え、中年刑事は重いため息と共に口を動かした。


「先方からも、警察こちら側で問題なければ釈放しても構わないと言われてますし、反省もされてるみたいなので、これ以上は問いませんがなぁ……あそこは関わらんほうがよろしい」


 疲れていると実感はあまりないが、嬉しい説明をしながら、ふたりに茶を淹れて差し出した。

 学生食堂にでも置いてそうな巨大なヤカンから、素っ気ない茶碗に淹れられただけの茶だ。実際すっかりぬるくなっていたが、それでも勾留された経緯を説明するのに口を動かし続けたふたりには、ありがたい水分だった。


「大道さーん」

「「ぶふぅぅぅぅっっ!?」」


 だがノックの返事を待たず、取調室に入ってきた者を見て、思いっきり噴き出した。


 入ってきたのは、忘れたくても忘れられない、白金髪プラチナブロンドにカーディガンを着た、あの外国人女子高生だった。


「あの、ナージャさん? いま取り調べ中なので、勝手に入って来ないでもらえません?」

「どなたを取り調べ中か、地域課のご同僚にお聞きして、問題ないと判断しました」

「また菓子で買収しましたね……?」

「それくらいで教えてもらえる程度の情報ってことです」

「一応は部外者なんですから、あんまり庁舎内で好き勝手されたら困るんですけどね……」

「支援部と県警、わたしと大道さんの仲じゃないですか~」


 苦言などどこ吹く風。外国人女子高生は溶けかけた雪ダルマみたいな笑顔で受け流す。

 中年刑事も立場上、仕方なく言っただけか。真剣味も追加の文句もない。

 タカヤとヨーダイは、総合生活支援部が警察の協力組織であることを詳しく知らず、中年刑事と外国人女子高生がなぜ親しげに話しているか、全く理解できない。


「それで。どうしました?」

「今回わたしは単なる移動手段あしです。用があるのはフォーさんです」


 外国人女子高生が場を譲ると、赤髪土器色肌で無気力感満載の、ぬぼ~っとした小学生女児が入ってきた。見覚えありすぎるが、やはり忘れたい気分になった。まぁそもそも小学生はヨーダイたちを一瞥すらしないが。


「警察に恩を売りに来たであります」

「フォーさんも……」


 子供らしくない物言いに、半笑いで中年刑事は差し出されるUSBメモリーを受け取り、中身がなにかと目顔で続きを促す。


「昨夜自分たちが大量に逮捕して引き渡したでありますから、いま県警は身元確認すら覚束おぼつかないのでは? どこの誰か判明した者はデータが入ってるでありますよ」

「おぉ、そりゃ助かります」


 中年刑事が補助員の制服警官になにか囁き、USBメモリーを渡されると、取調室を駆け出していった。取調べはふたり一組で行われるのに、場を離れていいのか。中年刑事ひとりで問題ないと思ったのか。それはヨーダイたちにはわからない。

 なにも知らない第三者視線で見ると、そもそも普通の小学生が持ち得ないデータをネタに、恩の押し売りをすること自体が異常なのだが、思考停止したヨーダイはそんな疑問を抱かない。


「タカヤ・サエキ。ヨーダイ・イノウエ。お前たち、まさか匿名掲示板の書き込みを見て、昨夜修交館学院に来たのでありますか?」


 不意に小学生女児が振り向いた。焦点の合っていない瞳に見つめられ、思わずふたりしてビクッと肩を震わせた。

 妙な迫力に気圧けおされて言葉に詰まっていると、少女は振り向き直して中年刑事に視線で答えを求め、彼もまた肩をすくめただけで肯定した。無言でやり取りできるほど、彼女たちは付き合いが深いらしい。


「あれ、自分の書き込みでありますよ?」

「「ハ?」」


 意外な言葉に、タカヤとヨーダイは揃って間抜けな声を上げてしまった。


「どこかの軍隊、諜報機関、テロ組織……自分たちの情報や身柄が狙われるのはいつものことでありますが、どうにも最近数が増えて、鬱陶うっとうしくなってきたであります。なので自分たちの行動を匂わせておびき寄せて、昨夜一掃したのであります」


 怪しすぎると散々反対したが、結果は変わらず小学生たちの罠にはまった事実に、ヨーダイは深々と肩を落とした。


「同じようにして捕まった動画配信者、お前たちだけではないでありますがね」

「仲間がいるのか……!」


 補足に意を得たとタカヤは顔を上げたが、ヨーダイには『お前みたいなバカ、他にいたのか』としか思えない。


「ま、災難でしたね♪ いい経験だと思って、不法侵入オイタは控えることです」


 外国人女子高生が背後に回り、馴れ馴れしく肩に手を乗せてきたが、昨夜剣豪ぶりと殺人鬼ぶりを見せた彼女にやられたら、恐怖以外を抱かない。


(やっぱり関わっちゃいけない連中だよ、コイツら……)


 ヨーダイは改めて、深々とため息をついた。



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