第20話 覚醒

白い床を歩いてICUに突入する。光莉は白いベットの上で寝ているようだった。心拍数は60台を下回り、50台後半となっていた。

こうなったのも俺のせいだ。

「光莉、しっかりしろ!アタシはまだ光莉と一緒に居たいんだよ。だから、戻ってきてよ。」俺は力強く光莉の手を掴んだ。

反応は無い。そりゃあ、意識は無いのだから。


「なぁ、光莉。聞こえてるんだろ。私の声。今日な、光莉が倒れて授業に集中出来ずにサボっちまった。悪いよな。」

優しく語りかける。何だろう、涙が出てきた。女の身体になってから色々と変わっちまったのかな?

「ねぇ光莉、しっかりしてよ。また一緒に遊ぼうよ…ううっ」

涙が溢れ、光莉の顔を濡らした。


刹那…光莉の心拍数は上昇し始めた。

「光莉、お前…もしかして、俺が…いや、私が来るのを待っていたの?」

62、64…着実に心拍数は上昇している。これも体張ってCPR法を行ったお陰か。大したことをしていないのに、世の人は称賛する。皆は心肺蘇生法を難しいと言うが、コツさえ掴めれば難しくない。


つまるところ、講習を受ける機会が少ないって事だ。

無知によって救えるのに救えない命が出てくるのは、悲しいことだ。学校教育でも必修にするべきだと思う。

光莉の隣で目を覚ますのを待った。俺は、ただ光莉が目を覚ますことしか頭に無かった。


「…あぁ。ここは何処だ。」 光莉は目を覚ました。

「光莉!目を覚ましたのね。良かった。」俺は喜んで光莉に抱きついた。しかし、そこに居たのは光莉では無かった。

別に人を間違えたわけじゃない。光莉なのだ。だけど、人格が違ったのだ。

「テメェは誰だ?見知らぬ顔だな。」声もおかしかった。悪魔の囁きのような低い声だった。しかし、倒れた時は何かしら狂っていることもあろう。だから、ここは大人の対応をする。

「どうも、鳳凰院香澄です。月野光莉さん…貴女をお迎えに参りました。」

「俺を連れていくのか?折角、いい気分で眠ってたのによ。生き返らせるなんてどういう事だ?俺はそのまま死にたかったんだ。」

「まぁ、そんな事言わないでさ。先生、月野さんの意識戻りましたよ。」

「あっ!お元気そうですね。退院の許可を出します。月朋会ディアーナにも附属の病室がありますので何かあったらそちらに。」

「おう。大変だったな。今日は俺が送って行く。」理事長の月島が二人を送って行った。7時に出発し、8時にディアーナに着いた。


「なぁお前、一戦交えてみるか?月野。」

「あぁ。望むところだ。ぶっ潰してやる。」相変わらず声は低い。多分、何かに乗り移られている。今のあいつはタナトスあたりの依代にでもなっているのだろう。一度目を覚まさせる必要があるだろう。今でも目は覚めているが、心が覚めていない。

武道場に向かった。

「さぁ!全力でかかって来い!」俺は木槍を手にした。

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