第120話 リスタート

 激しい衝撃と共に、信じられないくらいの痛みを感じる。


 痛い痛い痛い!


「癒しの風よ汝につどえ、ユーリにヒール!」


 フランクさんの詠唱と共に、すうっと体の痛みが引いていく。

 た……助かったぁ……。


「ユーリちゃん大丈夫!?」

「ユーリ!」


 アマンダさんとアルにーさまに抱き起こされて、皆も無事だったことに安心する。


「怪我をしていたようだったけど……」

「はい。でもフランクさんが回復してくれたから大丈夫です」


 アマンダさんは私の体をペタペタと触って、怪我がないかを確認していた。


 ふわわわわ。

 くすぐったいですぅ……。


「ごめん、ユーリ。僕がもっと近くにいれば良かった」

「いきなりだったし……。それに私がもうちょっとちゃんとしてれば、受け身を取れたんだと思います」


 だって、こうして見回しても、あんなダメージを受けたのって私だけみたいだもん。


 あのカリンさんだって、妖精の羽を広げてふんわり着地している。


 それにしても……。


「ここは……」


 周囲の光景に見覚えがありすぎる。

 最初に落ちた場所に、また戻っちゃってるんじゃないのかな。


「ひょっとして巻き戻ってる……? でも、どうして?」


 キョロキョロと見回すけど、やっぱりあの広い部屋だ。

 アルにーさまたちも難しい顔をしている。


「叡智を示さねばならぬのかもしれん」


 カリンさんが下層につながる出口の方を見つめた。


「そんなこと言っても、どうやって示すんだよ」

「正しき道は、ただ一つなのだろうな」

「正しき道だぁ?」


 カリンさんの謎かけのような言葉に、フランクさんは肩をすくめた。

 頭の上のルアンも首を傾げている。


「いずれにせよ、先に進むしかあるまい。ほら行くぞ」


 カリンさんが神楽鈴でフランクさんの背中を押した。


「おい、そんなので押すなよ、痛いじゃねぇか」

「その無駄についた筋肉に当たっているだけだ。痛みなどなかろう」

「筋肉だって痛みは感じるんだぜ!?」

「ふむ。そうか。興味がないのでどうでもいいな」


 騒がしい二人に、小さく笑いがこぼれる。


 こんな時なのに……。二人とも、おかしいの。

 ふふっ。


 よーし。

 気合を入れて、三回目のチャレンジだ!


 迷路になっている層までは、今までと同じように進む。

 でもここからが問題だ。


「多分ここに何かの仕掛けがあるんだと思う」


 アルにーさまが壁を調べる。

 でも変わったものは何もないみたい。


 う~ん。仕掛けってどんなものなんだろう。

 考えても分からないよ……。


「みぎゃぁ。ぎゃるる」

「きゅう。きゅーっ」


 その時、道案内をしてくれているノアールとルアンが何から会話のようなものをし始めた。


「ぎゃる」

「きゅっ?」

「ぎゃるる」

「きゅ~う」


 えーっと。

 なんだかルアンがノアールに何かを聞いているみたい?


 何を聞いてるんだろう。


「おい、何してるんだ?」


 フランクさんが声をかけると、ルアンがピンクの体をぷるぷると震わせた。


「どうしたっ?」


 焦ったフランクさんが近づこうとすると、ルアンが「きゅううううううううううう」と声を上げて、そして――。


 ルアンの体が一瞬光に包まれた。


 その光が薄まると、そこには……。


「あれ? 何も変わってない」


 ちょっと変身したりするのかなと思って期待してたんだけど、見たところ何も変化している様子はない。


 だったら、あの光は何だったんだろう?

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