第98話 ひらめきが大切です
アボットの村を出発したら、まずは元の大きな街道へと戻ることになった。
このまま山沿いに進めば土の迷宮があるらしいんだけど、ちゃんとした道が整備されていないから危険なんだって。
魔の氾濫の後で魔物も増えているかもしれないし、きちんと魔物除けが施されている街道を進んだ方がいいみたい。
ちょっと遠回りになっちゃったけど、でも安全第一だよね。
それにしても、土の迷宮に入る前にこのクエストをクリアするチャンスってあるのかなぁ。
だって移動はアルにーさまの馬に同乗させてもらっちゃってるし、魔物が出てきてもヴィルナさんとアマンダさんが瞬殺しちゃってるから、私が戦闘に参加するタイミングが全然ないんだよね。
どうしようかなぁと悩みながら、アボットの町を出発する前に受けたクエストを思い出す。
確か無属性魔法のステルス・サークルを使用せよってクエストだったよね。
それで、その上に魔法を置く。
う~ん。
無属性魔法かぁ。初めて聞くんだけど、何だろう。
ステルス・サークルっていうのは、『ステルス』だから『見えない魔法陣』ってことかな。
そこに魔法を置く……?
よく分からないよぉ……。
クエストクリア報酬が
こういうクエストって、クリアすると新しい魔法を試せば使えるようになるってケースがほとんどだしね。
確か盗賊のスキルで蜘蛛の糸とか落とし穴っていうのがあったような気がするけど、それと同じかなぁ。
でも魔法陣なんて使ってなかった気がする。
ってことは、盗賊のスキルとは別のスキルなのかもしれない。
色々と考えていると、後ろから抱えこんだ状態で私を支えてくれているアルにーさまが、心配そうに声をかけてきた。
「どうしたんだい、ユーリ」
「えーっと。新しい魔法を覚えたんですけど、どうやって使うのか分からなくて」
「さらに新しい魔法を覚えたのかい?」
下から見上げると、アルにーさまの水色の瞳が驚いたように見開かれている。
「ちょうどレベルが上がって覚えました」
えっへん、と胸を張ろうとしたけど、馬の上だと無理だった。
その動きにつられて、白猫ローブの胸のところから「にゃ?」と不思議そうにノアールが顔を出す。
とりあえず可愛いから撫でておいた。
えへへ。
「そういえば初めて会った時にも言っていたけど、レベルっていうのは何かな?」
あれ。今までレベルの説明って、したことがなかったのかな。
でも、どうやって説明すればいいんだろう。私はレベルが上がると、それによって新しい魔法を覚えることがあるけど、この世界の人は誰かから教わったり何度も練習することによって、いわゆる練度が上がりスキルを使えるようになるんだよね。
「えーっと、魔物を倒したりすると経験値をもらえて、一定の経験値が貯まるとレベルが上がるんです」
これで話が通じる……かな?
「経験値なんて初めて聞いたけど、どういう意味なんだい?」
……やっぱり無理でした。
うーんうーん。どうやって説明すればいいんだろう。
「例えばスライムみたいな弱い魔物だと1しか経験値をもらえないんですけど、ホーンラビットだと10もらえるんです。それでその経験値をたくさんもらうと、魔法使いなら魔法使いの熟練度が、剣士なら剣士の熟練度が上がって、新しい技を使えるようになるんです」
がんばって説明したけど、やっぱりうまく説明できていなかった。
ううう。もっと
「つまり魔物をたくさん倒すと、新しい技がひらめくのかな」
「アルにーさまたちもそういうことってありますか?」
「僕たちの場合は、武器を持って鍛錬している内に新しい技を会得することがあるね。まるで天啓のように、どう使えばいいかが頭の中に浮かぶんだ。団長が魔法剣をあみだした時もそうだったらしい」
「レオンさんが……」
アルにーさまの言葉に深く納得しちゃった。
だって確かにレオンさんって天才っぽいもん。ピコーンとひらめいて、技どころか、新しい職業まで編み出しちゃったんだね。
「ユーリも新しい技をひらめいたんだね?」
「そうです」
「じゃあ一度試してみようか。ここなら人もいないし、ちょうどいい」
アルにーさまは皆を止めて、馬から下りた。
わわわ。なんだかオオゴトになっちゃってない?
「どうしたの、アルゴ?」
アマンダさんの質問に、アルにーさまは私が新しい技をひらめいたのだと説明した。
「凄いじゃない、ユーリちゃん! どんな魔法なの?」
「よく分からないんですよね。効果があるのかどうかも……」
「……もしかしてまた地面に穴を開けるんじゃ……」
うっ。それを言われると……。
アマンダさんが言ってるのは、最初にスライムを倒した時のことだと思うんだけど、あの時は力の加減が分からなかっただけなんです。
それに魔法陣を地面に描くってことは、穴は開かないと思います!
「それはないと思います」
多分……。
と、心の中でつけ加えておく。
「そういやこの辺りにはタウロスが出るんじゃねぇか?」
馬から下りたフランクさんが、辺りを見回しながら言った。
「あら。タウロスって」
赤い髪の毛をかき上げたアマンダさんは、少し慌てている。
え。タウロスってもしかして凄く強い魔物なのかな。
「白い物を見ると、すぐに突っこんできやがるんだよなぁ」
白……?
それって、もしかして――
「嬢ちゃんを見たら一直線だな」
フランクさんは豪快に笑うけど、それって
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