<遅刻理由10> パンツの中でレボリューション


 突然ですが、JKの主張です。

 東京都心は、道がゴチャゴチャしすぎだと思います。

 道路はぐにゃぐにゃ複雑怪奇で、まっすぐ進めず回り道ばかりなのです。


 どこを見てもビルだらけ、どこを見ても同じ光景。

 見晴らし悪くて遠くが見えず、どこにいるか分からなくなる。

 そんなことがしょっちゅうですし、ひとつ向こうの通りに出るだけでビルを大きく迂回する必要があったりと、非効率な移動ばかりで嫌になってしまいます。


 何より許せないのが、駅から学校までのルートです。

 駅のホームから障害物無視で直進すれば、三分で到着する場所に学校はあります。


 ですが、実際に歩けば15分もかかってしまいます。

 このミステリーの正体は、駅の出口がラリった場所にあるとか、踏切の配置がクソだとか、通学ルートの途中にアホみたいにでかいビルが生えていて、直線距離だと20メートルほどの距離を、わざわざ数百メートルも迂回する必要があるなど、色々と原因はあるのですが……主にクソでかいビルのせいですね。

 こいつが、通学を邪魔してるんですよ。

 まっすぐ進めば20秒でも、ビルが邪魔して数分のロス。

 それが毎日で――

 設計者だれです? モドキんさんを紹介しますよ?


 いま例のクソでかいビルの前を歩いてますけど、ほんと、このビルが憎いです。

 コイツさえなければ、駅から学校までの移動時間を三分は短縮できるのです。

 つまり百回通えば、往復で六百分の時間ロス。

 ――取り壊しを要求します!

 とか、

 不毛なことを妄想していたら、あたしは気づいたのです。

 駅から学校までの時間ロスを減らす、ビルの隙間の奇跡の抜け穴の存在に。


「ありました……」


 本当にありました。

 ビルとビルの間を抜ける奇跡のルートが、狭くて細くてギリギリ通れそうな抜け穴が。

 あたしは立ち止まって、抜け穴を凝視します。

 その抜け穴はビルとビルの間、幅三十センチぐらいの隙間でした。

 これぐらいなら通れそう……なのですが、ビルの隙間を強行突破する。

 そんなガキみたいなことを、はたして高校生がしても許されるのでしょうか?

 いや、駄目な気がします。

 ビルの隙間に突撃したら、あたしの中の何かが音を立てて崩れ去るような気がします。


 ――やってはいけない。


 あたしの本能が警告しています……そうですっ!

 普通に歩けば間に合いますし、なにも今日挑む必要はないのです。

 はい、今日はやめておきましょう。

 だけど、


 ――いつか待ってろ、ビルの隙間さんッ!

 ――あたしはいつか、お前を倒して見せますッ!


 都会のコンクリートを踏みしめて。

 あたしは一人、ビルの隙間との戦いを誓いました。

「                            助けてくれぇ……」


 さて、いつも通りに学校に行きますっ――て、少し上にいるコレ↑なんですか?


「助けてくれぇ……」


 ビルの隙間から、聞き慣れた声が聞こえます。

 それは無駄にイケメン低音ボイスで、声だけ聞けばセクシーだけど、中身は変態しかも童貞、ボーカル詐欺なキモい系、性格ダメでも顔はよく、脳内異常者もはや手遅れ、殺す以外に打つ手なし――その名は。


「ゆとり先輩は、なぜビルの隙間に挟まっているのでしょうか?」

「ショートカットに失敗したんだ……助け」

「じゃ」

「待て春日っ! このまま俺を放っておくのかっ!?」

「はい。あたし、ゆとり先輩に関わりたくないので」

「にっこり笑って、ンな冷たいことを言うな。俺とおまえの仲じゃないか」

「他人から誤解されるようなことを自信満々に言わないで下さい。気持ち悪いですし、不愉快ですし、つまりゆとり先輩はキモくて不愉快なんです。ようするに喋るな、話すな、息吐くな、吸って吸って破裂して、つまり苦しんで死ねってことです。ハラワタをぶちまけて。というわけで、ゆとり先輩は死んでください。ビルの隙間で一人孤独に、いつまで死ぬまでミイラになるまで、可能なら誰にも発見されず魂魄の一片までも消滅して下さい。では、あたしは学校に向かいますので」

「春日よ。俺が悪かった。だから助けてくれ。本当に動けないんだ。マジでお願いだ」

「ったく。ほんとゆとり先輩はロクなことしないですよね」


 呆れ顔でやれやれポーズを取りますが、心の中ではガッツポーズ。


 オッケー、ついに大義名分が出来ました!

 これで心置きなく、ビルの隙間に挑むことができます!


 あたしはこーゆーのを見ると、体がウズウズしちゃうんですっ!

 どー考えてもメリットがないのに、それでも挑戦したくなっちゃうわけですよ!

 いやー、ゆとり先輩みたいな社会の最底辺でちりとりに溜まったホコリの塊にも劣るゴミクズな変態さんでも、たまには役立つことがあるんですね。


「ゆとり先輩、いま助けに行くですよー」


 ワクワク☆ドキドキしながら、ビルの隙間に体を入れると、


「うぅ、狭いです……だけどなんとか……こっちに引っ張れば…………なっ!?」


 ……

 …………体が動きません。

 ……


 ガタガタ。

 ミッチリ挟まって、ピクリとも動けません

 どうやら、狭いビルの隙間にサンドイッチされたらしく……

 ゆとり先輩が、シリアスな表情で言うのです。


「俺の推測だが、このビルの隙間は、目の錯覚を利用して、人間を捕食する」

「ンなわけないんで、黙ってどーすればいいかを考えて下さい。目測を誤って、あたしまったく動けないんですけど」

「フッ、オレと同じではないか」

「勝ち誇らないで下さい。気持ちワルイ。んっ……右手の肘から先だけは動きますね」

「それは好都合だ。ところで春日」

「なんですか? ゆとり先輩に春日って呼ばれると、ベジータに「カスが」と言われてるみたいで、とっても不愉快なんですけ」

「おしっこ漏れそう」

「ギャリック砲……ッ!」


 警報発令、クラス五の警報ですっ!

 お客様の中にゴルゴ13や殺しのライセンスをお持ちの方、もしくはゾルディック家の方はいませんかっ!?

 ひらたく言いますと、誰か殺して! コイツを殺して!

 那由多の彼方に吹き飛ばして欲しいのですっ!


 だってコイツ、

 あたしとゼロ距離、

 目と鼻の先で、

 おしっこが漏れると、

 たわけたことを、

 やめてやめて嘘イヤちょまっっ、

 こんな至近距離でお漏らしされたら、

 あたしにもビチョビチョおしっこかかっちゃ……

 オワタ\(^o^)/


 近すぎるゆとり先輩の息が、あたしの顔に当たって……ヤダァ。

 吐息が爽やかミントの香り。ちょっと好感度アップ、


「漏れそうなんだ……おしっこ」


 するわけねぇーですよねっ!

 分かりきってましたとも、本当にありがとうございましたっ!


 しかし、どうしましょう……

 サワキーみたいに、ネットの知恵袋に相談しましょうか?


Q.目の前で変態がおしっこを漏らそうとしています。

A.現実を受け入れry


 無理に決まってますっ!

 脳内でQ&Aした結果、現実逃避の余裕すらないことが判明しましたっ!


 ……

 …………やはり、殺すべきですよね。

 ……


「あたしからゆとり先輩に質問ですけど、今すぐこの場で自殺とか出来ませんか? むしろさっさと死んで貰えません? 可能なら灰にでもなって一滴の水分も残さず」

「指ぐらいしか動かせないのに、自殺するのは難しいな」

「たとえ無理でも、がんばって死んで欲しいのです。ナポレオンの辞書に「不可能」の文字はないのです」

「ナポレオンの辞書にも「無理」とかは、あったと思うぞ」

「あーあー、聞こえません。とにかく、ゆとり先輩は死んでください。不可能を可能にして人間の可能性を証明してください。つまり死ねってことです。あたし、ゆとり先輩がおしっこを漏らす光景なんて、死んでも見たくないのです」

「なら、お前が死ねば良かろう」

「はぁぁぁ? 他人に軽々しく死ねっていう人はサイテーなのです、死ねっ」

「俺が悪かった、謝罪しよう。だから春日、頼みを聞いてほしい」

「お断りなのです。どーせ、ロクなお願いじゃないと思うので……なにを?」

「春日は、右手のひじから先が動くんだろ?」

「ええ、それがどうしましたか?」

「俺のチャックを開けてくれ……もうヤバイんだ」

「……ヤです」


 たすけてください。

 あたしの数センチ先で、変態童貞がおしっこ漏らすそうです。


 あたしは、この場から動けません。

 変態童貞も、この場から動けません。

 こんな状況でゆとり先輩におしっこを漏らされたら……どれだけ被害を被るか。


 ――動けない、

 ――おしっこが迫る、

 ――足元からじんわりと、

 ――ビチョビチョはねたりして

 ……いやぁぁぁっっ!?


「失禁ダメ! おもらし禁止なのです! 死んでも我慢して下さいっ! 男性キャラの放尿は、需要皆無な誰得展開なのですッ!?」

「ムリだ……もうシーケンスは秒読み、発射モードに入ってる……」

「チェックメイトなのです……(白目)」

「だがっ! 諦めるのはまだ早いっ! 春日よ、俺の作戦を聞いてくれっ!」

「……聞くだけなら(空きれい……)」

「動かせる右手は、俺のカバンまで届くか?」

「んーと、届きます」

「中身を漁れ、空っぽのペットボトルが入ってるはずだ」

「ゴソゴソ……ありました」

「手は届くな? ならばチャックを開いて、俺のちんこを出せる状態にしろ」

「ゆとり先輩は……なにを企んでいるのですか?」

「ペットボトルの中に、おしっこをする作戦であるっ!」

「しね」

「これしか方法がないんだ。ここでお漏らしをしたら、お前にもかかるぞ?」

「しね、しね、しね、ゆとり先輩は死んで下さい……」

「おしっこ IN ペットボトル作戦を説明する」

「聞きたくないのです……」

「おしっこ IN ペットボトル作戦を説明しよう。俺はおしっこダム決壊の危機にある。この場でおしっこを漏らすのはまずいが、膀胱は臨界点を超えている。不本意であるがこの場でおしっこを漏らさざるをえない。おしっこ漏れの被害を最小に留めるべく、この作戦は実行される。当作戦は三段階に別れる。第一段階は、俺のカバンから空っぽのペットボトルを回収することだ。これを「ランヒスブルク攻勢」と命名する。「ランヒスブルク攻勢」が完了すると、第二段階の作戦「トランクスからちんこを取り出す作戦」を行う。これを「ハーバンディー侵攻戦」と命名する。「ランヒスブルク攻勢」と「ハーバンディー侵攻戦」が完了すれば、第三段階の作戦「ペットボトルにおしっこをする作戦」を発動できる。これを「オペレーション・ラディスロウ」と命名する。オペレーション・ラディスロウは「ちんこの出口にペットボトルを押し当てる作戦」であり、これに失敗すれば、おしっこは周囲に飛び散るであろう。説明は以上だ。当作戦の失敗は許されない。俺は壁に挟まれ、指ぐらいしか動かせない。ゆえに、この作戦の成否は春日が握る。もちろん作戦の成否だけではなく、俺のちんこも握るだろう。デリケートなパーツゆえ、やさしく握って欲しい。腐敗した春日ミクにヴァルキューレの祝福を!」

「上官殿、あたしは任務を拒否したいのです……」

「撤退は許可できない。むしろ、できるものなら撤退してみろ。とにかくだ、自由な右手でズボンのチャックを開けるんだ。ハーバンディー侵攻戦を開始する」

「ムリです」

「なら、漏ら」

「それはダメなのですっ! だから……うぅぅ、ド畜生なのです……なぜあたしが……動かないで下さいよ……布越しでもゆとり先輩のに触れたくないんで」

「はぁはぁ……うっ、早くちんこを、トランクスから開放してく……うっ!!」

「ひぃぃっっ!? キモすぎてリアルで悲鳴が出ましたっ!? あたしが嫌々チャックを開けてる時に、気色悪い声でゾクゾク震えないで欲しいのですっ!」

「嫌がる後輩の女の子にズボンのチャックを……ビクンッ、ビクンッ」

「どうして……なんで……しくしく」


 涙を流すあたしは、ズボンのチャックを、「ちぃぃぃ~~」と下ろします。

 ゆとり先輩が言うのです。


「注意しろ。女は知らぬだろうが、たまに皮が引っかかるのだ」

「ドコの皮が……あっ、言わなくていいです。だいたいドコの皮か想像つくんで……この皮余りさんめっ」

「上手だぞ、うっ、このテクニシャンめ」

「ゆとり先輩は、どうしてズボンのチャックを開けられるだけで感じているのですか? ……いや、変態ゆえなのは分かりきってますけど」

「ハァハァ、ズボンの次は、トランクスからちんこを取り出してくれぇ……」

「それはつまり? あたしにゆとり先輩のサムを掴ませて、ひきこもり息子ジョニーをパンツの窓から引きずり出せと?」

「そうだ。恥ずかしいだろうが遠慮することはない。俺のトランクスにその手を入れて、俺のちんこをその手で掴んで、社会の窓からコンニチワさせるだけだ……」

「あはは、NaんDaとても簡単なKoとですねって、怒りのあまり日本語がラリってきましたよ……いまあたしはゆとり先輩を500兆回ぐらい殺したい気分なのです……どうにかなりませんか? ほら、自分で動かすとか?」

「男のアレは自分で動かせる構造になってない。だが、努力はしよう」


 ゆとり先輩が言うと、

 ――がっくん、がっくんっ。

 わずかに動く腰を、前後上下、ゆさゆさと振り始めました。

 ――がっくん、がっくんっ。

 粗末なモノが、トランクスの中で震えています……イケそうですっ!


 動いてますっ!

 なんかポジションがズレてますっ!

 社会の窓の出口に向かって!

 YES、パンツの中でレボリューション!


 ゆとり先輩のアレが、トランクスの意味深な隙間から……って、なんであたしは、ゆとり先輩のパンツの隙間を固唾を飲んで見守って、しかも実況までしているのでしょうか?

 あと男性のトランクスって、アレが顔を出す窓的な隙間に、ボタンが付いてるんですね。

 ボタン留めていないのは、毎回使用時にボタンを外すのはめんどいからでしょうか?

 これは、女が知らない男の秘密でした。

 ここで得た知識は、今後の創作に生かすことにします。

 しかし、


「……やたら上手いですね」

「あぁ、俺の腰振りは学区内でナンバーワンだ」

「競技人口がどれぐらいかは知りませんが、ゆとり先輩がナンバーワンでいいと思うのです……あっ、先っぽが出てきましたよ」

「コンニチワ」

「挨拶は不要なのです。とても嫌な光景です。吐き気が止まりません」

「フンっ! どうだっ! もう先っぽにペットボトルを押し当てられるだろ?」

「じゃぁ、その、先っぽにペットボトルの飲み口を当てますよ?」

「優しくしてくれ」

「キモいんでやめてください……えぃ」

「よし、ちんこはボトルと接合された。ハーバンディー侵攻戦は成功だ。これよりオペレーション・ラディスロウを開始する。俺の膀胱も限界だ。では春日よ、ちんこの皮を剥いてくれ」

「――は?」

「繰り返す、皮の鎧をパージしろ。俺のちんこを包む皮、ズルって感じで剥けるから」

「上官殿……ロッテン隊は、その命令を断固拒否するのです……」

「撤退は許可できないというかできない。説明しよう。女は知らぬだろうが、男は先端が皮に覆われた状態で放尿すると――飛び散る」

「……なっ、なにが?」

「周りにおしっこが。知らなかっただろ?」

「……続けてください」

「男は皮を剥かずに放尿すると周囲におしっこがシャワーのように飛び散って、甚大な被害をもたらす。イメージはおしっこ・スプリンクラーだ。しかしちんこの皮を剥いて放尿すれば、おしっこウェーブはスパイラルな回転運動で安定した弾道を描くのだ」

「衝撃の事実です、貴重な資料として記憶させて頂きます……」

「図らずとも貴様の創作に寄与してしまったようだな。つまり俺のちんこの皮を剥くことが、オペレーション・ラディスロウの成否を分けると言っても過言ではない。片手でペットボトルを保持しながら、ちんこの皮を剥くのは困難である――が、春日なら出来るっ! 今ここでちんこの皮を剥けるの貴様だけだ! 腐敗した戦乙女、健闘を祈るっ!」

「しね……死ねしね死」

「うっ、もうダメだァ、漏れ」

「あ"あ"あ"ぁぁぁっっ!! 剥くです!らめです!我慢なのですっ! 失禁お漏らし厳禁なのですっ! あたし頑張りま……ヤダァ。先っぽの皮がズルって剥けたのです……なんという滑らかな剥け具合……てっきり腐女子のあたしは男性のアレの皮が剥ける際の擬音は「ヌメっ…」とか「ヌチャっ…」とか、そういったのが似合うと想像してましたが、真実はスルッと無音で滑らかに剥けたのです……しかも皮に厚みがあってぬくもりを感じるのです……触り心地は鶏皮とよく似ていますね……アレの皮と粘膜の境界線はこのようになっていて……貴重な資料なのです」

「グッド、完璧な剥き方だっ! 剥いたままの先端をペットボトルに固定しろ――コンタクト! ちんことボトルの接合を確認した! もっもう限界だ……出るっ」

「目をつぶってるんで早く終わらせて下さい……生暖かい肉棒の感触が、う"あ"あ"あ"ぁぁぁっっっ!? ジョロロッッッて音がぁぁ!? ボトル越しに生暖かい液体の感触がぁぁぁ!?」


「あら、春日さん? なにをしていますの?」


「その声はオリミー!? どうしてオリミーがビルの隙間にっ!?」

「ここはわたくし専用の通り道になりましてよ? 普通の人なら通れないでしょうが、小柄なわたくしなら――おや? ゆとりさんも一緒ですわね?」

「助かったのです! あたしとゆとり先輩はビルの隙間に挟まって動けな――」

「はわわぁ……おしっこ気持ちいい……」

「……あなた達、いったい何をしてらっしゃいますの?」


 狭いビルの隙間で。

 あたしとゆとり先輩は、共同作業でペットボトルに放尿をしています。

 はい。

 この状況を見られたら、たぶん色々とガチでヤバイですよね。

 それこそ、あたしの人生が終わるぐらい。

 オリミーの冷めた声が、背中の方から聞こえてきます。


「春日さんにお伺いしますわ。ゆとりさんの発言は? 水の流れる音の正体は? なにか香ばしい匂いがするのは気のせいでよろしくて?」

「ゆとり先輩のちんこの皮を剥いて……ペットボトルにおしっこしてるのです……」

「サヨナラですの。永遠に」

「オリミーカムバック! これには事情があるのです! あたしも嫌だったのですっ!」

「ハァハァ……気持ちよかったぞ……また機会があ」

「黙れ喋るなそして死ねぇぇぇ! 死んでください! お願いですからゆとり先輩はあの世に旅立って下さいっ! あたしの名誉のために死んでくださいっ! オリミー帰ってきて欲しいのですっ! あたしを助けてコイツを殺して嫌なのムリですこのまま終わるの! 救いがないのはヤなのです!」


 ――ビルの隙間に、

 ――あたしの悲鳴がエコーしました。


 それから、しばらくして。

 あたしの「死ね!」が、7百回を超えたぐらいでしょうか?

 まずは脱出しなくちゃと、あたしとゆとり先輩は共同戦線を張ることにしました。

 作戦会議を重ねた結果、体とビルの隙間にお弁当のマヨネーズを流し込む方法で脱出に成功。白くてヌルヌルとした液体まみれになったあたしを見て興奮するゆとり先輩に涙を流しながら、ビルの隙間を脱出したら。


 時すでに遅し。

 既に1限目は始まっていて、体はマヨネーズ臭くて、ツインテールはベトベトで。

 心に深い傷が……うぅぅ。


  こうしてあたしは、1限目に遅刻したのです。

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