第198話

 人だかりができていた。


 といっても、このあたりを歩く人間は昼間だってすくない。たまたま迷いこんだひとりふたりが立ちどまってらせん階段を見あげているだけだ。数としてはひじょうにすくない。


 だが、その場にいるのは一般の人だかりだけじゃない。


 不良たちがどこからかあらわれては次から次へとらせん階段をのぼっていく。それがその場にいる人間たちの数をおおく見せていた。


 私は十メートルほど離れた位置から、そんなようすを眺めた。


 フロアを見あげた。


 いち……に……


 丹波は二階と三階のあいだのあたりに陣どっている。階段に立ち、したをむきのぼってくる不良たちに応戦している。


 らせん階段で戦う丹波を見ていると、こういうケンカは高低差が有利だということがよくわかる。


 そういえば、丹波はまえにケンカなんてただの手ぎわだといっていた。


 多対一の数的不利な状況をポジショニングでカヴァーする。たしかにこの階段ならば、ふたりが横にならんでのぼることはできない。それは前日、私も経験したので知っている。


 おそらく丹波はそれを見こしてここまで不良連中をおびきよせたのだろう。


 なんとなくだが、そう思った。

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