第88話

「どうした、初乃」


 背景には街の雑踏のような音がきこえる。私たちが今いる隔離された学校の屋上とは対照的に開放感のある音だ。


「きこえるか、転入生」


 手に持ったスマートフォンの画面側を私のほうにむけて矢野が叫ぶようにいった。


 私の叫び声を拾おうとしているようだ。思いどおりになるのは悔しいけれど、叫ぶ以外に私はできない。ほかのことをするよゆうもない。ただただのどから声をだすが、そのかんも男の子たちの無数の手が私のほうに伸びてきている。


「きゃああああああっ」


 私は叫んだ。


「この声、わかるか」


 冷静な口調で矢野がいう。電話のむこうの丹波はなにもこたえない。


「今から宮沢初乃を仲間全員でまわす。その声を特別におまえにきかせてやる。どちらにしてもまにあわないだろうが、たすけたかったら学校の屋上にこい。今すぐだ」


 そういってこちらをじっと見つめて、にやついた。私に覆いかぶさっている男の子たちもおなじような表情をこちらにむけていた。


 どうしようもない。


 だが、覚悟なんて決まるわけない。


 たすけてほしい。今すぐに。


 スマートフォンのなかの丹波の声はいった。

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