ダークでエルフな吸血鬼

夕凪真潮

プロローグ


  ひどく暗い夜。

 月明かりすら無い新月の夜。


 私はそんな夜に、一人で真っ暗な森の中を駆け抜けています。

 しかし私の目には、まるで昼間のように風景が飛び込んできているのです。


 もしここに夜目の利く他人がいて、私を見れば驚くに違いありません。


 いえ、別に怪しい格好をしている訳ではないですよ?


 着ているものは、柔らかいが意外と防御力のある革鎧、ミニの革のスカート、そして革のブーツ、至って普通の冒険者が着ているような格好なのです。

 身長はどちらかと言えば小さい部類に含まれます。

 百五十cmくらいですかね。


 ううっ、別に気にしてませんからっ!


 年もおばあちゃんという事でもありません。

 まだピチピチの十五才ですから。


 え? ピチピチって死語?


 それは置いておくとして。


 ちなみにルックスについても、悪くはありません。

 自分で言うのもなんですが、それなり以上かと自負しています。

 なんせ半分はエルフの血が混じっていますからね。


 ……そうなのです。驚く対象なのは私自身の種族なんです。


 エルフと言っても頭にダークのつく、更にハイもおまけについています。

 そう、ハイダークエルフという、ダークエルフの上位種なんです。


 そしてもう半分は……。

 この赤い目と口から伸びてる二本の牙で分かりますかね?


 ええ、吸血鬼なんです。

 しかも真祖と呼ばれる吸血鬼です。


 私は真祖の吸血鬼とハイダークエルフのハーフ、ダンピールなのです。


 お父さん、お母さん、なぜ吸血鬼とダークエルフが結婚したんですかね。

 そのせいで、私は苦労する人生を歩んでいるんですよ。

 そもそもお父さん、吸血鬼は子供を作るのではなく、お母さんの血を吸って仲間にするのが正しいあり方じゃないんですかね。


 いえ、生んでくれて感謝はしています。

 せっかくこの世に生を受けたのですから。


 でも生まれてすぐ森の中へ捨てられるなんて、人生ハードモードすぎるんじゃないですかね。

 私が前世の記憶を持っていなければ、そして吸血鬼という不死性、エルフの高い魔力が無ければ、今頃あの世からこの世界を眺めていたでしょう、きっと。



 そうそう、前世の記憶と言いましたが私は日本人でした。

 俗に言う転生という奴です。

 前世では三十路を迎えた、しがない独身リーマンでした。

 ええ、昔は男でした。今は女になっていますが。

 でもって、このご時勢で会社がつぶれて路頭に迷って、敢え無く首つって自殺致しました。


 しかし次の瞬間目に飛び込んできたのは、赤い目の長い牙を持つ推定お父さんと、肌黒い長い耳を持つ美貌の推定お母さんでした。

 そして私を抱きかかえているんです。


 幸い、私は前世で小説とか色々読むのが好きでした。

 これは転生だ! と即効思いつきました。


 前世では、路頭に迷った挙句自殺した身です。

 二回目の人生はできれば良い暮らしをしたいですよね。


 でも両親は何か物騒な事をいいやがったんですよ。

 あ、ここから回想です。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「まさかちゃんとダンピールが生まれてくるとはな」

「だよねー、あたしもきっと死産かなーって思ってたんだけどねっ」


 母ちゃん軽いな。

 というか、何で俺は言葉が分かるんだろう。

 日本語に聞こえるけど。

 周りを見ると、お城のような石で出来た壁の部屋だった。

 吸血鬼が住む城って事だな。

 これも良くある設定だ。



「吸血鬼は元々不死であり、わざわざ子孫を作る意味は少ない。作ったとしても殆どが死産になるのに、これはお前がハイダークエルフだからか?」

「あたしも結構長生きしているけど、こんなケース聞いたことないわよ。しっかしあたしたちの子供かぁ」


 へぇ。両親は吸血鬼とハイダークエルフなのか。


「捨てるか」

「ええっ!? せっかく生まれてきたのに!?」


 ええっ!? せっかく二回目の人生なのに!? 即効終了かよ!?


「まさかこの子を他の奴らに見せるわけにはいかんだろう」

「そうなんだけどね。せっかくお腹痛めて生んだのになぁ」

「それもまた経験だ」

「仕方ないねー、かわいそうだけど捨てちゃうか」


 いやいや、まてまて。話せば分かる!

 必死でそう訴えるが、うまく話せずぎゃーぎゃー言うだけだった。


 そして俺を抱きかかえたまま、城の裏にある山の奥へと入っていく。

 必死でじたばたするが、所詮赤ん坊だ。

 無駄な抵抗だった。


「この子、捨てられるってわかっているのかな? さっきから暴れているけど」

「本能で理解しているかもな」


 いや本能じゃなく、ちゃんと頭で理解してますってば!

 お願い捨てないで!

 しかし俺の心の奥底からの叫びは無視されたまま、十分くらいが経過した。

 そして、吸血鬼の男が立ち止まる。


「この辺でよかろう。この辺りは魔物が多いはずだ、せいぜい持って五分だろう」


 せいぜい五分って!? 俺の命そんなに軽いの?


「ごめんね、来世では幸せに生きるんだよー?」


 さっき転生したばかりですから!

 もう来世の話されても困る!


 そしてそのまま俺は捨てられたのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 以上、回想終わり。

 その後が大変でした。

 両親が去って一分もしないうちに、狼のような獣が来たのですよ。

 五分どころか一分も持たないって。


 恐怖に震えながら、私は狼の目を見つめていました。

 狼も私の目をじっと見つめてきます。

 じわじわと寄ってくる狼。そしてゆっくりと口を開けます。

 口の中は鋭い牙が並んでいて、涎が滴り落ちて私の顔にかかります。


 このまま食べられて、ジ・エンド。


 とはなりませんでした。

 なぜか顔を舐められていました。


 その時は分かりませんでしたが、それは吸血鬼の持つ能力「魅了(チャーム)」のせいでした。

 そう、最初に目を合わせた時に狼を魅了していたのです。

 そこから私は狼を従えて、何とか生き延びる事ができました。



 あれから十五年の月日が立ちました。


 今は冒険者として人間の町で生活しています。

 言葉遣いも、女っぽくなりました。

 だって男の言葉遣いだと変に思われますしね。

 平穏に過ごすには、目立つ行為は行わず、他の人と同じように生きていくのが賢い選択なのです。


 この世界、最初は吸血鬼やダークエルフって人間の敵かと思ってたんですが、違いました。

 仲良くはないですが、敵対とまでは行かない間柄だったのです。

 少ないですけど、人間の町に住んでいる吸血鬼やダークエルフも居ます。


 ……尤も、ダークエルフのダンピールなんていう珍しい存在は他に見たことがないので、存在自体が目立ちますけどねー。くすん。


 もう結構長く人間の町に住んでいますが、初対面の人は必ず振り返って私を確認してきます。

 最初は鬱陶しかったけど、最近はもう慣れました。



 そうそう、あとダークエルフはまだしも、吸血鬼は人から嫌われています。

 血を吸うからですね。

 でも殺すほど血を吸う訳ではありません。

 ダンピールである私なら精々一ヶ月に一回、献血一回分の血を吸えば満足できます。


 更に吸血鬼は血を吸っても、吸った相手を吸血鬼化させることはありません。

 やろうと思えば出来るらしいですけど、吸血鬼はプライドが高く、決して通りすがりの人間を自分の仲間にすることはないそうです。

 何せ吸血鬼化させるという事は、自分の血族、すなわち家族を増やす事となりますからね。


 まあそんなわけでダンピールの私は、自分の能力を駆使して冒険者をやっています。

 ちなみにランクはB-ですよ?

 十五歳という年齢にしては、かなり高いランクです。えっへん。

 それもこれも、吸血鬼の身体能力や特殊能力に加え、ダークエルフの魔力のおかげです。


 そして今日も私は冒険者のお仕事をする為に、深夜に移動している最中なのです。

 なにせハーフの吸血鬼ですから夜のほうが身体能力はあがるのです。

 三倍速になりますっ!



 あ、申し遅れました。

 私、ラルツの町に所属しているB-冒険者のアオイと申します。

 お気軽に、可憐な美少女冒険者のアオイさんと呼んでください。

 今後とも宜しくお願いしますね。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る