第十話
「さあキリキリ走るのである」
「あううぅぅぅ~、なんで私までっ」
「我々は真龍殿の住む島へ訪れた吸血鬼たち全員を連行してくるよう命ぜられているのである。異論があるならばアルベルド様に訴えるのである」
「私ダンピールなんで帰らさせていただきます」
「ならば貴様の身体を上下半分に切って、下半身だけ連行するのが良いであるか?」
「そこは上半身でしょ!? っていうか、半分にしないでください」
「ならば大人しく来るのである」
三世と思しき吸血鬼十名に取り囲まれた私とアリスさんは、腕を掴まれて引っ張られました。
序列三位の真祖ファムリードも九十名ほどの吸血鬼たちに囲まれ、私たちと同じように引っ張られています。
なぜこうなった?!
聖杯を手に入れた私たちは、魔力の切れたリリスさんを近くの町へ放置……もとい安静に寝かせ、介護人にリティさんを残して、三人だけで真龍の住む島へとやってきました。
もちろん泳いで渡るなんて事はしてません。
魅了(チャーム)を使って、穏便に船頭さんに乗せてきてもらいました。
そして島に降り立った時、そこには総勢百名くらいの吸血鬼たちが待ち構えていました。
その百名全てが二世と三世で占められていて、流石のファムリードでもこの人数に対抗できる訳もなく、あっさりと捕まってしまいました。
銀の武器を使えば私一人くらいなら逃げられたでしょうけど、アリスさんを置いていくわけにはいきませんしね。
「それで私たちはどこへ連れて行かれるんですか?」
私は先頭を歩く吸血鬼に尋ねてみました。
「アルベルド様の居城である」
「……それって序列一位の真祖?」
「その通りである」
うわー、つまり今から魔大陸へ連行されるということですよね。
つい先日まで大陸の反対側にある山頂に居たのに、今日はこれから魔大陸ですか。
大陸横断スーパークイズに参加した気分です。
さて、向かっている方角は私たちが船を乗りつけた場所とは反対側のようです。
彼らが乗ってきた船はそちら側に置いてあるのでしょう。
ということは、今からこの島を横断するということですよね。
ふぅ……こうなったらとことん行ってやります!
島を横断すると人間ならば半日以上はかかるでしょう。
でも全員吸血鬼です。
百名の吸血鬼が一斉に走り出すと、走る音の響きがやばいです。
訓練された軍隊が規律良く走っているかのようです。
そして森の中を二時間くらい走った頃、きらきらと太陽が反射する光りが見えてきました。
そろそろ到着ですかね。
そう思い海の方角を見ていると、ふと木々の隙間から鉄の建物が一瞬見えました。
鉄筋の建物ですか。この世界では珍しいですね。
というか、ここって無人島ですよね。真龍が住む島にあんな建物を建てて住むなんて狂気の沙汰じゃないですよね。
勇気のある人です。
そして森を抜けたとき、私の前に広がる海と、鉄製の船が視界に入ってきました。
あれ、戦艦ですね。
しかも一番天辺に、大日本帝国の旗が翻っていますよね。
…………私はタイムスリップでもしたのでしょうか?
「あの船って、まさかあなた達の船ですか?」
「船はアルベルド様とガーラド様のものである。我らはそれをお借りしているだけである」
「あんな巨大な戦艦をどうやって……」
「ガーラド様が設計したと聞いているのである」
序列二位の真祖ガーラド、そして私の父があれを設計したなんて……。
絶対元日本人でしょ!!!
もう決定ですっ!
数ヶ月前王都オーギルで見かけた、冷やし中華はじめました、というのぼりも、うちの父親が書いた奴に違いありません。
しかしうちの父親は二万歳のはずです。地球では二万年も昔となると、まだ石器時代です。
大きな丸い石に穴を開けた通貨を使っているような時代です。
マンモスのお肉がとてもおいしそうですよね。
……閑話休題。
つまり転生或いは転移というものは、年代が連動していないという事です。
そして冷やし中華ののぼり。冷やし中華ってそこまで昔からある食べ物じゃないですよね。
更に戦艦なんて第二次世界大戦の頃のものです。
ということは、うちの父親は昭和から平成の時代にこっちへ来たという事です。
でも戦艦を設計するなんて、相当戦艦好きな人か、もしくは実際に設計をしていたか、ですよね。
そう考えていると、とうとう戦艦のそばまで到着しました。
いえ正確には戦艦はそこそこ遠い沖に停泊しています。
ここからイカダに乗って、移動するのでしょう。
「……大きな船ですね」
「あれは戦艦って言うんですよ」
「アオイさんって物知りですね」
こちらの世界では大きな船という印象ですけど、実物の戦艦に比べると随分と小さいです。
いや実際に見たことはないですけど、実物は確か全長二百mとか三百mありましたよね。
あの船は四分の一という感じです。
でも動力源は何でしょうか。
ガソリンなんてないでしょうし、原子炉なんて言われた日には、科学発達しすぎだろ! と突っ込みを入れる必要あるでしょうし。
「あれは魔力を使って動くのである。大量の人員は必要なものの、攻撃力は高い船なのである」
私がじっと船を見ていると、私を引っ張ってきていた吸血鬼が何やら自慢げに語りだしました。
いくら真祖が居るとはいえ、百名もの吸血鬼が来た理由が分かりましたね。
燃料扱いの人員が大半ってところですか。
「でも百名の吸血鬼たちが戦ったほうが、あの船より総合的に強そうなんですけど」
「男の浪漫なのである」
浪漫は分かりますが、無駄な労力ですよね。
「これがノイマンテス兄弟の誇る船か。始めて乗ったが、大きくて気持ちの良い乗り物だな」
私たちは船に乗せられて、一路魔大陸へ出航しました。
意外と速度が出ているのに驚いていると、ファムリードは青い顔をしているものの、なぜかご満悦状態です。
そして甲板を見渡すと、何名もの吸血鬼たちもファムリードと同様に今にも吐きそうな状態です。
海の上ですし、吸血鬼には辛いんでしょう。
それでも彼らは必死に船を操作しています。
わざわざ苦手なところで、そこまで頑張らなくてもいいのに。
しかしこの船、スクリューが回る振動くらいしかありません。
さすが魔力で動かしているだけの事はあります。エコですね。
でも今頃動力源のところで、吸血鬼たちが何人も青い顔をしながら必死で大量の魔力を送っているのでしょう。
……そして半日後、魔大陸へと到着しました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます