第36話 剣道クラブ!

 月見が丘小学校には訳ありの子ども達が通っている。低学年のうちは先生に素直に従うが、高学年になると反抗する子も出てくる。それは、訳ありの子どもだけでなく、普通の人間の子ども同じだ。

「剣道クラブの説明会、今日の放課後でしたよね」

 鈴子先生は、説明会に参加する人数が集まれば良いなと心配している。1年1組の生徒達の何人かはクラブに入ると言っている子どももいるが、やはり首斬り男を怖がる保護者もいる。説明会で達雄先生に会えば、信頼できるとわかって貰えるのにとやきもきする。

「そうでござる。山田先生も一緒に説明会に出て下さるので、心丈夫でござるよ」

 鈴子先生の気持ちに少しも気づかず、おおらかに笑う達雄先生に、周りの先生達は大きな溜め息をついた。


 終りの会で、鈴子先生は剣道クラブの説明会があると、一言添えた。

「身体を鍛えるのは良いことです。少しでも興味のある人は体育館で剣道クラブの説明会をしますから、聞きに行って下さいね」

 男の子達は、前から剣道クラブに入ろうと話していたし、女の子の何人かも「はぁい!」と元気よく返事をした。


「珠子さんは剣道クラブに入らへんの?」

 小雪ちゃんは、ランドセルを背負いながら、鈴子先生が下宿しているし、首斬り男と大掃除したとか聞いているので、剣道クラブに入るものだと思っていたと尋ねる。

「私は冬の寒い体育館で、竹刀を振り回したりするのは後免やわ」

 そんなものかと、小雪ちゃんは不思議な気もするが、猫はコタツが好きだと言われると納得する。

「私は、やっとうには興味ないねん」

 おしゃれな緑ちゃんが竹刀を振り回す姿は、誰も想像できない。豆花ちゃんも習い事で忙がしいと走って帰ったので、三人はいつも通り話しながら帰る。

「何人ぐらい剣道クラブに入るんかな? 多い方がええよなぁ」

 緑ちゃんは、指を折りながら数える。1年1組は、首斬り男が怖くないと知ってるから剣道クラブに参加する子どもが多い。

「他のクラスや学年からは、あまり参加しないかもしれへんね」

 小雪ちゃんは、心配するが、珠子さんは大丈夫だろうと笑う。

「どうせ月謝も貰わへんのやから、人数が少なくても関係あれへんわ! それに、達雄先生のことを知ったら、少しずつ増えていくと思うわ。特に、親が入れたがると思うで」

 そうだと良いなと三人は話しながら帰った。


 鈴子先生は、自分には関係無いのだからと、体育館へ行くのを我慢して、冬休みの宿題の添削をしていた。

「あら? 鈴子先生は剣道クラブの説明会に行かれないのですか? 私達は、これから見学に行くのですよ」

 2組と3組のベテラン先生は、鈴子先生が行きたいのを我慢しているのを見越して、見学に誘った。

「皆さんが行かれるなら、私も見学に行こうかしら」

 そそくさと添削していた作文を片づけると、体育館へ早足で向かう鈴子先生の後ろから付いて行きながら、ベテラン先生達は「青春ねぇ!」と声を押し殺して笑った。


 体育館には1年1組の生徒が十人と数名の低学年の生徒、そして山田先生が声をかけた高学年の生徒が数名集まっていた。

「うちのクラスでも剣道クラブの宣伝はしたんやけどねぇ」

 申し訳なさそうなベテラン先生達に、鈴子先生は「とんでもない!」と手を振る。


「そろそろ時間やから、説明会を始めようかぁ? それとも、もう少し待つか?」

 山田先生も、もう少し集まるかと思っていたので、悪いなぁと頭をかく。

「いえ、少しずつ人数が増えていったら良いのでござる。さぁ、説明会を始めるでござるよ!」


 途中から、低学年の親を中心に説明を聞きに来た。やはり、首斬り男の剣道クラブに入らせるのが不安なのだろうと鈴子先生は、この中の何人が残ってくれるのか不安になる。

「達雄先生は、立派な方です」

 そう、鈴子先生は、つい口を出してしまう。

「そうみたいですねぇ。九助が剣道クラブに入りたいと言うから、どんな感じかと見に来ましたんや。少し、落ちついてくれたら良いと思うんですがなぁ」

 竹刀を持ってはしゃいで、達雄先生に叱られている九助くんを見て、溜め息をつく。

「家の子も、少しは堂々としてくれたらと思って入部させますんや」

 ねずみ男の忠吉くんは、高学年の生徒の「エイ! ヤァ!」という声にもビクンと飛び上がってる。

 鈴子先生は、1組の生徒達が元気よく竹刀を振り回しているのを見て、微笑む。人数は少なくても、活気に溢れている。


 剣道クラブは、低学年は火曜と木曜、高学年は水曜と金曜になった。三学期の間は、山田先生も指導を手伝ってくれるので、達雄先生は教師生活と剣道クラブに順調に馴染んでいった。





 

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