第22話 運動会の練習は大変!
自由研究の発表会や、工作の見学会などが終わると、運動会の練習が本格的になる。まだ大阪の9月は暑いので、小雪ちゃんは保健室で見学が多くなるが、他の子ども達は初めての運動会に張り切っている。
「さぁ、かけっこのタイムをはかります」
近頃の小学校では、タイムを事前に計って、速い子と遅い子を別に走らせるのだと、鈴子先生はベテラン先生達から聞いて驚いた。あまり運動神経が良くなかった鈴子先生は、自分が小学生の時もそうだったら良かったかもと考える。でも、ここは月見が丘小学校なのだ。別の理由がある。
「オリンピック選手になれそうね~」
動物系の妖怪の血をひく子ども達を、普通の人間の子ども達とかけっこさせては、真っ当な勝負にならないのだ。
「あのう、リレーの選手は……」
タイムだけでリレーの選手を選んだら、普通の人間の子ども達は誰も入らないのではと鈴子先生は心配する。
「ああ、裏ルールがあるのよ。訳ありの子と人間の子を同じ人数選ばないといけないの。今年は1年1組が赤だから、上の学年は白の組から大勢の訳ありの子どもが選ばれるわね」
3組のベテラン先生は、白組に有利かもと笑う。2年生からは、訳ありの子ども達も人間の子ども達とが混ざっているのだ。
「あら? 2組の赤組の子からもリレーの選手を選んで下さいね」
2組のベテラン先生が釘をさす。3組の先生は、そうだった! と額をペシャンと叩いた。
かけっこの順番と、リレーの選手選びは、どうにか終わった。大玉転がしは背の順に並ばせてみる。1組の子ども達と2組の赤組の子ども達とは、これが初顔合わせだ。3組のベテラン先生は、2組の白組の子ども達と3組の子ども達をてきぱきと並ばせた。しかし、鈴子先生は手間取っていた。2組のベテラン先生が手伝うが、子ども達は、お互いに少し距離をおいて立っている。
「さぁ、さっさと並びなさい!」
1組の横に、2組の子ども達を背の順に並ばせる。小雪ちゃんの後ろに2組の男の子が入り、豆花ちゃんは一緒に大玉転がしができなくなったと残念に思う。
「よろしくね」と微笑む小雪ちゃんに、2組の男の子は、ポッと頬を染める。1組は妖怪学級だと聞いていたが、とても可愛い子が妖怪の血をひいてるとは思えない。豆花ちゃんも、2組の女の子と組んでみて、それはそれで楽しそうだと思う。
「もしかして、商店街の和菓子屋さんの娘さん? 家はクリーニング屋をしてるんや」
家が近所だと知って、あれこれ話しているうちに、ピアノの先生も一緒だとわかって仲良くなる。
「子どもは、子ども同士が一番ですなぁ!」
運動会の練習を見学に来た田畑校長は、普通の人間の子ども達と和気あいあいと大玉転がしの練習をしている1組の子ども達を見て、月見が丘小学校を開校して良かったとぽんぽこ腹鼓を打った。
「2年生になったら、普通の人間の子ども達と一緒のクラスになるのです。かなり落ちついてきましたが、まだ不十分な面もあります。鈴子先生、頑張って下さい」
鈴子先生は、田畑校長の叱咤激励を真面目に受け止めた。しかし、少し、真面目に受け止め過ぎたかもしれない。泣き女の鈴子先生は、首斬り男が来てはいけないと、泣くことを自分で禁じている。そんな危うい精神状態なのに、運動会の練習は体力も削っていった。
「輪になって踊ろ!」は大きな輪になって、子ども達が手をつなぎ、キュッと真ん中に集まったり、大きく広がったりする簡単なダンスだ。2組や3組の子ども達は、幼稚園や保育所でお遊戯の経験があるから、直ぐに上手にできるようになったが、1組の子ども達はなかなかまとまった行動ができなかった。
「九助くん! そんなに隣の子の手を引っ張らないで!」
1組の子ども達は、元気が良すぎて、パァと広がる時に、隣の子のを引きずってしまう。
「音楽に合わせて、躍りましょう!」
音感の良い銀次郎くんなどは、踊りがあまりにも上手すぎて、かえって他の子と振りが合わない。そうこうしていると、小雪ちゃんは暑さでダウンしてしまう。
「鈴子先生、そんなにキッチリしなくても良いのよ。保護者は、自分の子しか見てないから、少々間違っても大丈夫よ」
「1年生なんだから、間違いも可愛いと、親も笑って見てくれるわ」
1年生なのだから、完璧でなくても大丈夫だと、ベテラン先生から慰めて貰うが、元々の生真面目さが自分を追い込んでいく。合同練習の時間だけでなく、昼休みなどにも練習をさせたりするが、どうも上達は見込めない。
「運動会って、練習が大変やなぁ」
子ども達も初めは楽しんでいたが、段々と嫌気がさしてきた。特に、昼休みにダンスの練習をさせられるのは、うんざりしている。
「男の子がちゃんと踊らへんから、私らも練習させられるんや!」
女の子達が文句をつけたのを黙っている男の子達では無い。
「そんなこと言うけど、この前は緑ちゃんが首を伸ばして、練習が中止したやん!」
天の邪鬼のお祖父ちゃん血が、言ってはいけない事を言わせてしまう。良くんは、口にした途端に、まずい! と後悔したのだが、天の邪鬼な態度で、ふん! と顔を上に向ける。
緑ちゃんは、音楽に合わせて踊っているうちに、ついつい首が伸びてしまったのが恥ずかしくて、泣き出してしまう。
「良くん、謝った方がいいよ」
猫娘の珠子ちゃんが頭ごなしに叱る前に、座敷わらしの孫の詫助くんが静かに良くんを諭す。
「ごめん、言いすぎた……」ポソッと良くんは謝ったが、緑ちゃんは泣き止まない。
「そんなん、気にすんな! 俺かて耳や尻尾が出たこともあるもん!」
ゴンギツネの銀次郎くんは、緑ちゃんが大好きなので、自分の失敗を言い出して慰める。
「そうだぁ~! 俺も隣の子を引っ張って、空に飛ばしそうになったぞ~」
だいだらぼっちの大介くんは、力が余って手を振っただけで、ぴゅ~んとぶっ飛びそうになったのだ。
「私も何回も気分が悪くなっては、練習を途中で止めたわ。緑ちゃんより、何回も止めちゃったんやで」
暑さが苦手な雪女の小雪ちゃんに言われると、緑ちゃんは自分が泣いてはいけない気になる。
「ほら、皆で頑張ろう!」
級長の珠子ちゃんが全員を円陣を組ませて、手を合わせさせる。
「頑張ろう!」と手をあげた子ども達を見た鈴子先生は、感動のあまり涙を溢した。
「ごめんなさいね。運動会をきちんとしようとばかり考えて、あなた達の事をなおざりにしていたわ。楽しくなければ、運動会の意味なんてないのに……」
ぽんぽこ狸の田畑校長は、少し新米の鈴子先生も成長したようだと、ぽんぽこ腹を叩いた。
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