Rune World ~ターニングポイント~

あきたしょうじ

第1話

マーパールは、二つの村落と、一つの港町で構成された

島である。鉱物の採掘から発展したこの島は、戦線から大

きく離れているという事もあり、遊学の地としても栄えて

きた。今この島は、港街をはじめと、様々な人種、職業の

坩堝となっている。


 トンテンカン トンテンカン


 島の西、カマットル岬から金鎚の音が響く。

 ここに住み着いている自称『鍛冶屋』の始業は、日が

昇り始めた頃よりはじまる。

 「ふぁああ……ロッケン、今日はいつになく早いな」

 寝癖でぼさぼさになった赤い髪をかきながら、1人の少

 年がハンマーの音のする方向へ向かう。

 洞穴の奥にある鍛冶場は、小規模ながら炉や打ち込み場

もあり、本格的な町工場程ででは無いが、『鍛冶屋』と名

乗れるくらいの設備が揃っている。

 赤毛の少年は壁にかけてあった作業着を背負い、ゴーグル

を首にかけると、鍛冶場を抜けて、岬の地下に降りる梯子に

向かう。

 「今日は急ぎの仕事があったかな?」

 梯子を降りていくと、潮風が体を通り過ぎていく。岬の

そと見からは判りにくいが、地下には隠れ入り江があり、

小さな船舶が入れるドッグが設けられている。

 「ジェンのところの船は、明後日って聞いてたけど」

 背負っていた作業着の袖を通しながら、赤毛の少年は桟

橋に近づく。

 「何だありゃ」

 見慣れない船影が視界に入る――そもそも『船』と呼ん

で良いものだろうか?赤毛の少年は首を傾げる。

 「これ、『船』なんだよな?」

 人がやっと一人乗れそうな細い船体?は、釣り用の小船

と考えても小さすぎる。折りたたまれた横に妙に長い帆?

は、どうやって風を受けるのか赤毛の少年には分からなか

った。

 「ゾット来てるなら、はやく手伝わんか」

 声とともに細い船体から、油まみれのボサボサした頭の

ロッケンが顔を出す。ゴーグルを外すと、無精髭をふんだ

んに蓄えて口元を歪ませながら手に持っていた汚れていた

手拭を赤毛の少年――ゾットに手渡す。

 「手伝うって――今日は学校がなぁ」

 「ほれ、そこの手袋つけんか。まだまだ未完成だから、

気をつけろよ」

 「これ、『帆』じゃねーのか」

 油まみれになった手拭をバケツに突っ込むとゾットは、

その端にかけてあった作業用の手袋をはめる。

 「あえていうなら、『人が空に近づく為の翼』っていっ

たところかな」

 ロッケンはそういうと、船体に軽く手を触れる。大雑把

な仕事を間近で見ているゾットからすると、不思議な感じ

がした。

 「『人が空に近づく為の翼』って、何いってんだ」

 「お前が小さい頃、何度もせがんでたじゃないか。だか

ら、他の仕事より先にまわしてもらったんだよ」

ロッケンがそういうと、ゾットは首を傾げる。こんな話だ

ったか――

 

 『魔法を使わずに、空を飛ぶ力がある』


――物心ついた時に聞いた夢物語。眠れぬ夜にロッケンが

話してくれて、何回もせがんで聞いたものである。学校に

いくようになってから、魔法の力がある人ならば空を飛ぶ

ができる事を知ってからは、記憶の外になっていた。

 「これが、それなのか」

 感慨深く呟き『翼』に軽く触れていると、ロッケンは再

び船体に潜っていく。

 「部品揃える為に、また忙しくなるぞ。なんせコイツは

骨董品という中でもまた別格だからな」

 「――なんでもするさ。そもそも柄にも無く学校にいこ

うと思った『切欠』が、まさか見れると思わなかったしね」

 そういうなり首にかけてあったはゴーグルを首にかける

と、手袋を強く握り締めた。

 「盛り上がってるところ申し訳ないけど、今日は学校に

いってから、メルベナのギルドだからな」

 そう言いながら近づいてくる人影がある――背はかなり

高く、背中まで無造作まで延ばした髪の毛が大きく揺れる。

学生服を大きく着崩し胸元が肌蹴ている。その下からは、

体格からも想像できる胸筋が見えている。それだけでも十

分目だってはいるのだが、それ以上に気をひくのは右手で

担いでいる大きな戦鎚であろう。顔立ちからするとゾット

と同年代には見えるが、体格には大きな差が見える。

 「そんなに出席日数やばかったっけ?ロイ」

 「やばいも何も出席だけでテストが無い授業は最低でも

出るってのが、教授との約束だろ?ロッケンと違って、う

ちの爺さんは厳しいんだよ」

 ゾットの言葉にロイは、首を振るう。彼の祖父がロイと

負けない体格をしているのは知っている――怒ったら無茶

苦茶怖いという事も。

 「お前と違って、俺はもの覚えも悪いからなぁ」

 大きな拳を振り上げた祖父を想像しながら、ロイは顔を

しかめる。見た目だけで想像するわけではないが、彼の家

は代々薬草製作と癒し手を生業としているのだが、初見で

信じてくれる人は稀である。

 「ターリィの後を継ぐ事を考えれば、学校で学ぶ事は悪

くないぞ。ギルドの仕事も学業ありきの前提だしな」

 ロッケンはロイの腰をポンっと叩き、ゾットの方を向く。

 「そういえば、教授が最近授業中の居眠りが酷いから、

起きるふりくらいししろとため息ついていたぞ」

 「『講義』だけで一日終わるというのなら、寝るって事

もないんだけど――」

 ゾットが言いかけたところで、ロッケンが睨みをきかせ

る。それを見たゾットは、続けて言葉にするのをやめた。

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