第49話

「うっわー! 人でいっぱいだよぅ!」




 時計塔の中はギルティメイズの受付場になっていたのですが、むいが驚くように凄い人だかりでしたわ。




「本当ですわ……迷宮に入れるようになるまで結構時間がかかりそうですわね」




 わたくしがそう言ってベンチに腰掛けようとしたとき、




「どうやらメイズ待ちの人じゃないみたいよ。ななよ、ほらこっちこっち」




 なんでしょう。


 みやかに手を引っ張られ、人をかき分けて進むと、やがて巨大なモニターが現れましたの。


 その真下にはメイズ第一層へのゲートがあり、案内NPCもいたのですが……ほんとですわ。ちょっとだけでそんなに並んでいませんの。




「だとしたらこの人だかりは一体……」


「あ。見て、歌雨様」


「……まぁ!」




 モニターを指差したれいらさん。


 そこにはダンジョン内の風景が映し出されていましたの。


 とは言いましても、夜の遊園地のようなダンジョンでしたわ。


 山のように現れているパンプキンゴーストや夜霧のコウモリ達でそこがダンジョンだと解ったのですが……それよりも。




「す、凄いにゃあ!」


「なんですの……あのお二人」




 スポットライトを浴びた観覧車の前で、踊るように敵を倒している二人組みにわたくし達は唖然としてしまいましたの。


 金色の刺繍が入った赤いブレザーに白いシャツ、そして白いプリーツスカート。


 二人ともいおさんと同じ制服を着ているのですが、どちらもばったばったと敵をなぎ倒していきますわ。




 埒が明かないと思ったのでしょうか、茶髪でツインテールの子は手を掲げたかと思うと、電磁魔法のようなもので敵を引き寄せてかき集めていますわ。


 そして集まったところを黒髪ポニーテールの子が氷魔法でいっせいに動きを固めましたの。




「……包帯男が一人が逃げ出した」


「ほんとうですわ。あれはマミーというモンスターですわね」




 あの敵にはたしか雷魔法は効かないはずですわ。だからあのような引き寄せる魔法は通用しないですのね。


 どうするのでしょうと思っていますと、やたらスカートの短いツインテールの子(立っていても見えるのではと思っちゃうくらい短いですわ)が、ぺろっと舌なめずりをしましたの。


 クラウチングスタートのポーズをとったかと思った次の瞬間――姿を消しましたわ!




「うっそ。なにあれ、テレポート?」


「……数メートルおきに姿を現している。おそらくそこまで長い距離はテレポート出来ないはず」


「それにしたって凄いにゃあ……」


「ううーむ。ありゃあ、ウィッチの高レベル魔法ですよぅ。それか何かのマジカルストーンでテレポスキルを習得したかですぅ」


「瞬間移動スキルなんてボスストーンくらいしかないはずなのっ!」




 もうすっかり画面に釘付けのわたくし達。


 やたらとかっこよく瞬間移動をしたツインテールの子は、ドロップキックで無理やりマミーを氷像たちの中へ押し込めましたの。


 華麗なその動きに唖然としていますと、その子がこちらをチラッと見てあっかんべーをしましたの。




「……わ、わたくしツインテールの子と目が合いましたのっ!」


「そんなわけないじゃん。これはギルティメイズの中のライブ映像みたいだけど、あっちからはこっちなんて見れるはずないわ」


「で、でも……」




 確かにあの子、わたくしを見て舌を出しましたの……。


 不思議に思ってますと、急に画面がフラッシュしましたわ。


 歌姫モードなのでしょうか、二人ともおへそに手を当てて同時に変身しましたの。


 その瞬間、きゃああーっ! と目を輝かせて大歓声をあげる周りの方々。 




「プリティとリズムの変身シーンっていつ見ても可愛くて素敵よねー」


「だって小ゲージじゃないもの。中ゲージのキューティハートの変身だからそりゃ凄いわよ」


「プリズムかわいいーっ!」


「ねぇねぇ、来週テレビに出演するみたいよ」


「VRMMO初のアイドルだっけ。MROでもヴァーチャルアイドルに力を入れるって言ってたもんね」


「そりゃあんだけ強くて可愛ければ人気もつくよねー。だって、これで第三層クリア一番乗りでしょ? しかもツインテールのリズムちゃんは運営のお気に入りみたいだしさー」


「リズムンねぇ。なにして気に入られたんだか……。あの子の腰つきっていうか、ダンス上手だけどちょっと、ね」


「ポニーテールのプリティは真面目そうでアイドルって感じしないけど、PSもあるし歌も上手いし。かっこ可愛いよねー」




 みなさん口々に興奮を語っていますわ。


 気付いたときには敵が全て倒されていましたの……。




「ボスとかいないのでしょうか?」


「見当たらなかったかも……」


「むいもそれ思ったよ! なんかザコばっかだったような気がするなー」




 とお喋りしていますと、




「……ボスは、さっきのマミーです。とは言っても巨大化する前に倒してしまいましたが」




 ゲートから粒子を撒き散らしながら不機嫌そうなポニーテールの方が現れましたの。




「えっ、あのその。わたくし……に話しかけていますの?」


「当然でしょう?」




 キッと睨まれる様に青い瞳で見つめられましたの。


 鋭い視線にただただわたくし怯えていますと、




「ちょっと、あんたあたしのななよに何か文句でもあるわけ!?」


「み、みやかちゃん。みんな見てるよ……」


「にゃにゃ! この雰囲気こわい、ですっ」




 ひーん! 周りの人が興味津々そうにわたくし達を見ていますの……。




「はいは~い。ちょっとごめんね。リズムたちぃ、この人たちとちょっとお話があるの」




 ゲートからもう一人のツインテールの子が現れましたわ。


 その方はヤッホーとわたくしとれいらさんに手を振って、




「あのさ。二人もギルティメイズに入るんでしょ? だったら先輩としてー、メイズの性質とか攻略ポイントを教えてあげよっかなって思っちゃったりぃ」


「……リズム。本当にこの軟弱そうな方たちがそうなのですか?」


「あっ、プリティちゃんめ。リズムンのことを疑ってんなー!? だったらその『目』で確かめてみれぶぁあ?」




 なんなのでしょう……れいらさんと体を寄せ合っていますと、突然黒髪ポニーテール――プリティさんの目が青く輝き出しましたの。




「……本当ですね。たしかにこの二人は私たちと同じ目を持っているみたいです」


「だぁから言ったのにぃ。ほんじゃま、ここじゃお話しにくいからさっそくギルティメイズにいっちゃお、そうしちゃお」




 笑顔でわたくしの手を恋人握りするリズムさんに、




「ちょ、ちょっと、何勝手に話進めてんのよ! ななよを連れていかないでっ! ていうか、その手の繋ぎ方やめなさいよっ」




 もう一方の手をみやかに引っ張られましたの。




「なぁに。うっさいなー。やっかましい女はモテないよ~?」


「な、な、なんですって! 飄々としやがって……あんた蜂の巣になりたいのっ!?」


「マジやばー。超怖いんですけどぉ、ていうか目も持ってないクセにこのリズムちゃんに勝てるとでもぉ、本気で思ってるのかなあ~。とにかくななよちゃんだっけ。このロリボインなお姫様をちょっとだけ貸してねっ」


「ななよは物じゃないのよっ、返しなさいよ!」


「やーだね。あっかんべーっ」




 ああ……こんな状況ですのに。なんでしょうこの気持ちの昂たかぶりは……お二人ともやめてくださいまし、わたくしの為に争わないでください!!


 ダメですわ、そんな……でへへへへ。


 恍惚の表情でえっへらえっへら笑っていますと、




「……あー。違う違う。そういうんじゃないから」


「ななよ。あんたねぇ……」




 あ、あら?


 お二人とも呆れた表情でわたくしを見ていますわ。




「い、いやですわね。ええっと。何かお話があるのなら、別にわたくしは構いませんわよ」


「歌雨様がいいなら、私もいい。それに姫が泣きそうだから話すならメイズの中にして欲しいかも」




 れいらさんが言うのもしょうがないですわ。


 さっきから観衆にすったもんだされていますもの。




「プリズムー! わたしと握手してくださいーっ」


「やあん、こっち向いてーっ」


「ちょっと、押さないでよ!!」




 などと、もう収拾がつかない状況ですわ。




「……わかりました。場所をメイズに変えましょう。君たちのユニット名とリーダーは誰ですか?」




 ユニット名とリーダー?


 わたくしが首を傾げると、シャノンがひらりと舞って、




「ですですぅ。ユニットを立ち上げたら名前をつけて、リーダーを決めなきゃいけないんですぅ」


「そういえばすっかり忘れてたわね。とは言ってもこの混乱してる状況で安易に決めたくもないわ。保留って形でいいかしら?」




 そう言うと、プリティさんは頷いて案内人のところまで行きましたの。




「なにをしているのでしょう?」


「それはねー。君達を優先的にメイズに入れて欲しいって交渉してると思うんだけどぉ……んふっ。あの案内人っておじさまキャラクターだよね」


「は、はあ。多分そうでしょうけど」


「ふうん……だったらぁ、お堅いプリティよりも、リズムちゃんがイったほうが早いかなぁ」




 またまたぺロリと舌なめずりをして案内人NPCの元へと走り寄っていくリズムさん。




「にゃにゃ。ひゃわぁ……すっごぉい」


「うっわ。な、なにあの子。むい直視できないよぉ」


「……ティエ。見ちゃダメかも」


「わあ、真っ暗なのーっ!?」




 こ、言葉で語るのも憚はばかられますわ。


 どう表現したらいいものでしょうか……色々と慣れていますわね、あの方。お、恐ろしい子ですの!




「ママ、あの方なんであんなにおじしゃんに体をくっつけてお話してるですぅ?」


「スキンシップがお好きな方なんでしょう……とにかく、話はついたようですわ」




 右奥の使われてなかったゲートがオープンし、おじさんの案内人にそこへと促されるわたくし達。




「ふんっ、なんか釈然としないけど。とりあえずギルティメイズに乗り込むわよ」


「うんっ!」




 五人と二人の妖精が同時に頷き、わたくし達はゲートへと思い切って飛び込みましたの。




☆ No.??? クエスト【ギルティメイズ・第一層 色欲アイランド】――開始!

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