第2話
流山女学院中学校。
十年前に起こった隕石衝突事件により日本は西領土のほとんどを失った。
かろうじて残った東日本だが、東京の被害も相当なものだったようで、今は首都を千葉県としている。
その千葉で屈指の名門中学校と呼ばれるのが流山女学院中学である。
通称ナガジョと呼ばれており、このお嬢様学校を中心とし、スクウェア状に配置されている四つのお嬢様学校についてだがこれもまたエリート中のエリートが――
「ふーん。なんだか面倒な学校に入っちゃいましたの」
ベッドに寝そべりながら自分の通う中学校のことについて軽く調べていたわたくしは、ノートパソコンをぱたんと閉めて溜め息をつきますの。
「やけにお上品な方たちばかりだと思ったらそういうことでしたの……。まったくもってめんどくせェ学校ですわ」
「あらあらぁ? ななよちゃんってば、今お下品な言葉を使っちゃったぁ~?」
「げっ!?」
いつからいたのでしょう、お姉様がドアから顔を覗かせていましたわ。
にこにこ笑顔……と言いますか、張り付いた笑顔と言いますか。なんとも恐ろしい笑顔で、
「うふふ。お風呂沸いちゃったから入ってきていいわよぉ~。三連休はおしまい、明日の六月一日からまた学校が始まるんでしょぉ」
「……そうですわ。だから調べてたんですの」
通ってから調べるというのもなんだかヘンテコな話ですが、BEO2にハマっていたわたくしはあまり学校について興味が無かったんですの。
もちろん学業に支障が出ない限りでゲームを嗜んでいたのですが、まさかなんとなくお姉様の薦めで受験した中学がこんなトンデモお嬢様学校だったなんて……。
「なんでこんな首都ど真ん中の名門中学にわたくしを入れたんですの?」
替えの下着やバスタオルを取り出しながら訊ねるわたくしに、
「えーっ。だってぇ、この制服がすっごーく可愛かったんだもぉん」
どこから取り出したのでしょうか、ナガジョの制服をじゃーんと取り出すお姉様。
ひらひらと短い赤いミニスカートと、フリルのついたノースリーブのブラウス。そして、
「やっぱりこのケープが可愛いわよねぇ」
さっきのサイトでもこのケープが要注目ポイントだって紹介してましたの。
大きいリボンのついた、わたくしの目から見ても可愛らしい前で留めるタイプのケープ。
なるほど、ですわ。そういう『理由』でここに入らされたんですのね、わたくし。
まあ、そもそもわたくしがVRMMOにハマりすぎたのが悪いのですけれども……。
「さあさあ、お風呂の時間よぉ」
と言いつつ、いそいそとわたくしの服を脱がせようとしてくる姉の手から逃れるようにお風呂場へと退避を決め込みますの。
◇◇◇
「はぁ。リアルでもステータスを振れたら真っ先にAGIに全振りしますのに」
脱衣所でそんなことを考えながらブラジャーのホックを外そうとした時、ピンッ! という留め金が飛んでいく音と共にブラが宙を舞いましたの。
「……また大きくなったみたいですわ」
本当、コンプレックスですの。
クラスでは一番前の小さい身長のくせにバストは一番大きいだなんて。
「こんなものいらねェのに、ですわ」
久々に覗いた鏡の中に映るのは、腰まで伸ばした茶髪ロングヘアの弱そうな女の子。
前髪はVRゴーグルを装着するのに鬱陶しいからと自分でぱっつんと切りましたの。
不安そうな自分の橙色の瞳から思わず目を背けて、
「やっぱり現実はダメダメなんですの……」
こんな身体とは正反対の屈強な漢――ウェザー・キングの頃が懐かしいですわ。
とは言ってもまだ二、三ヶ月くらいしか経っておりませんが。
たまにはログインしようかなとも思いましたが、学校が始まってからはなんだかんだでログイン出来ませんでしたの。
確か辞めたのは小学生最後の冬休みあたりだったでしょうか。
「またBEOのことばかり考えちゃってますの。これではまるで禁断症状ですわ」
湯船に潜ってぶくぶくと泡を出してやりますの。
水属性スキル【アクアブレス】……なんちゃって。
「はーあ。今頃第2位はわたくしの代わりをやれているのでしょうか。ちょっぴり気になりますわ」
お風呂からあがったわたくしは、無残な姿になったブラジャーは諦めてパンツだけ穿くと、さっさとベッドへと潜りましたの。
「……明日から学校。ちょっぴり憂鬱ですの」
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