手がかりを探しに〈1〉




 部屋に戻ったルファは今日の予定をココアに告げた。



「わざわざ馬に乗ってくの? 」


「うん。街の図書館は近いから馬でなくてもいいと思うんだけどね」


「でもあたい、あの星見師イヤだわ。嫌いなタイプ。あたい、今日はたくさん眠ることにするから行かない。留守番してるから二人で行ってきな」


「そう。仕方ないわね。じゃあゆっくり休んで。何か食べるもの置いておく?」


「いい。朝食べ過ぎちゃった。今日は寝て過ごすからいらない」


「じゃ、行ってくるね」


「行ってらっしゃい。頑張ってね、ルファ」


 てっきり調査のことかと思ったのだが。


「今日はアルを怒らせないようにすんのよ」


(え、そっち?)


「調査は頑張るけど、アルザークさんのこと怒らせない自信ないかも……」


 ルファは呟き、部屋を後にした。



 ♢♢♢



「焦げネコは?」


 厩舎の外でアルザークが尋ねた。


「今日は行かないって。疲れてるみたいで。あの、本当に馬で? 図書館は近いので歩いてもいいかと」


「馬のほうがいい。何かあっても早く動けるからな」


(そ、それは。やはり昨日、私が迷子になっていたせい?)


「ほら、乗れ」


 アルザークは自分の馬を連れてくるとルファを促した。


「え、私のルトスは?」


 ルトスはルファの愛馬の名だ。


 天文巡察官星読み、そして星護りの移動手段は一人につき一頭の馬。


 馬車などは使わない。


 ルファもアルザークも、自分の馬に乗って王都から移動して来た。



「今度は馬と一緒に迷子になられても困るからな。一頭で行った方が効率がいい。それに馬は苦手じゃないんだろ。乗馬が上手いって焦げネコ言ってたぞ」


「ココアが?」


 いつそんな話をしたのだろう。


「馬は好きだけど、初めて乗る子はやっぱり緊張します」



 アルザークの黒い愛馬はリュウという名だった。


 アルザークと共に戦場を経験しただけあって気性が荒いのか、最初の頃はルファが近付くだけでも興奮していた。


 おとなしく人懐こいルトスとは違い、アルザークにだけ懐いているような馬だった。


 それでも最近は少しだけ慣れてきていると思いたい。


「リュウ。今日はよろしくね」


 とりあえず挨拶をしてみると、リュウは意外にも穏やかな眼をルファに向け、スンと鼻を鳴らした。


「大丈夫よね………」


「大丈夫だ、ほらっ」


 ────えっ⁉



「わっ‼」



 アルザークにふわりと身体を持ち上げられ、横座りの姿勢でルファはリュウに乗せられた。


「ちゃんと座って乗っかれよ。転がり落ちないようにな」


 突然のことに驚いたが、この態勢では絶対すぐに落ちる可能性が高いので、ルファは慌てて鞍を跨ぎ、真っ直ぐに座り直した。


「座れたか?」


「は、はい」


 ルファが返事をした直後、腰の辺りが軽く揺れて、アルザークが馬に乗ったのがわかった。


 ルファの背後に。


(馬に二人乗りっ。しかも私が前って!)


 幼い頃以来、何年振りだろう。



 気付けば馬は緩やかに走り出していた。


「髪、邪魔だ。帽子」


「あ、はい」


 ルファは外套のフードを被った。


 空は昨日の淀んでいた色が嘘のような晴天だ。


 吹く風は冷たく、乱暴に頬を撫でていく。


 それなのに……。なんだか不思議と熱い。


 なぜだろう。


 今日は朝から不思議に想うことばかりだ。


 月星や奇現象の謎を考えているときとは全く違う、この感覚はなんだろう。


 上手く言い表せそうにない、心の中の見えない何かに、ルファは疑問ばかりを感じていた。



 

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