風を感じて【完結】
永才頌乃
序章・全ての始まり
第一話・掴む手
──ザアァァッ──……。
それは激しい雨の降る、晩秋の夜。
時刻は午前一時。
(こんな真夜中に誰だ?)
青年は椅子から腰を上げると、壁に掛けてあった
廊下を進んでいると、途中、白髪頭の小柄な老人と
「──ロイ殿」
寝間着姿の老人ロイは、青年の呼び掛けに顔を向けた。その表情は
七十五と高齢なロイは、この教会の司祭を務めている。
ロイは、同じ階級でありながら、ここでは自身の補佐と身の回りの世話を行ってくれる青年に口を開いた。
「トゥルフ殿。一体何処のどなただろうか……?」
「私が見て参ります。ロイ殿はこちらにいらして下さい」
眉尻を下げるロイに、トゥルフは安心させるために軽く笑んで見せると、彼をその場に残して足早に扉へと向かった。
目的の場所に着いたトゥルフは、
「? ……いない」
小さく
しかし、先程扉を叩いたと思われる人の姿など何処にも見当たらない。
(……
それにしても必死さを
「?」
先程開けた扉の影に、何かが置いてある事に気が付いたのだ。
闇に身を隠すその物体に近付くと、洋灯を翳した。
「っ!?」
置いてあったそれを見て、トゥルフは息を
慌ててそれを抱え上げる。
「……ぁぁ」
「……何という事を……!」
扉の脇に置いてあったのは、
赤児は、か細く泣き出した。
トゥルフは赤児を抱いて教会の中へ戻ると、
──この雨の中、長時間掛けてやって来たのだろう。
扉が叩かれるのとほぼ同時に置き去りにされたと思われる赤児。しかし、
「──トゥルフ殿、一体どなたで……っ!? その子は……?」
ロイは暖炉に薪を
トゥルフは手を止める事なく、けれども苦しげに顔を歪ませ口を開いた。
「……その子が置き去りにされていました」
ロイの目が見開かれる。
「何と……!!」
暖炉に薪を焼べ終えたトゥルフは揺り椅子に近付き、寝かせていた赤児を抱き上げた。そっと優しく自身の腕で包み込み、冷えた小さな身体を温める。
ロイは、気遣わしげに赤児を覗き込んだ。
二人の視線を一身に受ける赤児はもぞもぞと動くと、頬を優しく撫でるトゥルフの指を小さな手で、きゅっ、と力強く握った。
「──……」
トゥルフの目が嬉しげに細められる。ロイも穏やかな笑みを浮かべた。
「トゥルフ殿の事が、大層気に入ったようですな」
「……だと嬉しいのですが」
応えながら、赤児が動いた事で少し
(何か入っている……?)
御包みの中に一箇所、硬い場所があった。
訝しく思ったトゥルフはそこを探り、そして。
(……あった)
指に触れたそれを取り出したトゥルフは、軽く瞠目した。
「……これは」
御包みの中から取り出したそれは、親指の腹程の大きさの、雫の形をした
その紅玉には見た事もない家紋のような紋様が白く入れられている。
「……それは、もしかするとこの子の親が持たせた物やも知れませんな」
ロイがじっと首飾りを観察しながら呟く。
トゥルフはそれに頷きながら、その首飾りを脇にある
首に掛けてやっても良いが、万が一飲み込んでしまってはいけない。
トゥルフは御包みを整えると、赤児の頬に触れる。
──少し温まってきた。
その優しい温もりに安心したのか、小さな手でトゥルフの指を
「……
(──果たして、子供を
ロイの言葉にそう思いながらも、トゥルフは頷いた。
「……そうですね」
──それから半年以上が経過し。
結局、親と思われる者は誰一人として現れなかった。
そしてその
赤児は女の子であり、──全盲であった。
本来ならば孤児院に引き取られるはずの子。しかしトゥルフが養女として迎え入れた。
トゥルフはロイの世話や補佐をしながら、赤児に惜しみない愛情を
全盲は障害などではなく個性として考え、出来るだけやりたい事をさせ、自分の持ち
そして──。
赤児を養女として迎えて四年後、赤児を孫のように可愛がっていたロイが他界。
トゥルフは王都にある教会に
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