第10話 彼女たちの技術

 ステインさんが持ってきてくれた数々の料理を食べ終えて、空腹が満たされると色々な事が気になりだした。


 例えば、よく見慣れていた日本食について。食べてみると、見た目通りの味で特に変わったものではなく、食べ慣れたものだった。地球外からやって来たはずのステインさんが、一体どうやってこれらの料理を用意したのだろうか。


 もう一つは、俺が彼女に連絡してから料理が出てくるまでの早さについて。彼女が部屋に料理を持ってきてくれたのは、俺が彼女に連絡してから十分も時間が経っていなかった。それに、料理は全て出来立てのように熱々だったために、作り置きしていた料理をただ持って来たわけでも無いようだった。ならば一体いつ用意をしたのか。


「ごちそうさまでした」

「お粗末さまです」


 そして、今の言葉のように日本文化を良く理解しているような自然な返事をしてくれる。気になって仕方がなかったので、彼女に色々と尋ねてみる事にした。


「あの、この料理はステインさんが作ったんですか?」

「はい。私が作って持っていましたが、お口に合いましたか?」


 質問に対して少しだけ不安そうな表情をして答えるステインさん。彼女の表情は、嘘をついている様子は見当たらない。料理を作ったのが彼女ならば、色々と料理についての話を聞けるだろうと思い、続けて質問する。


「どの料理も、凄く美味しかったです。ただ、私の生まれ故郷の日本についてよく知っているなぁ、と思いまして」

「ありがとうございます。あの星で手に入れた情報を精査し、学びました」


 どうやら彼女は、地球に降りた時に手に入れた情報から既に色々と学んだらしい。特に、俺が日本人であることを知った彼女は俺を理解するために、手に入れた情報を基にして優先して日本の事について学んだと言った。


 日本について理解が深い理由が分かったし、彼女がとんでもなく高い情報処理の能力が有る事も分かった。


 俺が地球で発見されてから今までの間には、数日間しか経っていないはず。なのに、ステインさんは数日間で人類文化遺贈プロジェクトで記録されて残されていた情報に目を通して、そこから日本の情報を探しだして、学んでいったことになる。当然、残されていた情報の中には日本の事以外にも、全世界各国に関する大事な情報が大量に記録されていたはず。


 その中で、日本人の俺に対して有効であるだろう情報、料理のレシピだったり、日本文化についてを見つけ出し引き出してくるには、情報の価値を正しく判断する必要があるだろう。少なくとも、人類文化遺贈プロジェクトで残されていた情報全部を確認するだけでも、数人掛かりでも数十年は必要になるだろうと思われる量があった。ソレを彼女は調べきったと言うのか。




話題を少しだけ変えて、料理の事について他にも突っ込んで質問をする。

「料理に使った食材は、何処で手に入れたんですか?」

「あの星で素を見つけて、研究のために栽培してみた物を使ったんです」


 今食べた料理に使われている食料は、地球で保存されていた植物の種を宇宙船内で育成したり、家畜の遺伝子を基にして再生したものらしい。どうやら、地球で発見した情報の正確さを確認して記録として残すために、ついでとして元々地球人の俺の口に合う食べ物を用意するために、と色々と準備しているらしい。


「よかったら、研究中の物を一緒に見に行きますか? ついでに、船内の案内もしますよ」

 俺はステインさんの言葉に頷いて、宇宙船内にある研究室と呼ばれる場所へと案内される事となった。



------------------------------------------------------------------------



 案内された先にあったのは、見渡すかぎり広がる草原だった。


「な、何で宇宙船の中に、こんな広大な草原が有るんですか?」

 見上げると太陽のように見える眩しく光る物が輝いてて、空が青い。下を見ると、地面には僅かに生えた名も知らない草が一面に広がり草原になっている。


 どう考えても、宇宙船と呼ばれる場所の中には思えない。地球に飛ばされ戻って来たと言われたほうが信じられるぐらいの場所だった。


「手に入れた情報の真実性を確かめ研究するために、調べたり検証したり研究するための場所としてあの星の土地の環境を再現し、擬似的な草原を用意しました」


 ステインさんが手に持つ端末機を操作すると、今度は辺りが暗くなり頭上に月のように儚く輝く物が現れた。少し操作するだけで、草原は一気に夜の空間になってしまった。


「先ずは色々な調査をこの場所で行ってから、我々の技術に取り入れたり応用できるか調べ、最適な環境を研究する事が目的です」


 そう言って彼女が端末機を操作すると、再び疑似太陽が現れて辺りが明るくなる。


 宇宙を旅する彼女たちの持つ技術は、俺の考えていた以上に高い物だったらしい。どういった原理を用いてこの場所を用意したのか想像もつかないけれど、見せられた現象から非常に高い技術が必要であろう事だけは分かった。


「ついて来て下さい」

 回りをキョロキョロと見回しながら、ステインさんの後ろを歩き草原を進む。辺りに牛や馬、そして羊などの家畜が生きて放し飼いになっていた。見た限りでは、おかしな見た目や様子は無くて遺伝子情報から再生された物とは、見た限りでは判断できなかった。


 更に歩いて進むと、草原の中に有るには少し不釣り合いな、ある意味では合っているような家が見えてきた。


「日本の事について知るために、建物なども実際に作って見て原理を確認しているんです。こちらへどうぞ」

 そう言いながら、日本ではかやぶき家屋と呼ばれるような古い見た目の家の中に招き入れられた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る