奪王機の章

第二十八話:平穏な一年の始まりは

 しっかりと磨き上げられたアルカシードとフニルグニルを見上げ、流狼は今日も平穏である事をゆったりと嚙み締めた。

 大襲来の発生と、そして終結から三日が過ぎていた。流狼とルースは今日もまだトラヴィート王国に残っている。

 オルギオ達も王都に宿を求め、ガルゴッソ平原の後片付けを手伝っていた。オルギオ自身は城に招かれたのだが、特別扱いを固辞して兵士たちと同じ宿に泊まっている。流狼も合流しようとしたが、オルギオ達からもトラヴィートの重臣たちからも拒否されてしまった。


「喜んでくれているのは有難いんだけど」


 今回の魔獣は、魔術を吸収するという最悪の性質を有していた。王機兵が早期に動いていなければ間違いなく今より多くの死者を出していただろう。

 ベルフォースは大陸史において、建造されてから現在までほぼ完璧に連続稼働を続けている王機兵であるが、大襲来には積極的に対応してこなかったという。

 その理由は明確にはしていないというが、その結果として王機兵がこれほど早く大襲来に対応してくれるとはトラヴィートの国民も思っていなかったそうだ。

 王都に戻ってきた国民たちは、自分達の命と住居を護ってくれた新王ケオストスと、自分たち王機兵の乗り手を英雄と称えている。


「ずいぶんと熱狂的な人たちだなあ」

『だからってこれはちょっとやり過ぎだよね』


 彼らが熱しやすい気質なのは重々承知していたつもりなのだが、彼らの親愛の情の深いことと言ったらなかった。

 まず、有志を募って王機兵とル・カルヴィノを磨いて差し上げようと言い出した者があった。

 当日中に、希望者が王城に殺到したのだ。収拾がつかなくなったので、ひとまず当番制にすることで決着したが。

 両者の機体がきれいに磨き上げられているのはこれが理由だ。両方の機兵の周囲に組まれた足場には、朝から多数の人足が群がっており、今日も今日とて磨きに磨きをかけている。十日先まで当番が決まっているというが、流石にそれまで待っているつもりはない。

 流狼とルースが残っているのは、ケオストスが意識をなくして眠り続けているからだ。帰国するにしても、目を覚ましたケオストスに一言くらいは告げないと不義理になる。


「ケオストス王が目を覚まされたら挨拶して帰ろう。うん」

『予約の人たちはどうするんだい』

「品切れで入荷未定って事に……」

『何その限定品販売みたいなやつ』

「まるでそんな雰囲気じゃないか、って」


 軽く答えたアルに、そのまま乗っかりそうになって言葉を止める。

 言葉を止めて見つめると、アルもこちらを見つめて首をかしげていた。


「何でそんな事知ってるんだ? アル」

『そりゃ、ボク達の製作者とうさまはマスター達と同じように招かれ人だもの。そこら辺の文化は似通っていたんじゃないかな』

「そうなのか」

『ベルフォースと違って、一部の王機兵はこの世界で乗り手の条件に誰も合致しない場合が存在するからね。召喚陣によってそういう人物を呼び出した場合、ボク達サポートプログラムは円滑なコミュニケーションを取れるように色々と無駄な知識も入っているんだよ』

「ベルフォースと違って?」

『うん。ベルフォースはグロウィリアの大公家に生まれる女児にしか乗り手の条件が発生しない、って条件が付与されていてね。フニルグニルも最初の乗り手の子孫でないと条件が発生しない。王機兵は一機ごとに色々と乗り手に求める条件があるんだ』

「そういえば王機兵の話って、あまりちゃんと聞いてこなかったな」

『その話、今してもかまわないけど。後で一部の連中に恨まれないかな?』

「……その可能性はあるな」


 特にオルギオやディナスがこの話を聞きそびれた事を後で知れば、しつこく聞き出そうとしてくるのは想像に難くない。

 この場で確認するのは諦めて、流狼は中庭に足を向けた。

 ルースとその七人の奥方たちは、今日は王都の市街地を散策に出かけている。

 ルースをめぐって喧嘩を重ねながらも、なんだかんだと仲の良い七人である。

 ひとまず今日はその喧噪に巻き込まれる事はないなと安心して中庭で体を伸ばしていると、驚いたような声が聞こえてきた。


「おや、これは乗り手殿。朝早くから鍛錬ですか」

「……あなたは」


 柔らかい表情の青年が、車椅子に座ってこちらを見ていた。

 頬はこけ、頭髪は抜け落ちているが、その顔には見覚えがある。


「ケオストス王。そのお姿は」

「ばれてしまいましたか。だいぶ人相も変わったと思うのですが。ええ、身の丈に合わない規模で魔術を使い続けた代償というやつですよ」


 ようやく目覚めたのだろう。痛々しい姿のケオストスが、女官に車椅子を押されて中庭に出ていたのだ。


「しかし、見た目以上の後遺症はないとの事です。凝魔鉱を使った訳でもありませんから、ご安心ください」

『そうみたいだね。そのやつれ具合は感応波の使い過ぎというより、過度の集中が原因のようだ。安心して、マスター』

「そうですか。ならばしっかりと休養をお取りください」

「ええ。ところで精霊殿、感応波と言いますのは?」

『君達が魔力、と呼んでいるもののことさ。ボク達の製作者が観測してそう名付けたんだよ』

「そうでしたか」


 ゆるゆると息を吐き出したケオストスは、眩しそうに空を見上げた。

 流狼もその視線を追えば、青く美しい空が見える。


「皆様のお陰で、我が国は救われました。心より感謝申し上げます」

「恐縮です」


 前に会った時は父王の暴挙に憤り、その行為を痛罵していた彼だったが、今の彼は何とも穏やかだ。

 視線をケオストスの方に戻せば、目を軽く瞬かせて、首が軽く揺れ始めている。眠気が襲ってきたのだろう。


「まだ随分とお疲れの様子、今はお休みになられると良いでしょう」

「……これは無作法を申し訳ない。お言葉に甘える事としましょう」


 震える右腕を挙げて後ろの女官に示すケオストス、女官は流狼達に一礼すると、車椅子をゆっくりと動かし始める。


「正式な挨拶は、また……改めて……」

「はい、必ず」


 女官の背で見えないが、規則正しい小さな寝息を耳が拾った。

 無理をさせることはない。流狼はケオストスを見送ってから、ゆっくりと今日の鍛錬を始めるのだった。






 レオス帝国、謁見の間。

 東方戦線より帰国した皇太子イージエルドを迎えたのは、その家族たちだった。


「無事のご帰還、お待ちしておりました、兄上!」


 声を上げたのは、末弟のサンドリウスだ。齢十五のこの皇子は、大病を患ったことで帝位継承権を放棄しており、皇家直轄領の一部を分け与えられることが既に決まっている。

 そんなサンドリウスの頭を柔らかく撫で、イージエルドが父の前に跪く。


「申し訳ありません。四領連合相手に停滞しております」

「良い。四つの国と、王機兵を相手にしているのだ。押し返されぬだけ、そなたはよくやっている」


 答える皇帝リンコルドの声に怒りはない。平素より冷厳な顔を崩さない皇帝だが、家族の前でだけは穏やかな顔を見せる。


「それに、最優先すべきはタウラント大鉱床よ。ラポルドもこの状況下では連合参入を判断できまい。有益な一年を我々は得た」

「兄上。ようやく飛翔機兵の開発が始まったぞ」


 アルズベックはここでようやく兄に声をかけた。隣には陽与を侍らせているが、彼女にはあらかじめ問われない限り口を開かないように言い含めてある。


「披露するのは開戦ひと月前と決まった。楽しみにしていてくれ」

「ほう! ならば攻略がはかどるだろうな」

「父上。率いる兄上には実験の様子もお見せしたほうが良いかと思いますが」

「うむ、そうだな」


 リンコルドが思慮深げに顎鬚をしごく。先般、実験場で示した成果は、沈着な父をして興奮を隠せなくなるほどのものだった。

 アルズベックは父が頷くと確信していた。サンドリウスはにこにこと微笑んでいる。


「確かにイージエルドも見ておくべきだろう。空を制する機兵の心強さを」

「御意。兄上、王機兵超えの機兵については現在第四次の運動実験中だ。模擬戦でクルツィアに攻撃が当たる事も出てきた。順調だよ」

「そうか。ではこの一年はお前と一緒に機兵開発をするべきか」

「助かる。残り二機の王機兵も一年の猶予があれば実戦投入出来るだろう。四領連合方面にも配属できそうだ」

「それも良いな。だが、王機兵を超える機兵を開発すれば、連れて行く意味もないかもしれんぞ」

「そうあってほしいものだ。頼むぞ、息子たちよ」


 二人のやり取りを見守っていたリンコルドが、静かに口を挟んできた。話題を変えようという言外の意思表示だ。

 御意、と頭を下げる二人に満足げに頷き返し、皇帝は笑みを浮かべた。


「久しぶりに我が子が三人ともそろったのだ。このような堅苦しい場所ではなく、食事でもしながら土産話を聞かせておくれ」


 リンコルドはちらりと視線をサンドリウスに向けた。笑顔で大人しく話を聞いている末弟は、だが会話に参加したそうにうずうずしている。

 文官肌のサンドリウスには、今の会話は半分程度も理解できていなかっただろう。


「そうですね。兄上を独占してはよくない。では兄上、この話はまた日を改めて」

「ああ。さて、サンドリウス。元気にしていたようだな」

「は、はい! 兄上」

「では今日は、お前の知がどれほど高まったかを教えてもらうとしようか」


 イージエルドも当然それは察していて、末弟に悪戯な笑みを浮かべて見せた。


「は、はい兄上」

「気負う必要はないぞ。私もアルズベックも通った道だ」


 そこには、確かに幸せな家族のかたちがあった。


「ところで、イージエルド。そろそろそなたも嫁をだな――」

「ち、父上。その話はまた改めて――」







 サイアーが朝食を終えて宿を出ると、目を引く美男美女が待機状態のエネスレイクの機兵を見上げていた。

 男が一人と、それを囲む美女が複数。なんだか面白くない。

 と、こちらの視線に気づいたか、男がこちらに顔を向けた。驚いたような顔をするのでこちらも思わず眉根を寄せる。


「何か」

「おお、やはり帝国の脱走兵を討ち果たしたという男ではないか」

「何故知って……君はたしか」


 思い出した。オルギオについて登城した時に、流狼と一緒にいたところを見かけた男だ。

 確か、もう一機の王機兵の乗り手だった筈だ。


「王機兵の乗り手」

「そうだ。ルース・ノーエネミーという。よろしくな、ええと」

「僕はサイアー・エストラだ。よろしく、ルース」


 差し出される手を握ると、ルースは再び驚いたようだった。

 彼を取り囲む女性たちの一部が苛ついたような顔を見せるが、特に悪い事をした覚えもないので堂々としておく。


「成程、エネスレイクの英雄が連れ歩くだけの事はあるな」

「褒められるような事をした覚えはないけど」

「エネスレイク王国はレオス帝国の同盟国。我々リーングリーン・ザイン四領連合の敵にあたる国です。停戦状態とは言え、堂々と敵国の王機兵の乗り手と握手するような無神経さを皮肉っているのですよ」

「なるほど。どうやら君の奥方たちには嫌われたようだね」


 サイアーを見る女性たちの剣呑な視線。眉根を寄せたルースが目配せをすると、女性たちは見るからに不承不承といった様子でその場から少し離れた。


「すまないな。気分を悪くしたなら謝る」

「いいさ。僕はどうもいつも一言多いらしくてね」

「そう言ってもらえるとありがたい。ところで、帝国の脱走兵を討った機兵というのはどれなんだ? アルが造った特別なやつだと聞いたが」

「ああ、あれだよ。あの額にレンズがついているやつ」

「おぉ、あれか。ほぉ」


 ルースが今気づいたとばかりに目を向ける。

 明らかに周囲のエゼ級機兵とは違う形をしているのだが、不思議なほどに注目を浴びない。同じように形の違うノルレスは人目を惹くのに、だ。


「なんでこんな異質な機体に気づかなかったんだ、俺は?」

『相手に知覚されにくくなる魔術紋様を刻み込んであるようだ。視覚で感応波を感知する連中への対策と見た』


 声は足元から聞こえてきた。

 見れば、獣型のアルのような小型の機兵がルースの傍に居た。女性たちの陰で気づかなかったのだろうか。


『ああ、挨拶もしないで不躾だったな。獣王機フニルグニルの人工知能、フニルだ。よろしく頼む、サイアー』

「あ、ああ。アルだけじゃなかったんだな」

『生身のマスターを護る為にはな。機兵では入れない空間もある』

「なあ、サイアー」


 と、話には参加せずに機兵を見上げていたルースが声をかけてきた。


「何だい?」

「この機兵の名は?」

「シエド・トゥオクスと名付けた」

「そうか。うむ、決めた!」

「ん?」

「サイアー。ものは相談なんだが、俺たちの元に来ないか?」

「は?」

「ああ、機体ごと来いとは言わない。お前の身一つで来てくれればいい、出来る限りの待遇は用意しよう」


 ルースの突然の勧誘。意味も分からず、サイアーは絶句するほかなかった。






 フィリアはエネスレイクに戻った翌日から、エナとティモンを誘って訓練をするようになった。訓練自体は続けていたのだが、これまでは一人、あるいはユコや流狼くらいしか近づけさせなかったのだ。

 エネスリリアもそうだが、アルの造った機兵は従来の機兵とは運用思想から違っている。普通に機兵を動かすつもりでいては使いこなせないのだ。

 アル謹製のシミュレータを使って、模擬戦を行っている。

 エナとティモンは流石にアルズベックの随伴に選ばれるだけあって、操縦法のまるきり違う機兵にもだいぶすんなりと慣れている。今回も接近してきたエナの機兵――ナルエトスの一撃で機能停止判定が出る。


「くっ! また負けた!」

「それでも随分と動きがよくなりましたよ。そもそも一対一なら私の方が圧倒的に有利です。ねえ、ティモン?」

「そうですね。お嬢のナルエトスは硬い、重い、そのくせ速いって反則じみた機体ですから。アルの旦那はこれでもエトスライアの性能の一割もないとか嘘みたいな事を言ってましたが」

「反則って。確かに、実際に動かす時にはここまではできないでしょうけど」

「む、それは何故だ?」

「加速すれば体に重圧がかかりますから。正直、あんな急加速と急停止を実際に繰り返したら、お嬢の内臓がひっくり返りますって」


 呆れたような声をあげるティモンだが、実際にティモンはシミュレータではエナと五分の戦績を誇っている。

 エネスリリアとナルエトスの相性が悪いというのはフィリアも納得するところで、エナ相手には全敗だが、ティモン相手には一割程度は勝てているのだ。


「さて、では姫様、交代でお願いしますよ」

「うむ。勉強させてもらうとしよう」


 ティモンは既に自分のシミュレータを起動させていた。

 フィリアはモニターで二機の動きを確認するため、座っていたシミュレータから体を離した。


「では行きますよ、お嬢。『ラケスの緑獣』起動!」


 何度聞いても、ティモンの名付けた機兵の名前は奇妙に思える。だが、不思議とその動きは、名前の通り肉食獣のようなしなやかさを持っていた。


「ええ。いい加減しっかりと勝ち越しておかないとね」


 モニターの中でナルエトスと緑獣が激突する。ナルエトスのぶちかましを正面から受ければその時点で大破判定なのだが、緑獣は毎回異なる動きで巧みにそれを防いでいる。

 今回は上に避ける方法を選んだようだ。左側を前面に押し出して突っ込んでくるナルエトスのその左肩に飛び乗るように踏みつけ、勢いを借りて中空で一回転。さらに無防備なナルエトスの背中に火弾の魔術を放つ。


「甘いですよ、ティモン」


 火炎弾はナルエトスの首に直撃したが、爆発に態勢を崩される事もなく、急停止してハンマーを掴む。

 反転して振り抜かれるハンマーが横面を粉砕する前に、緑獣はバックステップを済ませている。


「お嬢、絶対それ設定がずるいですって!」

「ですが、アル殿の作ってくれたシミュレータですよ?」

「実際に乗って勝手が違っても知りませんからね!」


 傍で見ているフィリアは、ティモンの言葉に違和感を覚える。

 そう、アルが作ったシミュレータなのだ。それが、実際に機兵に乗った時に重圧や反動が異なるようなものにするだろうか。

 そして、自分たちの常識ではありえないことだとしても、何しろ王機兵の精霊なのだ。反動を見事に消してみせたとしても不思議ではなかった。

 ティモンはぶちぶちと文句を垂れ流しながらも、しっかりと反撃を重ねている。なんだかんだと言っても負けるつもりはないらしい。


「このっ!」

「おおっとアブナイ」

「くそ、少しは当たりなさいっ!」

「お嬢のナルエトスは硬いし重いし速いですけど、だからこそ動きは読みやすいんですよっと」


 ティモンは避けながら氷槍や石礫など、多彩な魔術をナルエトスの脚部に集中させている。

 だが、エナもそれを時に避け、あるいは防ぎ、直撃をなかなか許さない。


「いい加減、狙いが単調ですよティモン」

「その動く反則をどうにかするにはね!」


 緑獣の武力は決して貧弱ではないのだが、いかんせんナルエトスは硬すぎた。不意をついた程度では有効と判定されないのだ。

 エネスリリアはナルエトスの猛攻を防ぎきれずに負けてしまうのだが、緑獣は適切に対応してのける。


「ならばそろそろ、正面突破ぁっ!」


 気合一閃、ナルエトスがハンマーを振りかざして思い切り一歩を踏み出す。

 瞬間、その足元が滑る。


「土壌錬成、っと」

「しまっ――」


 加速をかけ始めたナルエトスは重量のほとんどを一歩目にかけていた。勢いよく泥と化した地面に足を取られ、転倒する。

 倒れた先ももちろん泥になっており、そのままずっぷりと沈み込む。

 ティモンは緑獣をこれ見よがしにナルエトスの背中に座らせると、なんとも嬉しそうな声で問うた。


「さ、お嬢。どうします?」

「く、くぅぅーっ! 降参、降参です!」

「はい勝利」


 満足そうにティモンが声を上げると同時に、モニターに映るナルエトスの姿が消えた。

 同時に、モニターが映らなくなる。どうやら連続使用の限界回数に達したようだ。エナが悔しそうにシミュレータから体を離す。

 際限なく訓練に熱中しないように、とのアルの工夫だというが、あと一歩の手応えを感じたところで終わることも多く、三人には決して好評ではない。


「しかし、そろそろ三人では頭打ちのような気がしてきますね」

「私はあまり勝てていないので、その辺りはよくわからないが」

「最初よりは良くなっている訳ですし、ルゥ殿とアル殿が戻ったら相談してみたらどうでしょう?」

「そうだな。ロウが戻ったら一勝くらいはしてみせよう」

「まあ、姫様もそろそろお嬢への対策が見えてきたんじゃないですかい?」


 最後にシミュレータから体を離したティモンが、にやにやと聞いてくる。


「うむ。学ぶところの多い一戦だったと思う。だがな、ティモン」

「なんですかね?」

「そういう勝ち誇り方をする辺り。お前、女性にもてないだろう」

「なっ⁉」


 横でエナまでもがうんうんと頷く。

 ティモンは愕然とした顔で見てくるが、フィリアは首を横に振った。


「なんてこった……」


 今日一番の敗北感を覚えたのは、もしかするとティモンなのかもしれなかった。

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